労働政策研究報告書No.129
「若者統合型社会的企業」の可能性と課題

平成23年3月31日

概要

研究の目的と方法

一般就労が困難な若者が一般労働市場に至るまでの中間的な労働市場として、あるいは継続的に働く場としての「社会的企業」の可能性を探るためインタビュー調査を実施した。

主な事実発見

1.第1章 若者統合型社会的企業の活動と組織の課題

若者支援の現場を持つ団体の支援は、(1) 居場所の提供、(2) 教育訓練の実施、(3) 柔軟な就労機会の提供、(4) 一般就労への移行支援、の4つの機能に分けられるが、しばしば複数の機能が併せ持たれており、当事者にとっては連続したステップとして意識されていたり、あるいは当事者のニーズによって同じ活動が別の機能を果たしているケースも見られた。こうした支援機能が持続するためには経営基盤が強固であることが望ましいが、実際には社会的企業の経営基盤はかなり脆弱である。社会的企業の経営基盤においては行政からの委託や指定管理者制度が重要ではあるものの、価格重視で決定されるためにしばしば社会的企業が疲弊する傾向が見られ、現在の行政との関係の在り方にも課題が見出された。

2.第2章 若者の移行支援機関としての社会的企業の特性と支援の方向性

他の団体にはあまり見られない社会的企業の意義とは、(1) 困難を抱える当事者の状況を認識し、(2) 公的な制度に先んじて課題を解決するため事業化し、(3) その課題を可視化し、制度化を要請する、という一連の流れにある。こうした観点から若者支援の分野における社会的企業は、非営利組織等との連続性をもつサード・セクターとしての特性を持ち、特に社会的課題を先駆的に認識、事業開発を行い、制度化を要請するというプロセスを内包した事業体であり、かつ実際の支援の最前線において個別的なニーズに対応した展開を行う可能性を持った主体であると位置づけられる。

3.第3章 自治体政策における若者の移行支援

京都府が青少年政策として実施している「『社会的ひきこもり』支援事業」、および兵庫県が労働部局の事業として実施している「生きがいしごとサポートセンター事業」に焦点づけた分析によれば、いずれの事例においても、(1) 民間支援機関の個性や特徴を生かす、(2) 民間支援機関同士の出会いの場を作る、(3) 国の政策を補完し、市町村の政策を標準化する、(4) 地方自治体内部の縦割りを超える、などの特徴が見られた。しかし安定的・継続的な支援の実施や、行政内外の事業横断的な連携、適切な評価指標、という点でまだ課題は小さくなかった。

4.第4章 若者自立支援事業のパートナーとしての条件の検討

今回調査対象となった現場を持つ団体を包括的に検討し、行政のパートナーとなりうる団体の特徴について(1) 支援団体の組織、(2) 支援の内容、(3) 有するネットワーク、という観点から探っている。

(1) 支援団体の組織の特徴は、被支援者の成長に合わせて組織の在り方を変えることができ、また今後変容が期待でき、恒常的に活動にかかわるスタッフを持っている団体である。(2) 支援の内容としては、複数の事業を持ち、被支援者の実態に沿った支援プログラムの開発ができている。また行政では届かなかった層に対する支援アプローチを持っており、被支援者の就労機会を何らかの事業を経営することで提供できている(当事者が常勤スタッフになっている場合もある)。(3) ネットワークについては、すでに地域社会で信頼を勝ち得ており、実績がある。これは資金の獲得という面でも重要である。また「若者統合型社会的企業」においては、ビジネスを行うことによって仕事を創出し、その仕事の中で体験就労の機会を作り出したり、一般就労との媒介を図るなど、中間的労働市場としての機能に力が入れられていた。当事者である若者は創出された仕事の中で、それぞれの段階やニーズにあわせた柔軟な働き方をすることができていた。当事者が段階を踏んで有償ボランティアに移行したり、常勤スタッフになっていく事例も複数見られ、「オルタナティブな働き方」に結びついている部分も見られる。仕事を作り出す側に回ることもあり、当事者による事業運営につながっていた。しかし一般就労については、半数以上が一般就労に移行している団体も少数ながら見られたものの、「若者統合型社会的企業」の努力よりも当事者のもともとの状態に左右される部分が大きく、「若者統合型社会的企業」から一般就労への移行率、あるいは正社員率についての知見の一般化は困難であった。

5.第5章 イギリス・イタリア・韓国における社会的企業政策

文献資料を用いて、先駆的に社会的企業を社会政策に取り入れた3カ国の代表的な政策(イギリスはCIC、イタリアは社会的協同組合、韓国は認証社会的企業)を紹介している。3カ国の社会的企業の法規定を見ると、就労支援、地域開発、対人社会サービスの提供といった社会的目的の達成のみではなく、事業的持続性や公的な位置づけに配慮した形での制度設計がなされている。

図表 調査対象組織の特徴(事業の特徴を抜粋)

図表 調査対象組織の特徴(事業の特徴を抜粋)/労働政策研究報告書No.129

政策的含意

次の5点を政策提案する。

  1. サービスの質の評価の確立、フルコスト・リカバリー、長期の契約など公共サービス契約の改革
  2. 認証制度等の導入(法的な位置づけの明確化)
  3. 政策形成への寄与についての評価と政策形成への積極的な参加
  4. 能力開発支援と中間支援組織への支援
  5. 「中間的な働き方」の法的位置づけ

政策への貢献

これまで労働問題としてはあまり注目されてこなかった若者層についての問題認識の提起。

本文

研究期間

平成22年度

執筆担当者

堀 有喜衣
労働政策研究・研修機構 副主任研究員
山口浩平
公益財団法人 生協総合研究所 研究員
櫻井純理
大阪地方自治研究センター研究員
小杉礼子
労働政策研究・研修機構 統括研究員
米澤 旦
日本学術振興会特別研究員/東京大学大学院
松本典子
駒澤大学専任講師
寺地幹人
労働政策研究・研修機構 臨時研究協力員

入手方法等

入手方法

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ご購入について
成果普及課 03(5903)6263 

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