資料シリーズ No.99
雇用調整助成金による雇用維持機能の量的効果に関する一考察
概要
研究の目的と方法
この研究は厚生労働省からの要請を受けて、リーマン・ショック後の急激な生産収縮・不況の中で、雇用調整助成金がどの程度まで失業の発生を防いだのかを、実証的に推定することを目的としたものである。
分析対象となる政府の雇用調整助成金のデータに制約があったため(その詳細は報告書に譲る)、代替的方法として当時、労働時間が大幅に減少したことに注目し、そうした労働時間の大幅減少がなければ、一層多くの雇用調整を行わねばならなかったはずと考えて、労働時間を加味した労働投入量(マン・アワー)の大幅減少の中に投影されている、雇用調整助成金の成果分を含む雇用保蔵の量を推定した。その上で、得られた数値を2つの傍証データと突き合わせ、総合的に判断して最終的な結論付けを行った。
主な事実発見
- 労働投入量を計算するに当たって、2008年9月の労働時間指数を1とすることにより、同年10月以降のマン・アワーの動きと実際の雇用者数との乖離幅が、労働時間による雇用調整の量的程度を表すこととなる。これにより、労働時間による雇用調整の量的規模として、製造業では2009年3月に最大幅約90万人を、また産業総計(非農林漁業。除く公務)では同年5月に最大値152万人を得た。(図表1、図表2)
- 傍証データとして、まず雇用調整助成金に係る行政データである「支給対象延べ被保険者数」(年度データ。ただし休業関連のみ)を12で除して、123万人(鉱工業)と153万人(公務を除く全産業)を得た。また2つ目の傍証データとして、雇用調整助成金を受給した事業所では労働者を休業させることを踏まえ、厚生労働省の「毎月勤労統計調査」の特に出勤日数のデータに着目し、出勤日数のデータとの整合性を推し量る簡単な計算作業を行った(詳細は報告書に譲る)。以上の2つの傍証データを加味して総合的に考え、雇用調整助成金の量的な雇用維持・確保効果として、最大可能な概数として、鉱工業では90万人から120万人前後、全産業(非農林漁業)では150万人前後と推定される旨、結論づけた。
- 本資料シリーズの主要目的は以上で達せられたが、最後に参考分析として、今回のリーマン・ショック後の雇用調整助成金の支給規模および当時の経済状況(特に鉱工業生産の状況)を明らかにするため、簡単な分析を行った。これにより、リーマン・ショック後の生産指数の大幅な減少は、製造業のほとんどの業種で、業種全体として雇用調整助成金の支給基準に合致するほどの大幅な生産減であり、過去の大不況と比べてもこれほど厳しい不況はなかったこと、また、こうした生産状況を受けて、平成21年度の雇用調整助成金の支給総額は、同じく過去に経験をしたことのないほど大規模なものであったこと(製造業の一部の業種では、業種全体として、支払った雇用保険料を上回るほどの額が支給されていた)などがわかった。
政策への貢献
リーマン・ショック後の大不況において、政府の重要な政策手段の一つについて、その量的な効果を測定できたことは大いに意義深いものと考えている。
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(単位:万人)
本文
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- 表紙・まえがき・執筆担当者・目次(PDF:555KB)
- 第1章 研究の目的と方法
第2章 リーマン・ショック後の雇用変動の背景分析
第3章 雇用調整助成金による雇用維持・確保効果(結論)
第4章 平成21年度の雇用調整助成金の規模とその背景
付注(PDF:667KB)
研究期間
平成23年度
執筆担当者
- 梅澤 眞一
- 労働政策研究・研修機構統括研究員