フォーカス:ビジネスと人権 ―アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスの取り組みの状況
アメリカ:「責任ある企業行動」を支援

本フォーカスの記事一覧をみる

 アメリカは2016年12月にビジネスと人権に関する「国家行動計画(National Action Plan、NAP)」(注1)を策定した。「責任ある企業行動(Responsible Business Conduct、RBC)」を支援する取り組みを中心に、幅広い対策を盛り込んでいる。また、カリフォルニア州ではこれに先立つ2010年9月にサプライチェーン透明化法(California Transparency inSupply Chains Act(注2))を制定。州内で事業を行う一定の企業に対し、サプライチェーン(製品供給網)における一次取引先の奴隷労働、人身売買排除の取り組みについて、ホームページ等で情報公開するよう規定している。

1.「 責任ある企業行動」とは

米国政府は「計画」の実施を通して、グローバルでより高い基準、より平等な競争の場の設定を推進し、米国企業が世界中のさまざまな環境で責任ある行動の目標を達成できるよう、政府内および官民の調整を強化するとの方針を掲げている。

「計画」によると、RBCは(1)企業の積極的な貢献が、経済、環境、社会の進歩をもたらすこと、(2)問題発生時に対処するだけでなく、起こりうる悪影響を認識して回避すること、という2つの側面が重視される。

その前提のうえで、「計画」は(1)世界に模範を示す、(2)さまざまな利害関係者(ステークホルダー)と協力する、(3)企業によるRBCの取り組みを支援する、(4) 積極的な行動を評価する、(5)救済へのアクセスを提供する、という5つの柱(カテゴリー)を設け、連邦政府などの具体的な取り組みを示している(表1)。以下、それぞれの取り組みの概要といくつかの具体例を紹介する。

表1:米国「国家行動計画」の5つの柱と主な内容
5つの柱 主な内容
世界に模範を示す
  • 国際機関での主導的役割の遂行
  • 連邦政府契約・請負業者に対する禁止事項の制定
  • 自由貿易協定における「労働条項」の設定
さまざまなステークホルダーと協力する
  • 企業、労働組合、市民団体、学識経験者らが参加する「マルチステークホルダー・イニシアチブ」の形成
  • 非営利組織への助成金の拠出
企業によるRBCの取り組みを支援する。
  • 「最悪の形態の児童労働に関する調査結果」「人身取引報告書」等の報告書の作成
  • 児童労働、強制労働の実態を参照できるツールの作成・提供
  • 上場企業の「紛争鉱物」使用状況の報告義務化
積極的な行動を評価する
  • 「イクバル・マシー賞」の表彰
救済へのアクセスを提供する
  • 連絡窓口(USNCP)の運営

(1) 国際機関、国際協定におけるリーダーシップ

(1)の「世界に模範を示す」ことに関しては、国連や経済協力開発機構(OECD)などの国際機関でのリーダーシップを通じてRBCを前進させるために、関連する国際規定の効果的な実施を提唱している。具体的には「国連『ビジネスと人権に関する指導原則』の普及」「OECD『多国籍企業行動指針』に基づく計画の策定」「国際労働機関(ILO)における雇用、労働者の権利の保護、その他重要な問題の対応への関与」「連邦政府の契約・請負業者における人身売買、強制労働、児童労働の防止」「自由貿易協定におけるRBCの推進」などに取り組むとしている。

ア 連邦政府契約業者の禁止事項

連邦政府の契約請負業者、下請業者に対する禁止事項は「連邦調達規則(Federal Acquisition Regulation)(注3)」に定めている。それによると、(1)契約期間中に人身売買の深刻な形態(severe forms of trafficking in persons)に関与すること、(2)商業的性行為(commercial sex acts)を調達すること、(3)契約の履行において強制労働を使用すること、(4)従業員のパスポートや運転免許証などの身分証明書を没収すること、(5)従業員の理解できる方式や言語で労働条件や勤務地、安全性等の基本的な情報を開示しない、あるいは虚偽の情報を伝えること、(6)採用する国の法律に反する採用担当者を使用すること、(7)従業員から採用手数料を徴収すること、(8)安全基準を満たさない住宅を手配、提供すること、(9)雇用契約書類を提供しないこと、従業員の理解できない言語を用いた書類を提供すること、などを禁じている。違反企業に対しては、契約の打ち切り、是正までの契約金支払いの延期、といった措置を講じる。米国外での調達または履行規模が50万ドルを超える連邦契約業者は、従業員の啓発や、報復のおそれなく違法行為を通報できる仕組みなどを「コンプライアンス(法令遵守)計画」にまとめ、ウェブサイトなどに公表する。

なお、国務省と3つの非営利組織(VeritéMade in a Free Worldthe Aspen Institute) は共同で、ウェブサイト ResponsibleSourcingTool.org(注4)を運営している。人身売買や強制労働のリスクの程度を国、産業、商品別に理解しやすいよう世界地図で表示するほか、上記「コンプライアンス計画」のひな型も提供している。

イ 自由貿易協定の「労働条項」

自由貿易協定については、2020年7月1日、「アメリカ・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」が発効した(注5)。同協定には「労働条項」を設け、「ILOが認める労働者の権利の確保」「労働法の効果的な施行」を締結国の義務と規定。また、メキシコにおける労働者の団結権や団体交渉権の確保について付属書に定め、その実効性を確保する仕組みとして「早期対応労働メカニズム(Rapid Response Labor Mechanism)」を導入した。

この制度は「米国・メキシコ間」および「カナダ・メキシコ間」という枠組で設定。締約国の領土内、あるいは両国間で取引される商品の製造、サービスの提供を行う施設を対象とし、優先する産業分野として、自動車や鉄鋼・アルミニウムなどをあげている。米国とカナダで対象になるのは、全国労働関係局(NLRB)、カナダ労使関係局(CIRB)から救済命令を出された特定の事業所に限っており、事実上、メキシコ労働者の権利を確保するための救済制度となっている。

救済の手続きは次のとおりである。相手国の工場や施設で労働者の権利を侵害する事案があると判断した国は事務局に申し立て、まず相手国政府に調査、是正を求める。この時点で、該当施設からの製品等の輸入決済を遅らせることができる。調査結果や是正措置について両国間の合意が得られない場合、専門家で構成する独立委員会が検証を行う。その結果、権利の侵害が認められた場合、申立国は相手国に通知のうえ、該当する施設で製造された商品等の関税優遇措置の停止といった救済策を講じる。米国の連邦労働省は通商代表部(USTR)などと共同で労働条項監視・執行のための省庁間労働委員会を設置してメカニズムを運営する。同委員会は加盟国の労働問題に関する関係者からの通報を匿名で受け付ける「ホットライン(注6)」を開設している。

USTRは21年5月12日、このメカニズムに基づきメキシコ政府に対して、ゼネラルモーターズ(GM)の労働者の権利が侵害されていないかどうかを調査するよう要請した。メキシコ・グアナファト州シラオのGM施設(トラック工場)で労働者の権利が侵害されてい るとの匿名の情報を受けての対応。メキシコ政府は7月8日、是正措置の実施について米政府と合意した。

(2)さまざまなステークホルダーとの協力

さまざまなステークホルダーとの協力については、企業、市民社会や労働分野の利害関係者、政府、学識者らが関与するマルチステークホルダー・イニシアチブ(MSI)または個別対話の形をとり、共通認識や専門知識への理解を深める。

例えば、非営利組織の公正労働協会(Fair Labor Association(注7))に助成金を拠出し、アパレル業界などの労働者の権利保護を支援している。同協会は1999年に当時のクリントン政権の主導で創設された。アパレル産業の企業や大学、消費者団体、人権擁護団体、労働組合などが加盟。国際労働基準に関する企業の「行動規範(Code of Conduct)」を策定し、参加企業に遵守を求めている。企業の行動を監視、監査する機能も備える。監査は第三者である外部評価者が毎年、約5%の施設をランダムに訪問し、その結果をホームページなどで公表している。加盟企業は規範の遵守状況を消費者にアピールし、ブランドの価値を高めることに活用している。

「行動規範」には以下の内容が含まれる。

  1. 労働者を尊重し、国内および国際的な労働・社会保障の法律・規制の下で権利を保護する雇用の規則・条件を採用、遵守すること。
  2. 性別、人種、宗教、年齢、障害、性的指向、国籍、政治的意見、社会集団または民族に基づいて、雇用、報酬、昇進、懲戒、解雇、退職を含む雇用差別の対象としないこと。
  3. 全ての従業員は敬意と尊厳をもって扱われるものとし、身体的、性的、心理的、または言葉による嫌がらせや虐待を受けてはならないこと。
  4. 強制労働を禁じること。
  5. 15歳未満または義務教育修了年齢のいずれか高い方の年齢未満の者は雇用しないこと。
  6. 結社の自由および団体交渉に対する従業員の権利を認識し、尊重すること。
  7. 仕事の過程で、または雇用主の施設の運営の結果として生じる、関連する、または発生する事故や健康への傷害を防ぐために、安全で健康的な職場環境を提供すること。職場が環境に与える悪影響を軽減するための責任ある措置を採用すること。
  8. 労働者が雇用されている国の法律で許可されている通常の時間外労働時間を超えて労働者に労働を要求してはならないこと。通常の労働時間は48時間を超えてはならず、7日ごとに少なくとも24時間連続して労働者に休息を与えること。全ての残業は合意に基づくものとすること。雇用主は定期的に残業を要求してはならず、全ての残業を割増料金で補償すること。例外的な状況を除いて、1週間の通常時間と残業時間の合計は60時間を超えてはならないこと。
  9. 雇用主は少なくとも最低賃金または適切な一般的賃金(the appropriate prevailing wage(注8)) のいずれか高い方を支払い、賃金に関する全ての法的 要件を遵守し、法律または契約によって要求される給付を提供すること。

(3)RBC支援の報告書やツールの作成、提供

米国政府はRBCを支援するため、世界の人権、労働者の権利などに関するレポートや企業が参照できるツールを作成、提供する

連邦労働省(国際労働局)は「最悪の形態の児童労働に関する調査結果」「児童労働または強制労働によって生産された商品リスト」「強制または年季奉公の児童労働(Forced or Indentured Child Labor)によって生産された製品リスト」の3種類の報告書を発表し、ホームページに掲載している(注9)。児童労働または強制労働によって生産された商品として、2020年9月30日現在で77カ国の155品目が指定されている。

これらのデータをスマートフォンから検索できる仕組みも開発している。インストールしたアプリから、①児童労働をなくすための各国の取り組み、②児童労働に関する各種データ、③児童労働または強制労働で生産された商品の一覧、④各国の法律と批准状況、⑤児童労働を終わらせるための方法、などを確認、参照できるようにしている。

このほか、国務省では「人身取引報告書(Trafficking in Persons Report)(注10)」を毎年発行し、各国の対応を4段階で評価している。

なお、本項目では、紛争地の鉱物資源が武装勢力の資金源となることを防ぐため、企業に製品の原材料、部品に用いる特定鉱物の産出地調査、報告を義務づけることにも言及している。この問題に関しては、2010年7月に「金融規制改革法(ドッド・フランク・ウォールストリート改革および消費者保護法、ドッド・フランク法)」を制定。同法第1502条により、上場企業に対し、紛争が続くコンゴ民主共和国(旧ザイール)とその周辺地域(注11)で産出される鉱物の調達・使用状況を調査、報告、開示するよう義務づけた(注12)。証券取引委員会(SEC)は2012年8月22日に最終規則(紛争鉱物開示規則)を採択し、その具体的手続きを提示。それによるとSEC登録企業(上場企業)は製品やその部品などに、コンゴ民主共和国またはその周辺地域で産出された鉱物(スズ、タンタル、タングステン、金)がないかどうかサプライチェーンを調査する。該当する鉱物が含まれている場合、第三者による監査のうえ、SECに報告し、ウェブサイトに公開する。

(4)表彰による啓発

連邦労働省は「児童労働撲滅のためのイクバル・マシー賞」を設け、児童労働廃絶に取り組む世界の団体や企業、個人などを表彰している。イクバル・マシーはパキスタンの子どもで、4歳でカーペット織の奴隷に売られ、10歳で逃亡して児童労働に反対する声をあげ、1995年に13歳で殺された。児童労働撲滅運動の象徴的存在になっている。2021年度は消費者団体や労働組合などでつくる米国の非営利団体「児童労働連盟(The Child Labor Coalition)」で農業の児童労働者保護、子どもの権利擁護活動に取り組むフローレス・ロペス氏とILOが受賞した(注13)

(5)救済メカニズム

(1)であげたOECD『多国籍企業行動指針』は加盟各国にNAP関連の紛争が生じた際の救済メカニズムとして、連絡窓口(National Contact Point)の設立を求めている。米国のNCP(USNCP)(注14)では苦情処理の申出があった時、まず、この紛争処理プロセスで解決しうる案件かどうかを審査(初期評価)する。審査にあたっては、①当事者の身元(会社の事業内容等)と問題への関心、②問題が重要で実証されているかどうか、③企業の活動と提起された問題との関連性、④裁判所の判決を含む、適用される法律および手続きとの関連性、⑤他の国内または国際的な手続きにおける同様の問題の取り扱い、⑥行動指針の目的と有効性、に基づき判断する。USNCPが紛争処理の対象案件と判断した場合、調停の場を提供し、第三者機関等を活用して紛争当事者間の合意を促す。調停終了までの期間は6カ月を目標に据えている。

USNCPは調停の結果(紛争当事者が調停の実施に同意しない場合はその理由等)を「最終声明」として発表する。調停が成功した場合、当事者は1年後、調停で合意した内容の履行状況などを報告する義務がある。

最近の事例をみると、米穀物大手カーギル社が2018年4月にトルコで14人の従業員を労働組合への加盟、組合活動への参加を理由に解雇したとして、国際食品労連(IUF)がUSNCPに紛争処理を申し出た。USNCPは「初期評価」で紛争処理プロセスの対象案件と認定。紛争調停の専門家らでつくる非営利団体Consensus Building Instituteと調停チームを結成した。だが意見聴取の結果、調停の実現は困難と判断。USNCPは20年3月20日、当事者間での継続対話を求める「最終声明」を出している。

2.2020年の米政府の取り組み

画像1

中国新疆ウイグル自治区ウルムチ市内

2020年は中国新疆ウイグル自治区における人権侵害を懸念した対応が目立った。国務省と財務省、商務省、国土安全保障省は7月、「新疆で強制労働やその他の人権侵害に従事する事業体にサプライチェーンが組み込まれた企業のリスクと考慮事項」と題する共同勧告を発表した(注15)。リスクの種類として、(1)当局向け監視ツールの開発を支援する、(2)強制労働に関与する新疆または中国の他の場所から調達された商品、労働力に依存する、(3)ウイグル人や他のイスラム教徒のマイノリティグループのメンバーを拘留する収容施設の建設に関与する、という3点を提示。こうしたリスクを抱える企業に対し、サプライチェーンにおける人権侵害への対処、防止のため、業界団体やステークホルダー団体と協力して調査、情報共有などに取り組むよう求めた。

さらに、国務省が9月、「監視技術および関連製品・サービスの取引に関する国連指導原則を備えるためのガイダンス(注16)」を策定。企業が製造、提供する「監視技術」が当局による人権弾圧の手段として悪用されることを防ぐため、「人権デューデリジェンス」のプロセスを案内している。それによると、企業はこのガイダンスを参照し、(1)悪用の恐れのある種類の商品やサービスの取引を行っていないかどうか、(2)サプライチェーンに組み込まれている企業のある地域で人権侵害が行われていないかどうか、を確認する。(1)で対象となる具体的な商品などについては、センサー、生体認証システム、位置情報の追跡などをリストアップ。(2)は参照すべき国際機関や政府機関等作成の報告書として、国務省の年次報告書『人権状況に関する国別報告書(注17)』などをあげている。

その後、米国政府は2020年12月2日、ウイグル人らを収容所に拘束し、強制労働を行わせているとして、新疆生産建設兵団が生産した綿製品等の輸入を禁止。21年1月13日には新疆ウイグル自治区からの綿製品、トマト製品の輸入を全面的に禁じる措置をとった。6月24日には、ポリシリコン(太陽光パネルの部材、合盛硅業社製)の輸入を止めた。1930年制定の関税法(Tariff Act、19U.S.C. §1307)は、強制労働等によって全部または一部が外国で採掘、生産、または製造された商品の輸入を禁じている。こうした商品の輸入は除外、差し押さえの対象となる。同法では、該当製品が国内消費者の需要を満たさない場合の例外規定を設けていたが、2016年制定の貿易円滑化および権利行使に関する法律(The Trade Facilitation and Trade Enforcement Act)により削除された。7月13日には国務省と連邦労働省、財務省、商務省、国土安全保障省、通商代表部が同自治区等におけるサプライチェーンと投資のリスクに関する勧告を発表。連邦議会上院は翌14日に同自治区での強制労働による製品全般の輸入を禁じる「ウイグル強制労働防止法案(Uyghur Forced Labor Prevention Act)」を可決した(法案の成立には、下院で可決のうえ大統領の署名が必要)。中国政府は強制労働の事実はないと反発している。

3.カリフォルニア州の「透明化法」

カリフォルニア州の「サプライチェーン透明化法」は2012年1月に施行された。同法は製造業者や小売業者に対し、直接の(一次)取引先における奴隷労働や人身売買排除の取り組みを公表するよう定めている。非公表企業に対する罰則は設けていないが、州司法長官が違反企業に対して差し止め救済を行うことができるとする条項もある。また、こうした課題に何の対策もとっていない、あるいは対策が遅れている企業は、消費者から忌避されたり、集団訴訟の対象になったりするおそれもある。州司法長官は同法違反に関する通報窓口(ウェブサイト・電話)を設け、消費者などからの情報提供に対応する体制をとっている。

同法の対象は、同州で事業を行い、世界の年間総売上が1億ドルを超える全ての小売業者および製造業者(同州の納税申告書でそれぞれの業種として識別されている事業者)としている。これらの事業者は次の5項目の実施の有無やその程度について、情報を公開する必要がある(表2)。

表2:カリフォルニア州「透明化法」が事業者に開示を義務づける5項目
①人身売買や奴隷労働のリスクを評価し、サプライチェーンの検証を行っているかどうか
②コンプライアンスを評価するために、サプライヤーへの監査を実施しているかどうか
③原材料の直接の供給者(一次取引先)がその国の法令を遵守しているかどうか
④基準を満たさない従業員や業者に対する社内の説明責任基準とその手続きを保持しているかどうか
⑤サプライチェーン内のリスクの軽減に直接責任を負う従業員や経営陣に研修を行っているかどうか

①人身売買や奴隷労働のリスクを評価し、対処するために、製品サプライチェーンの検証を行うこと。開示にあたっては、検証が第三者によって行われたかどうかを明記する。

②サプライチェーンにおける人身売買や奴隷労働に関する会社(当該企業)の基準に対するサプライヤーのコンプライアンスを評価するために、サプライヤーへの監査を実施すること。開示の際、独立した非通知の監査ではなかったかどうかを明らかにする。

③製品に組み込まれている原材料の直接の供給者(direct supplier、一次取引先)が、事業を行っている国の奴隷労働および人身売買排除に関する法令を遵守すること。

④奴隷労働と人身売買に関する会社(当該企業)の基準を満たしていない従業員または請負業者に対する社内の説明責任基準とその手続き(internal accountability standards and procedures)を保持すること。

⑤人身売買および奴隷労働について、特に製品のサプライチェーン内のリスクの軽減に直接責任を負う会社の従業員および経営陣に研修を行うこと。

情報公開の内容は、対象業者のウェブサイトの目立つ位置に、わかりやすいリンクとともに掲載する。ウェブサイトを持っていない場合、消費者からの開示請求を書面で受け取ってから30日以内に、書面により開示しなければならない。

例えばティファニー社では、ウェブサイトの「会社について(Our Company)」のカテゴリーに「CA Supply chains Act」のページを設け、同法に基づく情報公開内容を掲載している(注18)。それによると同社では「サプライヤー行動規範」を策定し、「全てのサプライヤーに求められる要件」として、「法令遵守」「自発的就労(強制労働の禁止など)」「児童労働」「若年就業者」「労働時間」「賃金および福利厚生」「公正かつ公平な取り扱い」「結社の自由」「苦情申立て方法と救済策」「健康・安全」「環境」などの取り組みを列挙。「全ての商品関連のサプライヤーおよびその他の商品やサービスの主要なサプライヤーは、人身売買および奴隷制に関する声明を含め、規範に署名し、それを遵守する必要がある」との対応をとっている。サプライヤーが要件を満たしていない場合、「是正措置を実施するためにそのサプライヤーと協力するためのあらゆる努力」がなされる。それでも要件を満たさない場合、関係は終了する可能性があるとの方針を示している。

参考資料

  • 高橋大祐(2017)「ビジネスと人権をめぐる各国法規制の動向と国別行動計画の役割 ―調達・開示に関するルール形成を中心に」『アジ研ワールド・トレンド』263巻
  • カリフォルニア州法務局、公正労働協会、国務省、通商代表部、ティファニー社、連邦労働省、各ウェブサイト

参考レート

2021年7月 フォーカス:ビジネスと人権 ―アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスの取り組みの状況国

関連情報