企業の社会的責任(CSR):概要1
ヨーロッパとアメリカのCSR展開の背景

企業の社会的責任(CSR)()は、欧米においては80年代、90年代のグローバル化、IT化の進展など企業を取り巻く環境の変化を背景に、「持続可能な発展」のための取り組みとして注目された。特に90年代以降、企業は、単なる経済主体としてではなく、広く社会とコミュニケーションをとり、適切に情報開示することで株主、取引先、消費者、従業員、地域住民といったステークホルダーとの信頼関係を築く社会的存在として位置付けられている。

欧米のCSRという場合、ヨーロッパとアメリカとではその展開に違いがみられる。CSRがその国の社会、文化と密接に関係している規範だからである。

ヨーロッパでは、2004年6月マルチステークホルダーフォーラムが開催され、CSR勧告が採択された。マルチステークホルダーフォーラムとは、地球規模での持続可能な発展をめざし、欧州委員会が実業界、労働組合、市民団体等々ステークホルダーとなりうるすべての人々を対象としてCSRの積極的展開とソーシャルダイアローグの実現のため開催するものである。この動きは、EUが2000年3月のリスボン会議で採択した目標、すなわち「経済成長、競争力や社会正義が相互に補強しあう社会の実現、EU諸国が世界で最も包括的で競争力のある社会を実現すること」をめざし、それをCSRを通じて達成するとを宣言したことに端を発している。

この方針のもとでEUは、2001年にグリーンペーパー、2002年には「持続可能な発展へのビジネスの貢献」に関するコミュニケーションペーパーを発表し、(1)企業の内部的要因によるアプローチ(倫理に基づく経営をはじめとする社会的責任統合マネジメント、人的資源管理や人材投資など労働生活の質の向上確保、役員会の説明責任なども含む)と(2)外部的要因に基づくアプローチ(雇用問題、社会的責任監査、エコ・ラベルやソーシャル・ラベルなどの制度の確立、社会的責任投資(SRI)の促進など)の両面を含めた総合的視点からのCSRの発展を提言している。マルチステークホルダーフォーラムでのCSR勧告の採択の背景にはEU域内の失業問題の深刻化や経済格差による社会の階層分化といった現状があることを指摘する声もある。そういった動きに歯止めをかける役割がCSRに期待されというものである。したがって、ヨーロッパにおいては、政府の行う雇用政策や低所得者層の救済を企業が社会的責任を果たすことで解決することが期待されるという傾向をみることができる。

一方、アメリカについては、エンロン、ワールドコムなど最近の企業不祥事の発覚による企業の内部統制、コンプライアンスの問題からCSRが注目された。

しかし、アメリカにおけるCSRの特徴は、むしろ個人の社会的関心を投資の意思決定に結びつける社会的責任投資(SRI)の展開にみることができる。SRI投資のための社会的なスクリーン指標からは、人道主義的な人権運動や60年代のベトナム反戦など学生運動をバックに発達した市民の意識の高まりや公正を追求する倫理観がアメリカのCSRの源流となっていることを知ることができる。

グローバル化、IT化の進展により、企業の内部統制の問題、コンプライアンス、サプライチェーンで問われる環境、労働や人権の問題等々、もはや一企業では解決できないさまざまな問題が顕在化された。国境を越えた規範であるCSRは、その意義をますます問われるようになっている。

参考

  1. 谷本寛治「CSR経営」中央経済社2004年
  2. 労働政策研究報告書No.45「グローバリゼーションと企業の社会的責任」2005年
  3. 濱口敬一郎『EUにおける企業の社会的責任(CSR)とコーポレートガバナンス』(経営民主ネットワーク東京シンポジウム2004)、2004年等

2006年2月 フォーカス: 企業の社会的責任(CSR)

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