企業の社会的責任(CSR):イギリス
政府主導によるCSRの積極的展開

英国の「社会統治(societal governance)システム」は、ある重大な出来事―例えば米国の独立戦争、フランス革命、東西ドイツ統一あるいは東欧の自由化など―を契機に生まれたものではない。自然に発生し歴史の蓄積を経て今日に至ったものである。これは英国の民法が600年間にわたり蓄積されてきた判例により構成されていることと共通している。CSRが「社会を方向づける(provides direction to society)システム」である以上、これもまた英国の社会風土、政治、企業哲学などを織り交ぜながら長い時間をかけて発展してきた。過去20年間は、高失業、都市の衰退、社会不安といった社会状況を背景にCSRが飛躍的に変化した時期だったと言える。

高失業がもたらした企業の社会的責任の高まり

1980年代、保守党政権下で行われた国営事業の民営化を核とする行政改革は、従来政府が主導してきた社会統治において、企業を表舞台に引き出す役割を果たした。これまでフィランソロピー(社会貢献)などを通じて黙示的に果たされてきた企業の社会的責任は、企業も積極的にコミュニティに関与すべきという認識の元、より明示的な役割を果たすようになった。明示的なCSRの出現をもたらす契機となったのは、1980年代初頭における失業の急増と都市衰退を背景とした暴動の波だった。企業は自らが営業を続けることへの社会的承認を守ることを目的にコミュニティへの関与を強める。さらに政府はこれらの動きを積極的に支援し、90年代になるとCSRへの関心はさらに高まりを見せた。そしてCSRの取り組む対象は、社会的責任ある製品と製法などの「社会的事業」や、社会的責任ある従業員関係などの「経営活動のあり方」といった次元にまで拡大していった。

CSRに対する政府支援策

活動の範囲を飛躍的に広げたCSRに対し、現在の労働党政権は積極的な支援策を展開している。ブレア首相は、貿易産業省(DTI)内にCSR担当の閣外大臣のポストを創設した。現在、DTIが行っているCSR支援策の特長は、「持続可能な開発」をキーワードに、CSR普及のための環境整備やインセンティブ供与といった「ソフトな規制」を行っている点が特色である。(注1)

具体的には、

  1. CSRのビジネスケース紹介。
  2. 企業による達成への表彰。
  3. パートナーシップ及び企業の参加支援。
    (共同出資、租税優遇措置、新規パートナーシップの仲介など)
  4. 政府の企業支援部署による助言。
  5. 英国及び国際的なCSR行動規範に関する合意の形成の促進。
  6. 報告及び製品ラベリングのための効果的な枠組みの設定促進。

などが挙げられる。

CSRを推進するCSR関連組織

これらのCSR推進策の実施にあたって重要な役割を担っているのがNPOやNGOなどの様々なCSR関連組織だ。CSRの推進に際して、多くの企業がこれらの組織のコンサルティングサービスを利用している。政府もこれらCSR関連組織による政府や企業とのパートナーシップがCSRの推進に不可欠であると認識しており、企業がこれらの組織を活用することを推奨している。

CSR関連組織の中でも特に知られているのが、チャールズ皇太子が総裁を務めるBusiness In The Community(BITC)だ。BITCは英国一部上場企業の8割が加盟する企業を会員とするNPOで、1982年の設立以降、幅広い活動を行っている。中でも2002年にBITCが開発した企業のCSRの進捗状況をはかる指標であるCorporate Responsibility Index(CRI)は国際的にも普及している。また、CSRに関連する各カテゴリーにおいて優秀な企業を表彰する「BITC優秀賞」については、DTIから補助金が出されているほか、判定にはDTIも参加している。

表1:DTI関連CSRプロジェクト

表1

出所:Jeremy Moon, Corporate Social Responsibility Across Europe, Springer, 2005

表2:各省庁(DTI以外)におけるCSRプロジェクト

表2

出所:Jeremy Moon, Corporate Social Responsibility Across Europe, Springer, 2005

2006年2月 フォーカス: 企業の社会的責任(CSR)

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