企業の社会的責任(CSR):デンマーク
奥行きのある労働市場とCSR

1.奥行きのある労働市場(Det rummelige arbejdsmarked)とCSR

「奥行きのある労働市場」とは、障害者や労働能力が低下した者がより広範に社会参加(就労)することができる社会を創造するための各種施策を象徴する概念で、1990年代中期からデンマークで実施されている社会福祉政策や労働市場政策の核をなす活性化路線や積極路線を支える理念である。

奥行きのある労働市場政策は、1)病気やその他の理由で解雇の危険があり、同時に他の職に就くことが困難な者に対して職を保持するための支援提供、2)長期失業者、労働能力が低下した者、移民二世の雇用促進という形で展開される。

デンマーク政府は1997年、奥行きのある労働市場に関する基本行動計画「全ての人々のための労働市場」を発表し、民間企業及び公的機関は労働能力が低下した者や移民二世等を対象とした雇用促進制度であるフレックス・ジョブ(注1)及びスコーネ・ジョブ(注2)をより積極的に活用し、その社会的責任を果たすよう呼びかけた。

当時の社会民主党主導による連立政府が掲げた「2005年を目処にフレックス・ジョブ及びスコーネ・ジョブに基づく雇用を3万~4万件創出」という目標は、1998年の雇用件数7841件から2003年には3万307件と約4倍に増加、さらに2005年においては対1998年比で5.6倍の4万4032件(内、フレックス・ジョブ:3万7992件、スコーネ・ジョブ:6040件)となっており、当初の政府目標は達成されている。

また、2000年4月1日、奥行きのある労働市場の創出を目指した各種プロジェクトに助成金を支給し、労働能力が低下した人々の社会参加を支援する「奥行きのある労働市場に関する社会福祉政策審議会」が社会省の諮問機関として同省内に設置された。

2.コペンハーゲン・センター

1998年、デンマーク政府は奥行きのある労働市場を創造するための一施策として、公的部門、民間企業、市民社会の協力関係を強化し、企業の社会的責任を推進することを目的としたコペンハーゲン・センターを開設した。

同センターは、企業の社会的貢献をより積極的に推し進めることを目的としたCSRネットワーク(16の国内企業により構成され、従業員総数は11万人以上)に加入する企業リーダーの事務局として機能している。また、同ネットワークは、企業の社会的責任に関する事案について、雇用担当大臣の諮問機関の役割も果たしている。

3.CSRネットワーク

a. ナショナル・ネットワーク

CSRナショナル・ネットワークは、労働市場における社会的弱者の疎外を予防するとともに、これらの人々をより積極的に社会や職場に統合するため、様々な事案について協議・提言・答申するフォーラムとして1996年に公的機関・民間企業のリーダー(理事長、社長、専務理事など)により設立された全国的な組織である。16社(従業員・職員は合わせて10万人以上)の代表により構成されるこのネットワークは、雇用大臣の諮問機関としての役割も果たしている。また、社会的責任を果たした企業・機関に対して、毎年「ネットワーク・プライズ(下記参照)」を授与している。

b. ローカル・ネットワーク

国内には6つのCSRローカル・ネットワークが結成されており、業界や分野を超え社会的貢献について協議することにより相互理解を深め、地域をベースに企業の社会的責任を果たすための活動を行っている。CSRローカル・ネットワークは、1)CSR首都圏ネットワーク(加盟企業・機関:88)、2)CSR北シェラン・ネットワーク(加盟企業・機関:58)、3)CSRフュン・ネットーワーク(加盟企業・機関:241)、4)CSR北ユラン・ネットワーク(加盟企業・機関:198)、5)CSR中部ユラン・ネットワーク(加盟企業・機関:259)、6)CSR南ユラン・ネットワーク(加盟企業・機関:295)により構成されており、メンバー企業・機関は年々増加の傾向である。

c. ネットワーク・プライズ

社会的責任を果たすために努力した企業に対し与えられる賞で、以下の基準に基づいて選考される。

  1. 企業の社会的責任に関する理念を具現化した、あるいは斬新的な施策・事業を実施し、この分野に新たな対話・考え方を生み出した。
  2. 社会的な責任を果たすため、組織が一丸となって将来的にも持続可能なプロジェクトを実施した。
  3. 評価基準とされるのは、社会的責任を果たすことを目指した各種施策の具体的な結果である。選考委員会は、各種施策がステークホルダー(顧客、株主、従業員・職員の他、取引先、地域住民等)にどれほど有利な結果をもたらしかを基準に評価する。
  4. 他社にとっても参考になり、同様な試みが他の職場でも可能であること。

なお、評価対象となる具体的な事項として、1)個々の従業員・職員の状況と労働能力を考慮し(例えば、高齢者、有子家庭、移民など)、組織改革あるいは仕事の手順を変えた、2)企業戦略に社会的配慮を組み入れ、社会的配慮と競争上の配慮が調和するよう努力した、3)公的機関、移民団体、労使団体と協力し、地域社会の社会的条件(生活・労働条件等)を改善するために努力した――などがあげられる。

2005年度のネットワーク・プライズは、1)Bombardier Transportation Denmark A/S(従業員50人以上の企業、運輸業)、2)Knud Engsig A/S(従業員50人未満の企業、事務用品卸業)、3)Specialisterne Aps(特別賞、通信業)が受賞している。

4.ソーシャル・インデックス

「ソーシャル・インデックス」は、民間企業や公的機関の社会的貢献度を評価するために旧労働省(現雇用省)が作成したツールで、従業員・職員及び地域社会に対して社会的責任を果たすということに対する首脳陣の姿勢、社会的責任に根ざした人事政策、労働能力が低下した従業員・職員(長期失業の危険がある)に対する配慮、高齢従業員・職員に対する配慮、家族に対する配慮を筆頭に、18の評価項目により構成されている。

企業・機関の代表者(従業員・職員及び管理職の代表5~10人)は、このツールを利用し、企業・機関の社会的責任の様々な側面について協議することができる。また、各項目については、それぞれ評価(100満点)することで、職場の社会貢献度の現状を把握することもできる。定期的に行われる評価作業により、社会貢献度に関する職場の実態が明らかにされ、新たな努力目標等が設定される。同ツールを活用する企業・機関は年々増加しており、社会的責任を果たすことに向けた企業や機関の具体的な対策や経験等を蓄積したCSRデンマーク・データベースも開設されている。

5.Sマーク

Sマークは、公的機関、民間企業の社会的貢献に関する認定制度で、申請に基づき「ソーシャル・インデックス事務局(注3)」が指名した独立審査機関による審査に合格した企業・機関に「認定証:Sマーク」が付与される。認定は3年間有効、Sマークは、求人広告、パンフレット、年次報告書、ウェブサイトなどに使用することができる。

これまで8つの企業・機関が「Sマーク」を受理している。

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