若者のキャリア形成と就職:中国
中国の新卒者への就業支援システムについて

大学進学率の上昇と大卒者の就職状況

現代中国の大学卒業者は就職難に直面している。政府統計によると、2001年以来大学卒業者の数は増加の一途であり、毎年27%ずつ増加を続け、5年間でその数は3倍となっており、教育水準は中国全体でみて明らかに向上している。

図1

また、企業側から見ても、経済成長10%の中国で人材は圧倒的に不足感が高く、企業も高度人材の養成を喫緊の課題として認識している。(注1)では、なぜ高度人材の候補生である大学生が就職難に直面しているのか。

中国人民大学労働人事院の鄭功成教授は、大学生の就職困難の原因を以下のとおり分析する。(注2)すなわち、都市と農村部の発展の違いが大学生の就業機会を制約しているといえるが、これに対して適切な政策措置がとられていないことで大学生の就業が困難をきたしているといえる。また、経済発展と調和した労働市場がいまだ成立していないことから、社会保障の問題とも連動して大学生の就職に影響を及ぼしている。とくに、経済社会における公平競争の原理が定着していないことから大学生がベンチャーなどにより創業することもなかなか難しいといえる。就職にかかる教育部門での問題としては、学校数の増加に伴い教育機会は増加したものの、経済社会の発展に合致した教育を施す体制の不十分さが指摘される。今後三年間で大企業から中小企業をあわせて多国籍企業の人材需要は70万人から80万人が見込まれ、外資企業や中国国内の優秀企業でも200万人から300万人の人材需要がある。向こう三年間で大学卒業生数は1100万人から1200万人であるが、多国籍企業に就職できるのはわずか10%に満たない計算になる。そして、就職市場自体が機能不全を起こしていることも大学生の就職困難の重大な原因といえる。企業側、大学生本人の学歴重視主義による偏った人材観が多くの大学生の就業機会を失わせている。何よりも家庭と本人の問題も大きい。子女の高等教育のための教育投資は日々巨大化している。現代中国は精鋭教育の時代から大衆化教育の段階に入ったが、大学生とその家族はその事実を認識していない。就職に対しても自らの実力を客観的に認識し、現実と向き合うことをせず高望みする傾向があるため、就職がうまくいかない。

人材市場システムと大卒の就職

中国の大学就職制度の変遷は、1980年までの国家のイニシアティブによる統一的計画的「職業分配」による計画型就業配置から、1990年代の新規学卒者が自身が就職先を探して決定する「自主的職業選択」による市場型就職配置への変更を経て現在に至っている。

中国では、教育改革が1980年代から推し進められた。改革の中で大学生の就職をめぐっては、国家が計画に基づき新入生を募集し国が学費を負担して卒業生を職場単位に配置する制度から、学費を自己負担して入学する学生を認める制度へと変更している。1989年、国家教育委員会「高等教育期間卒業生分配制度改革方案」の国務院での批准により、大学、雇用機関、学生のそれぞれの就職における主体性や選択の幅がさらに広げられる方向に改革されている。大学生が就職するためには、大学卒業予定者と企業との面談形式の就職説明会がこの時期に設けられ、これが、「人材交流会」として今日確立されている。90年代に入ると、少数の大学卒業生が国家の配置により就職し、大多数の大学卒業者は「自主的職業選択」に基づき就職するようになる。この流れを受け、「人材需給動向情報」や「就職相談・指導」「職業紹介などを行う仲介組織」が設けられるよう法律も整備されている。この一連の流れは、一九九七年には大多数の大学が、有償化と自主的就職の二本柱による「併軸制」(注3)を採用したことを前提に、さらに各級の卒業生就職主管部門・高等教育機関、雇用単位が就職活動にあたらなければ成らないことが法的に義務付けられたこと、九九年「高等教育法」による学生による学費の納入、大学の卒業生への就職市場、就職情報サービスの提供が義務付けられたことで現在の形に整備された。

大学生への就職斡旋システムには、(1)人材流動服務機構(国家計画部門、人事部門、教育部門による人材配置)、(2)大学の就職部門と(3)メディアによる求職の三つの流れがある。本来、人材流動服務機構は、既卒者、転職者のための就職斡旋をおこなう機構であるが、近年は外資系企業や私営企業など新興の企業のために新卒者の就職斡旋を積極的に行う。就職斡旋システムの概念は下記の体系図の通りである。

中国就職体系図

図2

(出所)日野みどり「中国の人材市場」より

大卒者の就職支援体制

学校側の大学生の就職支援プロセスは、(1)就職指導、(2)情報収集と公開、(3)「求人・求職顔合わせ」、(4)「双方向選択」就職選択、(5)就職計画の制定、(6)卒業生の資格審査、(7)派遣、(8)調整、(9)受け入れの段階の各ステージで構成される。学校側の就職指導については、国家の方針・規定に基づく指導、適切な職業選択のための指導などを行うことが法律で定められている。情報の収集公開では、「卒業生就職指導センター」が設けられ、情報提供や就職指導を行うこと、新卒者に均一に公開されること、最新で有効な情報、正確な情報が公開されることが条件とされている。また、就職指導のプロセスにおいて、中国では大学が学生の学業成績や総合的な大学生活を評価し、個人資料としてまとめ就職先に送付することが規定されている。就職先が内定した場合、卒業生、採用単位、大学の三者による「就職協議書」を締結することになっているが、これは就職計画策定の根拠や単位への派遣の根拠を示すもので、学生の自己紹介、就職したい理由などが記されており、採用者と被採用者の労使双方の権利と義務を定める労働契約書とは異なるものである。

大学生に就職情報を提供し、就職指導、就職関連手続きを行う大学就職支援のモデル的な存在としては、北京市の清華大学就職指導センターが有名である。

また、企業の優秀な学生の争奪戦は日々激しくなっており、企業が大学内に出向き、会社説明会形式で採用活動を行うキャンパスリクルートも最近活発化している。外資系企業が中心であるが、国内有名企業も積極的にキャンパスリクルートを活用するようになっている。会社概況の説明のほか、給与・福利、研修教育プログラム、採用職種、職務、条件の説明やOB.OG説明会などを実施しているということである。

就職支援システムの最近の課題としては、学校側の体制が、専門学科の設定が計画経済時代のままであり、行政事務の枠組みもかつての計画分配によるままで成り立っているため、実際の各大学の就職支援の現場では新たにシステムを構築しなければならず実効を伴うことがなかなか難しいというのが現状である。先述のように就職における需給のミスマッチが深刻化している今日、実際のニーズに則した現場レベルの改善が要求されている。

出所・資料

  • 日野みどり「中国の人材市場」創土社、2004年
  • 労働和社会保障部「中国労働」2006年4月

2006年12月 フォーカス: 若者のキャリア形成と就職

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