若者のキャリア形成と就職:イギリス
キャリアサービス機能が充実

高等教育の量的拡大

1970年代の終盤から80年代の前半にかけ若年の失業率は20%を超えるまでに上昇、就職難に直面した若者の多くが進学の道を選び、政府もまた教育改革の実施によって(注1)、高等教育の量的拡大を後押しした。この結果高等教育人口は急増し、1970年代の終わりに20%未満だった高等教育への進学率が2002年には63.1%にまで上昇した(図1)。(注2)現在、英国の大学には入学年齢、卒業年齢ともに幅広い学生が在学している。これは日本の高校卒業後、18~19歳で大学に入学し一定の修学年数(学士であれば4年間)で大学を卒業、就職するというパターンと大きく異なる。就業状況に関する統計によれば、経済の好調を受け大学卒業後の就職状況も良好で大卒者の55.1%が大学卒業から6カ月以内にフルタイムの職に就職している。(表2)。

就職までのプロセス

イギリスの大卒者はどのように職業生活へ移行するのか。就職活動について見ると、在学中に就職活動を行なう学生は減る傾向にあり、試験を終え、最終成績が出るまで就職活動をしない学生が約5割を占める。就職活動の内容は多い順に(1)求人票、求人情報誌、求人広告へ応募(2)企業に接触(3)大学のキャリアサービス(就職部)の利用(4)民間の職業紹介機関の利用、となっている。(注3)

採用にあたっては就業経験の有無が重視されるため、学生が在学中に何らかの就業経験をするのが一般的だ。約1割の学生が1年間の就業経験(インターンシップ)を経験するほか、3年の標準年限に1年の就業経験を組み込んだ4年コースを設ける大学もある。また企業が提供する「夏季インターンシップ」は、長期の夏季休暇の期間に行なう就業経験として学生からの人気も高く、募集は前年の11月などの早い時期から開始され、対象は最上級生が好まれる。

企業の大卒者採用について見ると大企業の場合、新規大卒者の採用ルートにあたる「学卒プログラム」によってリクルート活動を開始するのが一般的だ。多様な新卒者に合わせた柔軟な新卒採用が行なわれている。卒業後3年程度までは学卒プログラムの採用対象となるが、一定の成績(第2上級)(注4)を残していない者は採用外となるため、学生は在学中に成績を上げることに注力しなければならない。学卒プログラムで採用された場合、数年間の教育・訓練プログラムが用意されており、この間複数の仕事をローテーションで経験することになる。

キャリアサービスの利用者が増加

就職に関する様々な活動をサポートする部門が「キャリアサービス(就職部)」だ。キャリアサービスでは、就職に結びつくようなパートタイム職の斡旋や、履歴書の書き方、面接の受け方、学生個人のキャリア・プランニングや就職活動の管理、スキルアップのためのセミナーの開催、学士課程のカリキュラム開発への参加や助言などの業務を行なう。

欧州大陸10カ国と比較して、イギリスでは大学でのキャリアサービスが発達しているといわれ、キャリアサービスを利用したと答えた学生は37%にのぼる(欧州大陸10カ国の平均は17%)(表3)。この背景としては、企業の採用基準で「人柄」が重視されており、その際の信頼に足る情報流通経路として大学のキャリアサービスが活用されていることがある。

イギリスの高等教育制度

義務教育終了後の進路は、(1)シックスフォーム(注5)等に進み大学をめざす(2)継続教育カレッジ等に進み職業に関連した知識や技能の習得を図る(3)養成訓練制度に進んで働きながら技能を身につける(4)NVQ資格の取得をめざす(5)就職する、といったコースに大別できる。大学は科目の分野によって3年コースと4年コースがある。純学問分野を除いては4年コースが多く、3年目は関係分野の職場で仕事をし、また外国語専攻の学生はその国の大学に入学、あるいは現地で仕事につくなど、最終学年は大学に戻り、実践経験に基づいた卒業論文を書くのが一般的なパターンである。学部を終了した学生は学士の資格を習得する。

図1 高等教育の進学者数(1992~2002年)

資料出所:JILPTデータブック国際労働比較2006

注:フルタイム進学者は全日の学習を前提とするコースの在学者、パートタイム進学者は1日の1部あるいは週の数日を学習にあてるコースの在学者を指す。

出所:高等教育統計局(HESA)HPを基に作成

資料:JILPT高等教育と人材育成の日英比較

参考資料

  • 注)本稿の内容は、JILPT『高等教育と人材育成の日英比較』—企業インタビューから見る採用・育成と大学教育の関係—労働政策報告書No.38に詳しい。
  • JILPT『若者就業支援の現状と課題—イギリスにおける支援の展開と日本の若者の実態分析から—』No38(2005)
  • 文部科学省、『平成15年度文部科学白書』
  • 吉川裕美子、イギリス高等教育の学位統一への動き—高等教育資格枠組み導入の背景、概要、展望—
  • 多田順子、イギリスの大学におけるエンプロイヤビリティ向上への取り組み─ヨーク大学の「ヨーク賞」プログラムを通して─

2006年12月 フォーカス: 若者のキャリア形成と就職

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