EU憲法批准否決の波紋:アメリカ
EUの将来を注視するアメリカ

アメリカ政府は政治的・経済的に強いEUを期待

アメリカ政府は、基本的に欧州憲法の論議には踏み込まず、今回のフランス・オランダの国民投票否決によって、EUとアメリカの関係に変化が生じることはないとしている。その中で国務省は、中東和平など世界の諸問題にともに取り組むパートナーとして、強いEUを望むとの意向を示した。一方、財務省高官は、アメリカの記録的貿易赤字、経常収支赤字問題の改善のためにもEUの経済成長を期待すると述べた。

メディアの論調~求められる労働市場・社会保障改革

EUの将来を注視するアメリカでは、岐路に立たされたEUの動向をめぐり、様々な反響が起きている。否決の意味するところは「EUの終焉」などと危機を強調する説もあれば、市場・通貨・政治の統合を目指すEUのこれまでの実績を評価し、終焉説を否定するものもある。そのなかで最も現実的な視点として、EU各国における労働市場の弾力化や社会保障制度改革を推進する必要性を強調する論調があることは見逃せない。

EUの今後について危機感を強調する論調の中でワシントンポスト紙は、1)人口減にも関わらず移民排斥を志向している、2)手厚い失業保険など、高度の社会保障が成長の足かせとなっている、3)アメリカに比べ中高年の就業率が低い――などと課題を列挙。「早期退職が多く、失業率が高く、長期休暇の取得が特徴とされるヨーロッパの労働市場・慣行は、強い経済があって初めて可能だ」とし、景気回復のために労働市場・社会保障改革の断行を指摘した。

EU東方拡大へのアメリカの思惑

アメリカのEU東方拡大に対する期待には、旧社会主義圏のウクライナやイスラム圏のトルコなどをEUに受け入れさせ、民主主義と市場経済を世界に広めることがあるとされる(読売新聞2005年6月19日付、慶應義塾大学・竹森教授)。EU内においてトルコ加盟問題は、移民の増加や反イスラム感情などが懸念材料となり、反発が根強い。今回の国民投票の否決によってEUの拡大にブレーキがかかり、この秋の開始が予定されているトルコの加盟交渉にも影響が及びかねない状況になった。トルコのEU加盟を後押しするアメリカでは、これを懸念する論調が多い。

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