個人請負の分類基準案を再提示
 ―ギグ・ワーカー保護に向け、連邦労働省

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  • 国別労働トピック:2022年10月

連邦労働省は10月11日、配車や配達などで単発の仕事を行う「ギグ・ワーカー」らについて、公正労働基準法(FLSA)のもとで保護の対象となる雇用労働者(Employees)か、その対象外となる個人請負事業主(Independent Contractor)かの判断基準を示す連邦規則案を発表した。「仕事をコントロールできるか」など2つの要素を中心に判断するとしたトランプ前政権時代の規則をあらためて撤回。より多くの要素を踏まえて総合的に判断する方針を示し、雇用労働者と分類して保護する可能性を拡げた。パブリックコメントを募ったうえで施行する予定にしている。

前政権の規則案

労働者が雇用労働者ではなく個人請負労働者として分類されると、企業はFLSAで義務付ける最低賃金や残業代支払いなどの対象から外れる。スマートフォンのアプリを通して配車や配達などの単発の依頼に応じて働く「ギグ・ワーカー」が増加するなかで、こうした労働者をどのような基準で分類し、その権利をどう保護するかが全国的な課題になっている。

連邦労働省はトランプ前政権時代の2020年9月22日、FLSAに基づく雇用労働者及び個人請負事業主の地位を明確にするとして新たな連邦規則案を発表した。そこでは「仕事を自分でどの程度コントロールできるか」と「自らの提案や投資で収益を増やす、あるいは損害を被る機会がどれだけあるか」という2つの要因を中心に判断すると規定した。

カリフォルニア州が2020年1月に施行した改正州労働法典(AB5法)は、個人請負事業主に分類するためには、(1)契約上も実際も、業務手法について使用主体から管理や指示を受けていない、(2)使用主体の通常業務の範囲外の職務に従事している、(3)遂行した業務と同じ性質の独立、確立した仕事に、慣習的に従事している、という3つの条件を満たす必要があると定めた(注1)。前政権の連邦規則案はこの州法よりも個人請負事業主に分類するハードルを下げたものといえた。

2021年1月発足のバイデン政権は、前政権の連邦規則案の発効日を延期したうえで撤回した。これに対してウーバー社などの企業連合が行政手続上の誤りを指摘。「撤回の無効化」を求め、テキサス州東部地区の連邦地方裁判所に提訴した。同裁判所は2022年3月に原告の主張を認め、前政権の規則案の発効を命じるなど、法廷闘争が展開されていた。

雇用労働者への分類が増加か

連邦労働省が今回あらためて提案した連邦規則案は、前政権の規則案で中心に据えた2つの要因(仕事をコントロールできる程度、自ら収益を増やすか損失を被る機会)と同等に、「自らの仕事に必要な設備や資材に投資しているか」「仕事上の関係(Work relationship)に永続性がないか」「従事する仕事が雇用主にとって不可欠ではないか(雇用主の組織に組み込まれていないか)」「高度なスキルと自発性をもつか」などの要因も踏まえて、総合的に判断する方針を示した。これにより雇用労働者に分類するケースが増え、労働法で保護する対象が拡がるとみられる。

ウォルシュ労働長官は規則案の提示に際し、「私たちは、雇用主が雇用労働者、とくに我が国で最も弱い立場の労働者を独立請負業者に誤って分類しているのを多く目にしてきた。誤分類は、合法的に得た賃金の全額が支払われる権利を含む、連邦法による保護を労働者から奪う。連邦労働省は、誤分類の問題に取り組むことに引き続き関与していく」とコメントしている。連邦労働省は規則案へのパブリックコメントを11月28日まで募集している。

参考資料

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