技能外国人材の獲得に向けた新ポイント制導入の動き

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  • 国別労働トピック:2022年10月

政府は9月、EU域外の技能外国人材の積極的な獲得に向けて、新しいポイント制度である「チャンスカード(Chancenkarte)」構想を発表した。現在、就職先が決まっていないEU域外出身者は、例外を除いてドイツ国内の居住が認められていないが、「チャンスカード」を取得すれば、一定期間居住し、求職活動をしたり職業訓練を受けたりすることが可能になる。ドイツ手工業中央連盟(ZDH)によると、現在25万人の技能人材が不足しており、今後十数年で1300万人近い団塊世代が大量に引退する予測もある中で、EU域外の若手人材獲得策に期待が寄せられている。

ポイント制度「チャンスカード(Chancenkarte)」の主な概要

今回発表されたポイント制度は、「チャンスカード(Chancenkarte)」と呼ばれ、以下の4つの要件のうち3つを満たす場合に、ドイツへの入国と求職に関する手続きが大幅に簡素化される。

  1. 大学の学位または専門職業資格
  2. 3年以上の実務経験
  3. B1レベルのドイツ語能力(もしくはドイツでの過去の居住経験)
  4. 35歳未満

なお、要件を満たせば無条件にカードが取得できるわけではなく、年間の受入上限があり、当該外国人が求職中に自らのドイツにおける生計費を支弁できること等の条件が別途設けられている。

既存の受入れ制度

EU域外の外国人を対象とした既存の受入制度には、「大卒以上の高度人材」の受入促進策である「ブルーカード(Blaue Karte)」がある。2012年に導入された制度で、長期的な人口減少に伴って不足が懸念される高度人材を、EU域外(第三国)から積極的に受け入れて補うことを目的としている。アメリカの「グリーンカード」を模して、「ブルーカード」と呼ばれている。

この「ブルーカード」による受入経験や実績をもとに、2020年に「技能人材移住法(注1)(FachKrEG)」が施行され、対象が大卒者のほかに「少なくとも2年以上の職業訓練修了資格保有者」に広げられた。なお、同法制定時には、「ポイント制による受入制度の必要性」が改めて議論されたが、最終的に導入には至らなかった。この点について、連邦内務省(BMI)は、「ポイント制は何度も議論の俎上に上がるが、長い選考プロセスと新たな行政手続の煩雑化を意味し、簡素化と逆行する。第三国(EU域外)の技能人材の受入促進で大切なのは、国内労働市場の現状に的を絞った職業斡旋と、外国におけるドイツ語教育の強化である。また、大学や訓練修了資格について認定機関が適切に評価し、一元的な管理を行うことで、社会保障の濫用も防止できる。このことからポイント制を導入しなくても、専門人材移住法は、必要な人材の受け入れを、経済的要請に応じて十分果たすことができる」と説明していた(注2)

新政権による方針転換

上述のような理由で、これまでポイント制の導入が見送られてきたが、21年12月に発足したショルツ政権によって、大きな政策の方向転換がなされた。同氏が率いる中道左派の「社会民主党(SPD)」と連立パートナーの環境政党「緑の党」、中道リベラル派「自由民主党(FDP)」の3党による連立協定書において、EU域外の外国人受入れについて、ポイント制に基づく「チャンスカード(Chancenkarte)」を導入することが明記されたのである。

連立協定書では、ブルーカードによる優遇受入れを高度人材(大学卒業資格)以外の技能人材(2年以上の職業訓練資格)にも拡大した上で、海外の教育・訓練関連の資格認定のハードルを下げて官僚主義を減らし、手続きの迅速化を進めることで、当該外国人のドイツでの求職を容易にし、人材不足が深刻化する地域や産業の人材補充を加速する旨の構想が書かれている。

今回のポイント制の構想発表にあたり、ハイル労働社会相は「質の高い外国人労働者の確保と手続きの簡素化が狙い」と説明した上で、「世界的な人材獲得競争にドイツが勝つためには、当該外国人にとって、より一層魅力的な労働環境や労働条件を提供できるようにしなければならない」と述べている。

同制度の施行時期は2023年末以降と予想されている。

参考資料

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