専門人材移民法の施行から1年
 ―コロナ禍でも3万のビザを発給

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2021年9月

専門人材移民法は2021年3月で施行後1年を迎えた。同法は、第三国(EU域外)出身の専門人材の受入促進を目的としている。連邦労働社会省によると、同法のもとで2020年3月1日から12月31日までに、計3万のビザが発給された。コロナ禍にもかかわらず、同制度の活用が進んでいることが明らかになった。

2012年導入の「ブルーカード」とは

第三国出身者を対象とした既存制度としては、「大卒以上の高度人材」の受入促進策である「ブルーカード(Blaue Karte)」がある。「ブルーカード」は、2012年から導入されている滞在・就労許可制度で、長期的な人口減少に伴って不足が懸念される高度人材を、第三国から積極的に受け入れて補うことを目的としている。アメリカの「グリーンカード」を模して、「ブルーカード」と呼ばれている。ブルーカードによる就労に際して、連邦雇用エージェンシーの同意は不要である。また、有効期間は最大4年だが、雇用契約期間が4年に満たない場合は、契約期間に3カ月を加えた滞在が認められる。雇用期間が33カ月継続するなど一定の条件を満たすと、定住許可の申請が可能であるが、十分なドイツ語能力を有する場合は、ブルーカード取得から21カ月後に定住許可を取得できる。

なお、受入要件には、大学卒業資格のほか、年収要件(毎年変更)等も設けられている。2021年は、年収5万6,800ユーロ以上の具体的な雇用先がある場合で、初回の滞在許可は最長4年まで認められる。また、専門家が不足している分野(数学、自然科学、IT専門家、技術職、医師)に対しては、最低年収が4万4,304ユーロ(2021年)と低く設定されている。これらの職種での就労は、優先権審査は不要だが、比較性審査は必要である。

2020年の専門人材移民法の概要

専門人材移民法(FachKrEG ―Fachkräfteeinwanderungsgesetz)は、第三国出身の専門人材(熟練労働者)の獲得を目的として、主要部分が2020年3月1日に施行された。同法は、複数の法律を同時に改正(または制定)する条項法であり、これにより、滞在法、社会法典第3編(SGB III)、職業資格評価法(BQFG)等の多岐にわたる法改正が行われた。

専門人材移民法は、既述のブルーカードの経験や実績をもとに、対象を「職業訓練修了資格を有する者」にも適用拡大することで、より幅広い人材の確保を目指している。

同法における「専門人材/熟練労働者(Facharbeiter)」の対象は、第三国出身の「大卒者」と「職業訓練(通例、訓練期間が少なくとも2年以上と定められるもの)修了者」である。さらに詳述すると、①ドイツの大学修了資格(または、認定を受けた外国の大学修了資格、もしくはそれと同等の修了資格)を有する者、②ドイツの認定訓練職種における訓練修了者(または同等の外国の職業資格を有する者)、が該当する。

同法のもとで、「公認資格」と「ドイツにおける雇用契約」がある場合、採用前にドイツ国内またはEU域内の求職者を採用できないかを確認する連邦雇用エージェンシーによる「優先権審査(Vorrangprüfung)」は不要である。ただし、職業訓練に参加する場合は引き続き、優先権審査が実施される(注1)

なお、優先権審査は廃止されたが、連邦雇用エージェンシーによる「資格の同等性審査」や「労働条件審査(当該外国人が同職種のドイツ人労働者と同等の労働条件-特に賃金面-で雇用されることの確認)」は引き続き実施される。これは、外国人労働者への適切な賃金支払いを確保し、賃金ダンピングを防ぐために重要との政策判断がなされたためである。また、労働市況が変化した場合に、例えば、特定職種や特定地域で、優先権審査の再導入を直ちに可能とするための命令権限も定められた。

同法により、職業資格(職業訓練修了資格)を有する第三国の専門人材であれば、連邦雇用エージェンシーが人材不足と判断した職種に限定せず、あらゆる職種での就労が可能になった。また、対象となる人材の受入手続きについて、中央外国人局(zentrale Ausländerbehörde)への管轄の一元化と関連手続きの簡素化も行われた。

このほか同法は、IT分野の高度な実務経験のある専門人材は就労に際して、正式な資格の有無も不問とした。この場合、少なくとも3年以上のIT実務経験があり、2021年の年収が5万1,120ユーロ以上(毎年変更)で、連邦雇用エージェンシー(BA)の斡旋協定の枠内で、BAが申請者の知識レベルを評価し、申請者の資格認定のために追加的に必要な資格取得措置が決定されていることが要件となる。

認定訓練職種における訓練修了者に対しては、大卒者に対する既存の優遇規定に準じて、求職のための期限付きの受け入れが可能となった。ただし、一定のドイツ語能力や生計確保の要件を満たす必要がある(注2)

このほか外国人による社会保障制度の濫用を防ぐため、ドイツ入国時には、申請者および一緒に入国する家族の生計を自ら確保できることを証明する必要がある。また、申請者の年齢が45歳以上の場合は、年収4万6,860ユーロ以上(2021年)を稼いでいるか、適切な老齢保障があることを証明しなければならない。

ZSBAによるサービスの補強

専門人材移民法が2020年3月1日から施行されたタイミングで、同年2月から、専門人材のスムーズなドイツでの滞在と就労に向けて、既存の助言や情報提供では足りない部分を補強するために、「職業認定中央サービスセンター(ZSBA)」が設置された。ZSBAは、連邦雇用エージェンシー所管の中央外国・専門職業仲介局(ZAV)(注3)内に、連邦教育研究省(BMBF)の4年間のモデル事業として設置された。

ポイント制に関する議論

専門人材移民法の制定に際して、カナダのようなポイント制による外国人の受入制度の必要性が改めて議論されたが、導入にはいたらなかった。この点について連邦内務省(BMI)は、「ポイント制は何度も議論の俎上に上がるが、長い選考プロセスと新たな行政手続の煩雑化を意味し、簡素化と逆行する。第三国の専門人材の受入促進に大切なのは、ドイツの労働市場の現状に的を絞った職業斡旋と、外国におけるドイツ語教育の強化である。また、大学や訓練修了資格について認定機関が適切に評価し、一元的な管理を行うことで社会保障の濫用も防止できる。専門人材移民法は、必要な人材の受け入れを、経済的要請に応じて十分果たすことができる」と説明している。

ビザ3万件の実績に対する閣僚のコメント

連邦労働省(BMAS)のプレスリリースでは、コロナ禍にもかかわらず、専門人材に対して短期間に3万のビザが発給されたことに対する閣僚のコメントが掲載されている。

フベルトゥス・ハイル連邦労働社会相は、「コロナ禍で、医療・介護、あるいはITを活用する企業や公共サービス、その他の多くの分野にとって、専門人材がどれほど重要なのかが明らかになった。少子高齢化とデジタル化により、第三国出身者を含む専門人材に対する需要は常に大きい。この課題に対して、私たちは専門人材移民法という非常に良い枠組みを構築し、すでに効果を上げている。今後はさらにそれを増大させるだろう。この点について、私たちには、連邦雇用エージェンシーという強力なパートナーがおり、現地の雇用エージェンシーや中央外国・専門職業仲介局等を通じて、外国人専門人材と雇用主とをつないでいる。目下私にとって気がかりなのは、労働条件である。優れた人材をめぐり、私たちは世界規模の獲得競争のただ中にいる。私たちはできる限り魅力的であらねばならず、専門人材移民法はそのための礎を築いた」とコメントしている。

また、ホルスト・ゼーホーファー連邦内務相は「1年前に専門人材移民法が施行された時、移民政策の節目となると私は述べた。今日、数字(ビザ3万件)を見れば自ずとそれは明らかである。導入後1年足らずで、ドイツは有資格専門人材獲得競争で成果を上げ、ドイツ労働市場への合法的な道を人々に提供している」と評価している。

参考資料

  • BMAS Pressemitteilungen (26. Februar 2021),Fachkräfteeinwanderungsgesetz, BMI ほか。

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