7地域で「企業賃金ガイドライン」を発表

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  • 国別労働トピック:2022年9月

上海市など全国7地域の人的資源・社会保障局はこのほど、2022年の「企業賃金ガイドライン」を発表した(表1)。「ゼロコロナ」政策で経済が減速するなか、多くの地域が賃金上昇率を横ばい、もしくは引き下げの基準を示している。ガイドラインは、地域政府などがその年の「経済発展調整目標」に基づき、企業に対して提示する。法的拘束力は持たないが、企業にとって賃金引き上げの目安になる。

賃上げ率を基準値、上限値、下限値の3段階で提示

1994年成立の中国労働法は、「企業は、生産運営の特徴と経済効率により、法に従い自主的に賃金分配方法および賃金水準を確定する(第47条)」としつつ、「賃金水準は、経済の発展を基礎として逐次引き上げなければならない。国は賃金総額に対してマクロコントロールを行う(第46条)」と規定した。これにより、企業の賃金水準は企業自身が決定するだけでなく、社会経済の発展に伴い、政府が賃金水準をコントロールする必要があるとした。政府は同法に基づき企業の賃上げに関するガイドライン制度を導入し、賃上げ率を基準値、上限値、下限値の3段階で示すこととした。各地域の現状に応じて、未設定も可能となっている。

「ゼロコロナ」政策による経済減速を反映

「ゼロコロナ」政策で複数の地域で厳しい行動制限や経済活動の中断を伴うロックダウン措置が行われ、経済が減速しているなか、多くの地域のガイドラインが賃金上昇率を横ばい、もしくは引き下げている。

ガイドラインの基準値をみると、上海市では6%に設定しており、前年(2021年)より3ポイント引き下げた。そのほか江西省と河南省が7%、福建省と天津市が6.5%、内モンゴル自治区が6%となっている。黒龍江省チチハル市、内モンゴル自治区を除く5地域は上限値を設けていない。河南省と内モンゴル自治区を除く5地域は下限値を3%に設定。上海市では1ポイント引き下げている。

表1:2022年企業賃金ガイドライン (単位:%)
  地域 基準値 上限値 下限値
2021 2022 2021 2022 2021 2022
1 上海市 9.0 6.0 14.0 未設定 4.0 3.0
2 天津市 7.0 6.5 16.0 未設定 3.0 3.0
3 黒龍江省チチハル市 4.0 5.0 6.0 7.0 3.0 3.0
4 河南省 7.5 7.0 未設定 未設定 未設定 未設定
5 江西省 8.0 7.0 未設定 未設定 3.0 3.0
6 福建省 7.5 6.5 未設定 未設定 3.0 3.0
7 内モンゴル自治区 3.6 6.0 6.8 10.0 未設定 未設定

出所:各地域の人的資源・社会保障局

天津市では業種別ガイドラインも

各地域の人的資源・社会保障局は、企業に対して自社の状況を勘案しながら、賃金ガイドラインに基づく賃金調整を行うよう求めている。

上海市では、生産経営が正常で利益が伸びている企業は、基準値を参照しながら賃金の引上げ幅を決定するよう通知している。具体的には、(1)前年の従業員平均賃金が、同市平均賃金の2倍以上である場合、基準値以下の水準を参照する、(2)前年の従業員平均賃金が同市平均賃金の60%を下回る場合、基準値より適切に引上げる、(3)経営利益が前年より少ない企業は下限値を参照する、(4)生産運営が困難な企業は、下限値以下の水準になる可能性もある、としている(注1)

福建省では、(1)生産経営が正常で、利益が伸びている企業は、基準値を中心に賃上げを決める、(2)生産運営が正常で、利益の伸びが緩やかな企業は、基準値と下限値の間で賃上げを決める、(3)生産運営が困難な企業は、労働組合または従業員代表と協議・合意の上、下限値以下の水準を参照する。ただし、現地の最低賃金基準を下回ってはならない、と定めている(注2)

天津市では、一部の業種を対象とする基準値も発表している。「宿泊・飲食業」が5.8%、「水利・環境・公共施設管理業」が3.0%、「卸業・小売業」が7.7%、「建設業」が8.9%、「住民サービス・修理・その他のサービス業」が3.0%、「リース・商業サービス業」が6.8%、「交通運送・倉庫・郵送業」が5.4%となっている。これらの業種で生産運営が正常な企業は業種別ガイドラインの基準値を参照し、生産運営が困難な企業は市の賃金ガイドラインの下限値を参照して賃金水準を調整するよう求めている(注3)

参考資料

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