中央政府の「第3子政策」を受け、各地で支援強化が進む

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  • 国別労働トピック:2022年9月

中国では、急速な少子高齢化の進展を食い止めるため、昨年8月の全国人民代表大会常務委員会で「人口・計画出産法(注1)」を改正した。これにより、すべての夫婦に「第3子の出産」が認められ、「各地の育休制度の新設」や「出産・育児にかかる家計負担の軽減」に関する国の支援などが新たに示された。これを受けて、各地で「人口・家族計画に関する条例改正」が相次いでおり、現在までに30の省(自治区・直轄市)で規定が改正され、産休、育休、配偶者(夫)の出産介護休暇の制度導入や改善、育児費の負担軽減などが行われた。

第3子政策へ至る背景

中国では急激な人口増加を抑制するため、1970年代から「晩、稀、少」(遅く、間隔を空け、少なく産む)(注2)という「計画生育(出産)政策」をとるようになった。1978年には「できるだけ1夫婦あたりの子どもは1人とし、多くても2人とする」との方針が国策(注3)として示され、1979年の全国計画出産工作会議で、この方針から「多くても2人とする」という文言が除かれ、上海市などを皮切りに「1人っ子政策」が開始された。

その後、中国の生産年齢人口(15~59歳)が2011年をピークに減少に転じ、徐々に少子化の進展に伴う労働力不足や国内の投資・消費の縮小などが問題視されるようになった。そのため2016年1月に「1人っ子政策」は撤廃され、すべての夫婦に「第2子の出産」が認められるようになった。こうして出産抑制策から奨励策に大きく方向転換した政府の決定を受けて、各地方もそれに準じた規定の改定を行い、出産奨励策をとるようになった。

しかし、その後も出生数は減少を続け、2021年の出生数は1,062万人となり、そのうち第1子の出生数は468.3万人と初めて500万人を下回った。これ以上の少子化を食い止めるため、中央政府は2021年8月20日の全国人民代表大会常務委員会において、「人口・計画出産法」の改正を行い、すべての夫婦に「第3子の出産」を認めた。同時に、各地方政府に対して産休・育休制度の充実を求めるとともに、出産保険や出産手当金の各制度を国が統一してルール化することなどを明示。また、出産や育児支援につながる公営賃貸住宅保障制度の整備、多子世帯を考慮した住宅政策づくりに向けた具体的な取り組みも示した。

各地の改定状況

昨年の中央政府の「人口・計画出産法」改正を受けて、現在各地で産休や育休、出産介護休暇の新設や拡充が進んでいる(表1)。産休日数は、多くの地域で延長されており、 北京市、天津市、上海市、山西省、遼寧省、安徽省、山東省など16カ所では、国が定める「女性労働者の産休98日(注4)」に加えて、さらに60日上乗せされ、計158日となった。

第2子、第3子以上が生まれた場合の具体的な規定を設けている地域もある。河北省、内モンゴル自治区、浙江省は、第3子以上の出産で産休を90日に延長し、計188日と定めている。また、江西省、河南省、海南省、青海省の4カ所では、出産休業を188日までに増やし、吉林省、黒竜江省、甘粛省でも180日とし、吉林省では「女性労働者は本人の申請と企業の同意により出産休業を1年まで延長できる」と規定している。

表1:各地の産休、育休、出産介護休暇制度の規定と改正 
地域 改定実施日 出産休業
(合計日数)
育児休暇
(毎年の年間取得可能日数。
3歳未満の子を持つ夫婦各自について)
配偶者(夫)の出産介護休暇
(合計日数)
北京市 2021.11.26 158 5 15
天津市 2021.11.29 158 10 15
河北省 2021.11.23 158(第1、2子)
188(第3子)
10 15
山西省 2021.09.29 158 15 15
内モンゴル自治区 2022.01.10 158(第1、2子)
188(第3子)
10 25
遼寧省 2021.11.26 158 10 20
吉林省 2021.12.20 180(企業の同意で1年に延長) 20 25
黒龍江省 2021.11.01 180 10 15
上海市 2021.11.25 158 5 10
江蘇省 2022.03.01 128以上 15以上 15
浙江省 2021.11.25 158(第1、2子)
188(第3子)
10 15
安徽省 2022.01.01 158 10 30
福建省 2022.03.30 158-180 10 15
江西省 2021.09.29 188 10 30
山東省 2022.11.01 158 10 15
河南省 2021.11.27 188 10 30
湖南省 2021.12.03 158 10 15
湖北省 2021.11.26 158 10 20
広西チワン族自治区 2022.03.24 158 10 25
広東省 2021.12.01 178 10 15
海南省 2021.12.30 188 10 15
重慶市 2021.11.25 178 ①子が満1歳まで、夫婦どちらか一方が継続して取得
あるいは、
②子が満6歳まで、毎年夫婦各自5-10日
20
四川省 2021.09.29 178 10 20
貴州省 2021.10.01 158 10 15
雲南省 2022.1.17 158 10
(3歳未満の子どもを2人以上持つ場合、5日の増加)
30
陝西省 2022.05.25 158-168 30 15-20
甘粛省 2021.11.26 180 15 30
青海省 2021.11.24 188 15 15
寧夏回族自治区 2021.11.30 158 10 25
新疆ウイグル自治区 2022.06.04 158 10以上 20
チベット自治区 変更なし 365 30

筆者作成

「人口・計画出産法」の改正では、「育児休暇」に関する規定が新設された。

それを受けて、ほとんどの地域の条例でも、「3歳未満の子を持つ夫婦各自が年間で累計10日間の育児休暇を取得することを認める」と改正された。

育児休暇について、北京市と上海市では年間5日間、甘粛省、青海省、山西省、江蘇省では年間15日間、雲南省では「3歳未満の子どもを2人以上持つ場合、さらに5日間の育児休暇を取得できる」と定めた。重慶市では、子どもの年齢が6歳までに緩和された。具体的には、「子どもが1歳になるまで夫婦の一方が産休に続いて継続的に育児休暇を取得することもでき、あるいは、子どもが6歳まで夫婦それぞれが年間に5日から10日間の育児休暇を取得することもできる」と規定した。また、福建省、安徽省、甘粛省、青海省、寧夏回族自治区などでは、出産・育児、出産介護休暇中の従業員の賃金や福利厚生は変更や減額ができない点を強調している。

出産や育児にかかる家計費負担の軽減策

「人口・計画出産法」の改正では、「第3子政策」を促進するため、地域による財政支援の拡充が重要とされた。各地の条例改正によって、出産予定の夫婦に対して出産手当金や育児補助金制度を導入・強化するとともに、出産にかかる医療費負担を軽減するために、特に従業員基本医療保険と出産保険の加入を重視している。

このほか、育児補助金制度について、第2子、第3子以上の子を持つ家庭を優遇する地域が相次いでいる。四川省攀枝花市では、第2子、第3子を持つ当該地域の戸籍家庭に子ども1人につき、3歳まで毎月500元の育児補助金を支給する。甘粛省張掖市臨澤県では、当該地域の戸籍家庭に、第2子に対して毎年5,000元、第3子に対して毎年1万元の育児補助金を3歳まで支給し、さらに住宅購入時には4万元の補助金を支給する。湖南省長沙市では、当該地域の戸籍家庭に、第3子以上が生まれた場合、子ども1人当たりにつき、計1万元の育児補助金を一括で支給することを発表した。黒龍江省と湖南省では、第2子以上を持つ家庭に対して育児手当制度を設け、内モンゴル自治区では、就業や生活等のあらゆる面で第3子を出産した家庭を優遇・配慮すべきだと提案している。

また、地域によっては、子育て家庭の住宅ニーズに対応した優遇措置を実施している。北京市では、公営賃貸住宅への入居を申請する際に、未成年の子どもが多い家庭を優先割当対象として、間取りなどの選択も優遇している。河北省、安徽省、寧夏回族自治区、黒龍江省でも、公営賃貸住宅の間取り選択などの面で、子どもを持つ家庭に配慮するとともに、主に未成年者を育児する家庭に対して住宅の賃貸や購入に関する優遇策を検討している。

参考資料

  • 中国政府網、日本貿易振興機構、NNA、各ウェブサイトほか。

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