多くの地域で企業賃上げガイドラインの上昇が鈍化
全国の14地域が2014年7月までに2014年の企業賃上げガイドラインを発表した。賃上げガイドラインは、政府がその年の経済発展調整目標に基づき、企業に対して提示する年間の賃金上昇率の目安であるが、法的拘束力は持たない。中国経済は成長期から成熟期へ移行しつつあり、経済成長の鈍化が賃上げガイドラインの上昇の鈍化にも反映している。
賃上げガイドラインは基準値、上限値、下限値の3種類
中国労働法は、「企業は、生産経営の特徴と経済効率により、法に従い自主的に賃金分配方法および賃金水準を確定する」(第47条)、「賃金水準は、経済の発展を基礎として逐次引き上げなければならない。国は賃金総額に対してマクロコントロールを行う」(第46条)と規定している。企業の賃金水準は企業自身が決定するだけでなく、社会経済の発展に伴い、政府が賃金水準をコントロールする必要があるとされている。中国政府は外国の経験を参考にして、1994年に企業賃上げガイドライン制度を導入した。企業賃上げガイドラインは、基準値、上限値、下限値の3種類で構成される。
『2014年上海市企業賃上げガイドラインに関する通知』によると、生産経営が正常で、利益が伸びている企業は、基準値を参照して、賃上げ水準を決定することとされている。このうち、前年の従業員平均賃金が全市の従業員平均賃金の2倍以上の場合、基準値以下の水準を参照する。生産経営が正常で、利益を上げている企業は、前年の従業員平均賃金が市全体の従業員平均賃金の60%を下回っている場合、上限値を参照する。経営利益がより少ない企業は、下限値を参照する。生産経営が困難で、赤字の企業は、従業員代表大会(あるいは従業員全員大会)の討論で、下限値以下の水準を参照する。
賃上げガイドラインは、企業の賃上げや従業員間の収入格差是正を目的としているが、実際の法的拘束力はない。企業が賃金基準の調整や団体賃金交渉を行う際に、賃上げ幅の参考として利用されているのみである。
2014年のガイドラインは横ばい、引下げが大勢
2014年7月までに14の省・自治区・直轄市が2014年の企業賃上げガイドラインを発表した(表1)。この中で賃上げ基準値が最も高いのは、河南省と新疆ウイグル自治区の15%であり、最も低いのは湖北省の10%である。賃上げ基準値を前年と比べると、北京市(12%)、上海市(12%)、遼寧省(12%)、陜西省(13%)は横ばい、その他の地域は基準値を引き下げた。山東省、天津市、四川省は、基準値を3%引き下げた。上限値と下限値をみると、雲南省だけが下限値を1%引き上げたほか、ほとんどの地域は横ばい、あるいは引き下げとした。北京市は上限値と下限値をそれぞれ0.5%引き下げ、上海市は横ばいとした。
多くの地域で企業賃上げガイドラインの上昇が小幅となっているのは、経済成長のスピードが緩やかになっていること、企業の人件費が上昇していること、企業の利益獲得の可能性が低くなっていることなどに関係していると指摘される。
企業賃上げガイドラインは指導的な提案に過ぎず、企業に対して強制力を持たない。一部の地域では、賃上げガイドラインの実際の役割を強化するため、部分的に強制的な措置を導入している。例えば、狭西省の人力資源・社会保障庁は、その年の賃金上昇率の決定に当たって賃上げガイドラインに従わなかった企業に対して重点的な監視を行っている。利益を上げているにもかかわらず故意に従業員の賃金を引き上げない企業に対しては批判の通達を発し、国有企業の場合は高級管理職の業績年俸を支給してはならないとしている。湖北省の人力資源・社会保障庁は、企業が管理職層より下の従業員の平均賃金を引き上げない場合、経営管理者の賃金も引き上げてはならず、賃上げガイドラインの水準を満たさない場合は、同じ率だけ企業の責任者の収入を減らさなければならないと定めている。
表1:2014年企業賃上げガイドライン (単位:%)
地域 | 基準値 | 上限値 | 下限値 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
2014 | 2013 | 2014 | 2013 | 2014 | 2013 | ||
1 | 北京市 | 12 | 12 | 16 | 16.5 | 4.5 | 5 |
2 | 上海市 | 12 | 12 | 16 | 16 | 5 | 5 |
3 | 広州市 | 11 | 未発表 | 17 | 未発表 | 5 | 未発表 |
4 | 湖北省 | 10 | 未発表 | 16 | 未発表 | 4 | 未発表 |
5 | 陜西省 | 13 | 13 | 19 | 19 | 6 | 6 |
6 | 山東省 | 12 | 15 | 20 | 22 | 4 | 6 |
7 | 山西省 | 13 | 15 | 20 | 20 | 4 | 4 |
8 | 天津市 | 13 | 16 | 22 | 22 | 4 | 7 |
9 | 河南省 | 15 | 未発表 | 未設定 | 未発表 | 3.5 | 未発表 |
10 | 新疆ウイグル自治区 | 15 | 16 | 18 | 19 | 5 | 6 |
11 | 四川省 | 11 | 14 | 18 | 20 | 4 | 7 |
12 | 遼寧省 | 12 | 12 | 17 | 17 | 5 | 5 |
13 | 貴州省 | 12 | 未発表 | 15.2 | 未発表 | 2.7 | 未発表 |
14 | 雲南省 | 12 | 14 | 18 | 20 | 4 | 3 |
- 出所:各地域の人力資源・社会保障局
16地域の最低賃金上昇率は平均14.2%
2014年7月までに16の省・自治区・直轄市が最低賃金を引き上げた(表2)。最低賃金の引き上げ率は、平均14%程度となっている。最低賃金の平均上昇率は、2011年22%(24地域)、2012年20.2%(25地域)、2013年17%(27地域)と年々低下している。
2014年の最低賃金の上昇率は、貴州省が21.4%、四川省が16.7%と高く、その他は概ね12%前後となっている。2014年の月額最低賃金は上海市の1820元が最も高く、深圳市の1808元がこれに続いている。
表2:2014年の最低賃金引き上げ状況 (単位:元)
地域 | 最低賃金 | |||
---|---|---|---|---|
2014 | 2013 | 上昇率 | ||
1 | 北京市 | 1,560 | 1,400 | 11.4% |
2 | 天津市 | 1,680 | 1,500 | 12.0% |
3 | 上海市 | 1,820 | 1,620 | 12.3% |
4 | 山東省 | 1,500 | 1,380 | 8.7% |
5 | 深圳市 | 1,808 | 1,600 | 13.0% |
6 | 山西省 | 1,450 | 1,290 | 12.4% |
7 | 江西省 | 1,390 | 1,230 | 13.0% |
8 | 河南省 | 1,400 | 1,240 | 12.9% |
9 | 重慶市 | 1,250 | - | - |
10 | 四川省 | 1,400 | 1,200 | 16.7% |
11 | 貴州省 | 1,250 | 1,030 | 21.4% |
12 | 雲南省 | 1,420 | 1,265 | 12.3% |
13 | 陜西省 | 1,280 | 1,150 | 11.3% |
14 | 甘粛省 | 1,350 | 1,200 | 12.5% |
15 | 青梅省 | 1,250 | - | - |
16 | 内モンゴル自治区 | 1,500 | 1,350 | 11.1% |
- 出所:各地域の人力資源・社会保障局
参考
- 1中国人民元(CNY)=17.28円(※みずほ銀行ウェブサイト2014年9月9日現在)
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