2021年のコロナ危機からの回復は不均衡かつ停滞
 ―ILOモニター第8版

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  • 国別労働トピック:2022年8月

ILOは2021年10月、定期刊行物「ILOモニター『COVID-19と仕事の世界:推計と分析』第8版(ILO Monitor: COVID-19 and the world of work. Eighth edition)」を発表した。ILOは、2021年の労働市場の回復は停滞しており、新型コロナウイルス感染拡大前の水準を下回るという見通しを示している。また、ワクチン接種と財政刺激策によって各国で回復に大きな格差が生じている点を指摘している。以下で主な内容を紹介する。

ワクチン接種率は所得水準によって格差

2021年10月初旬時点で、ワクチン接種が完了した人の割合は世界で34.5%に達したが、ワクチン接種完了者の割合は各国の所得水準によって大きく異なっていた。完全接種率は高所得国では59.8%であった一方で、下位中所得国では14.6%、低所得国では1.6%にとどまった。

地域別に見ると、南北アメリカ、ヨーロッパ・中央アジア、アラブ諸国では人口の4割以上がワクチン接種を完了していたが、アフリカでは4.6%にすぎなかった。

労働時間の回復は停滞

世界の労働時間(15~64歳人口に調整(注1))は、2020年下半期に大きく上昇した後、2021年は停滞している。2021年第3四半期時点で、世界の労働時間は未だにコロナ危機前の水準(2019年第4四半期)を4.7%下回っていた。コロナ前と比較した2021年第1四半期(4.5%減)、第2四半期(4.8%減)の労働時間も同程度であった。

労働時間の回復は、迅速なワクチン接種や大規模な財政刺激策を実施できる豊かな諸国と、ワクチン接種が進まず、財源が限られる貧しい諸国の間で二極化している。2021年第3四半期の労働時間は、高所得国では2019年第4四半期を3.6%下回った(図1)。低所得国と下位中所得国の2021年第3四半期の労働時間は2020年第4四半期よりもさらに悪化し、低所得国は2019年第4四半期比で3.7%減から5.7%減、下位中所得国は5.6%減から7.4%減となった。

図1:国別所得水準別労働時間の推移(2019年第4四半期比)(単位:%)
画像:図1

出所:ILO(2021)

労働生産性は減少、生産性格差は拡大

2020年の世界の労働時間あたりの平均生産量(労働生産性)は、前年比で4.9%増加した。これは、2005~2019年の平均の2倍以上である。しかし2021年には、0.1%減少すると予測されている。また、労働生産性にも格差が生じており、2021年は、低所得国(1.9%減)と下位中所得国(1.1%減)で大きく減少した一方で、高所得国ではわずかに増加すると予測されている(0.9%増)。

高所得国と低所得国の生産性格差は、2021年には2005年以来最大となり、実質的に高所得国の平均的な労働者の1時間あたりの生産量は低所得国の平均的な労働者の1時間あたりの生産量の18倍になると予測されている。

就業者数の回復は不十分

2020年の新型コロナウイルスによる就業への打撃は、女性、若年者、低中技能の労働者で特に大きかった。同様に2021年の就業者数の回復も不十分かつ不均衡である。

中所得国・高所得国39カ国の労働力調査によると、人口に占める就業者の割合の変化は、年齢と性別によって異なっていた(図2)。2021年のはじめには、新型コロナウイルス変異株が発生したことによって再度ロックダウン措置がとられ、状況は悪化した。2021年第2位四半期には回復がみられたが、若年者、特に若年女性は未だにコロナ危機以前と比較して大きく減少した状態が続いている。

図2:人口における就業者の割合の推移(2020年第2四半期-2021年第2四半期) (単位:%ポイント)
画像:図2

注:高所得国30カ国、中所得国9カ国。計39カ国のサンプルは、2019年第1四半期から2021年第2四半期までの期間でバランスよく構成されている。極端値の影響を最小限に抑えるために、単純平均ではなく、重みづけしない中央値を用いている。表示されている数字は、人口に対する就業者数の割合を2019年の同四半期と比較した差(%ポイント)である。

出所:ILO(2021)

ワクチン接種と財政刺激策が回復の早さを決定づける

IMFによる最新の推計によると、新型コロナウイルス危機対応のために実施された財政刺激策は、世界で16.9兆USドルに達している。しかしこのうち85.9%は先進諸国に集中しており、新興国と発展途上国ではそれぞれ13.8%と0.4%にすぎない。新興国と発展途上国の大多数は、2021年以降、これ以上の財政支援を提供することができず、回復に悪影響が及んでいる。2021年6月には低所得国の半数はすでに債務不履行か高リスクの状態に陥っていた。また、財政刺激と関連したインフレ圧力や、世界的な供給連鎖の混乱といった懸念も生じている。財政刺激策の尚早な打ち切りは労働市場の回復の遅れにつながるため、継続的な強い財政刺激策が重要となる。

2020年第2四半期から2021年第1四半期を対象とした51カ国のデータによると、平均的には、財政支出の年間GDPの1%分の増加によって、労働時間は2019年第4四半期比0.3%ポイント増加したと推定された。

ワクチン接種は財政刺激策と並んで労働市場の回復の決定的な要因である。推計によると、ワクチン接種が行われなかった場合、2021年第2四半期の世界の労働時間は2019年第4四半期比で6.0%減となり、実際の労働時間よりも1.2%ポイント減少すると試算された。ワクチン接種が行われなかった場合の推計労働時間と実際の労働時間との差は高所得国で最も大きかったが(3.4%ポイント)、ワクチン接種が遅れている低所得国ではごくわずかだった。

2021年の見通しは悪化

2021年に発生した新たなパンデミックの波や変異株の出現、ゆっくりとしたペースで進むワクチン接種といった要因によって、ILOによる2021年以降の見通しは以前の予測よりも悪化した。

2021年の労働時間の回復予測は大幅に下方修正された。世界の2021年第4四半期の回復予測は、新たなパンデミックの波がなかった場合でもわずかであり、2021年の世界の年間労働時間は、パンデミック以前の水準(2019年第4四半期)比で4.3%減少すると予測されている。

2021年の年間労働時間はすべての所得グループでパンデミック前の水準を下回るものの、高所得国(2019年第4四半期比3.9%減)と上位中所得国(2.2%減)では迅速に、さらなる回復が見込まれる一方で、低所得国(4.9%減)と下位中所得国(6.8%減)では大幅に下回った状態が続くと予測されている。

ILOは2021年第4四半期の労働時間回復予測について、2種類のシナリオを提示している。ワクチン接種が2021年の平均的なペースで行われ、経済の下方リスクがないと仮定した「ベースライン」シナリオと、ワクチンが人口に比例してすべての国に公正に分配される「公正なワクチン」シナリオの2種である。2つのシナリオを比較すると、低所得国・下位中所得国の労働時間は「公正なワクチン」シナリオで大幅に回復し、上位中所得国・高所得国との格差が縮小すると予測されている(図3)。これは、ワクチンの不平等を解消することは労働市場にとって十分な利益を迅速にもたらし、より公正で包括的な回復を実現することを示唆する。

図3:2021年第4四半期の労働時間の回復予測(2019年第4四半期比) (単位:%)
画像:図3

出所:ILO(2021)

人間中心の回復には格差の縮小が不可欠

この報告書では、労働市場の現状が、2021年6月にILO総会で採択された「新型コロナウイルス危機からの人間を中心に据えた回復のための包摂的かつ持続可能で強靱な行動に対する世界的呼びかけ」をはじめとする、国際社会の公約と大きく異なることが示された。2021年、世界の労働時間は新型コロナウイルス危機以前の水準には回復せず、横ばいで進んでいた。また先進国と発展途上国の回復の程度にはワクチン接種と財政刺激策によって大きな格差が生じていた。

ILOは、資金面と技術面での支援を含む世界的な行動が人間中心の回復の鍵となると指摘する。世界的な行動と国際協力によって、ワクチンの分配と財政の不平等を是正することが必要であり、低所得国のワクチン接種率を高所得国と同程度に引き上げ、回復過程で資金を必要とする国を支援することが重要であると指摘している。

また、ILOは、回復戦略の実現のために必要とされる国際協力を促進するため、2022年上半期には多国間政策フォーラムを開催予定である。

参考文献

  • ILO資料 ILO Monitor: COVID-19 and the world of work. Eighth edition
  • ILO(27/10/2021) COVID-19: ILO Monitor – 8th edition, ILO: Employment impact of the pandemic worse than expected

参考レート

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