2022年労働市場の回復は後退
―ILOモニター第9版
ILOは2022年5月、『COVID-19と仕事の世界:推計と分析(ILOモニタリング第9版)』を発表した。同報告書は、2022年第1四半期の労働市場の回復が、前年第4四半期よりも後退したことを示している。以下でその概要を紹介する。
22年第1四半期の労働時間、前四半期よりも悪化
2022年の世界の労働市場は、未だコロナ危機から完全に回復しておらず、加えてウクライナ侵攻による打撃を受けている。
世界の労働時間は、2021年第4四半期に大幅に増加したものの、パンデミック以前の水準には戻っておらず、2022年第1四半期には再び減少に転じた。2022年第1四半期の労働時間は、危機以前の水準(2019年第4四半期)を3.8%(フルタイムの仕事換算で1億2000万人分)下回り、前四半期(同▲3.2%)よりも悪化した。悪化の主な理由は中国が実施した都市封鎖(拡散防止措置)であり、減少した労働時間の86%を占める。
ウクライナ侵攻は、食料・エネルギー価格の高騰、グローバル・サプライチェーンの混乱、金融ストレスの高まり、金融引き締め政策など、世界的な影響を及ぼしており、2022年の労働時間はさらに悪化するリスクが高まっている。
ILOは、回復の見通しは非常に不透明としながらも、継続的な中国の拡散防止措置とウクライナ侵攻の動向によって2022年第2四半期の労働時間はさらに悪化し、パンデミック以前の水準を4.2%下回ると予測している。
2022年も経済水準による各国の大きな格差は続いている。2021年に大幅に増加した高所得国の総労働時間は、依然として危機以前の水準を下回っているが、2019年第4四半期比▲2.1%まで回復した(図)。低所得国、中所得国は、2021年にはワクチン接種のペースと財政刺激策の規模のため回復が遅れていたが、2022年にはさらに金融ショック、食料・エネルギー価格の上昇によって揺さぶりを受けている。そのため、2022年第1四半期の労働時間は、低所得国では前四半期よりは増加したが、昨年同四半期よりも悪化したままである。上位中所得国、下位中所得国は、前四半期よりもさらに悪化した。中国が属する上位中所得国は、2021年に回復したが、その後は主に中国の動向を反映して労働時間が減少した。
ILOは、この格差は2022年第2四半期以降さらに広がり、高所得国の労働時間は増加する一方で、低所得国、中所得国では労働時間が停滞、減少すると予測している。
図:所得水準別総労働時間の推移(2019年第1四半期比)
出所:ILO(2022)
21年の労働所得の回復に不均衡
最新の推計によると、2021年の世界全体の労働所得は、危機前(2019年第4四半期)の水準を0.9%上回っていた。これは高所得国(2019年第4四半期比+0.8%)および中国の影響である。低所得国、下位中所得国、上位中所得国(中国を除く)の労働所得は、いずれも危機以前の水準を下回っていた(同期比それぞれ▲1.6%、▲2.7 %、▲3.7%)。2021年には、労働者の5人中3人は、労働所得が2019年第4四半期の水準まで回復していない国で生活していた。
先進国の労働市場は逼迫も過熱はせず
多くの先進国では、2021年初頭から雇用が回復し、現在の高所得国は失業者に対して求人数が多い、労働市場の逼迫状態となっている。
データが利用可能な39カ国(うち高所得国35カ国)の分析では、労働市場の逼迫度(失業者1人に対する求人数の割合)は、国によってばらつきが大きいものの、危機以前と比べて平均32%上昇した。
しかし、先進国の逼迫度は高いが、実際の労働市場は人材需要の過熱や完全雇用(非自発的失業者が存在しない状態)に近い状態にあるわけではない。雇用は回復したものの世界の失業率はパンデミック以前からすでに高く、また、労働市場には未だ多くの不活性労働力が存在するためである。
一方、回復が遅れている発展途上国では労働市場の逼迫はみられず、労働需要はマイナス傾向にある。
世界的なインフレが回復へのさらなるリスクに
現在の食料・エネルギー価格の上昇を中心とするインフレ率の上昇は、コロナ危機からの回復をさらに遅らせるリスクとなる。世界のインフレは2021年の4.7%から、2022年には7.4%へと大幅に上昇する見込みである。賃金が大幅に上昇しなければ、多くの世帯で可処分所得の大幅な減少が懸念される。
人間中心の回復には複雑な危機からの克服が必要
ILOは、回復のためにはコロナの影響とウクライナ侵攻による衝撃の両方を乗り越えなくてはならないとした上で、以下の点に注意を払う必要があると述べている。
- 労働者所得の購買力および労働者とその家族の包括的な生活水準を維持するためのタイムリーで効果的な支援を提供する
- インフレ圧力と債務維持圧力に対処するマクロ経済政策を慎重に調整し、雇用の豊富で包括的な回復を促進する必要性を認識する
- 労働者の社会的保護、および中小零細企業をはじめとする企業への支援を通じて、大きな打撃を受けた集団や産業が確実に保護されるように支援を強化する
- 長期的に、強力な労働市場制度とソーシャル・ダイアログ(社会対話)によってディーセント・ジョブ(働きがいのある人間らしい仕事)の創出を促進し、よく設計された産業別の政策を支援する
- 不平等、生活、持続可能性への取り組みに焦点を当て、複数の危機が仕事の世界におよぼす影響をモニタリングし評価する
参考文献
- ILO資料 ILO Monitor on the world of work. Ninth edition
- ILO(23/05/2022) ILO Monitor on the World of Work:ILO: Labour market recovery goes into reverse
2022年8月 ILOの記事一覧
- 2022年労働市場の回復は後退 ―ILOモニター第9版
- 2021年のコロナ危機からの回復は不均衡かつ停滞 ―ILOモニター第8版
- 2019年、移民労働者は世界に1億6900万人 ―ILO国際労働力移動世界推計
関連情報
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