2019年、移民労働者は世界に1億6900万人
 ―ILO国際労働力移動世界推計

カテゴリ−:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2022年8月

ILOは2021年6月、「ILO国際労働力移動世界推計:結果と方法論(ILO Global Estimates on International Migrant Workers – Results and Methodology)」第3版を発表した。この報告書は国際労働力移動推計と推計の方法論によって構成されている。国際移民、国際移民労働者の推計は、ILOと国連経済社会局(UNDESA)のデータに基づいており、2019年を基準年とした推計を中心に、過去の推計結果(2013年、2017年基準)との比較も示している。

移民労働者は受入国の社会・経済に不可欠

移民労働者は、保健医療・運輸・サービス・農業・食品加工などの部門で必要不可欠な仕事をしており、受入国の社会・経済に大きく貢献している。

しかし多くの移民労働者はしばしば、一時的な雇用、インフォーマル就業(法的枠組みで保護されず、社会的な保護を十分に受けていない就業者)といった、不安定でレイオフや雇用条件悪化などに直面するリスクが高い状態におかれている。

さらに、新型コロナウイルスの影響は、女性移民労働者の脆弱性をさらに深刻化させたとみられる。これは、女性移民労働者は低賃金、低技能職に集中し、支援サービスへのアクセスが制限され、支援サービスの選択肢もわずかしかないためである。

新型コロナウイルスのパンデミックは、国際労働力移動の規模と特徴に影響をおよぼした。ILOは、この報告書の推計が新型コロナウイルス危機発生以前の2019年を基準年としていることから、新型コロナウイルスによって引き起こされた変化を分析する際の評価基準になるとしている。

2019年、世界の労働力人口のうち移民労働者は4.9%

この報告書において、「国際移民労働者」とは、労働年齢(15歳以上)の国際移民であり、かつ特定の基準期間中に、通常居住している国の労働力人口に含まれていた者であると定義される(失業者も含む)。報告書の目的上、「国際移民」とは、外国で生まれた居住者(出生地情報が入手できない場合には外国籍市民)を指す。

国連経済社会局(UNDESA)は、2019年の国際移民人口は世界規模で2億7200万人であり、そのうち労働年齢(15歳以上)の国際移民は2億4500万人だったと推定している。
2019年の国際移民労働者は1億6900万人だったと推定されており、2017年の推計から3%(500万人)増加した。

2019年、受入国で労働力人口のうち移民労働者が占める割合は、世界で4.9%だったと推定される。

移民と非移民では女性の労働力参加率に大幅な差

移民労働者の男女比は、男性が58.5%、女性が41.5%である。

国際移民人口の男女比も女性の割合がやや低い(47.9%)。また、移民女性の労働力参加率は移民男性よりも低い。

しかし、労働力人口のうち移民労働者が占める割合(4.9%)を男女別にみると、男性の労働力人口に占める男性移民労働者の割合は4.6%であるのに対して、女性の労働力人口に占める女性移民労働者の割合は5.2%である。

移民と非移民の労働力参加率を男女別に比較すると、女性の差が男性よりも大きい。女性移民の労働力参加率は59.8%であるのに対し、移民以外の女性の労働力参加率は46.7%である(図表1)。男性は、移民は77.5%、非移民は74.1%である。

図表1:世界の移民/非移民の労働力参加率(男女別、2019) (単位:%)
画像:図表1

出所:ILO(2021)

労働力参加率は移民、非移民いずれも低下

2019年の移民の労働力参加率は男女合計で69.0%と推定される。この割合は、2013年(72.7%)、2017年(70.0%)よりも低い。

ILOは、労働力参加率の全般的な低下は、1990年に観察されて以来、少なくとも2030年までは続くと予測している。移民労働者の労働力参加率の低下は、非移民にも影響を及ぼす要因によって生じている可能性がある。人口動態の傾向(大半の高所得国の高齢化など)、生産技術の変化、労働市場と移民政策などである。さらに移民の場合は、労働市場での差別、語学能力、移住先国の受け入れ条件などの要因が加わる可能性がある。

移民の労働力参加率の低下は、出身国と受入国の両方にネガティブな影響を及ぼす可能性がある。出身国の発展途上国にとっては、通貨不足や国内投資への対処に重要な海外からの送金額が少なくなってしまうおそれがある。受入国にとっては、経済成長などの潜在的な利益の損失につながる。高齢化によって移民以外の労働力人口が減少しつつある高所得の受入国では、特に深刻な問題となる可能性がある。

働きざかりが8割を占めるが25歳以下も増加

2019年の移民労働者を年齢別にみると、25~64歳が86.5%、15~24歳が10.0%、65歳以上が3.6%であった。

15~24歳の割合は、2017年の8.3%から2019年には10.0%に増加した。多くの発展途上国では若年者の失業率が高く、また一部の途上国では若年層の人口が過多となっていることが影響していると推測される。

若年層の移民労働者の増加は、受入国にとっては移民の労働力参加率の上昇などのポジティブな影響を与える可能性がある。反対に出身国にとっては、若年層が永久に外国に移住してしまう場合には、労働力人口の収縮や頭脳流出、経済成長への打撃といった結果をまねくおそれがある。

女性はサービス部門が8割、男性は工業部門で雇用が増加

産業部門別の移民労働者の分布は、性別によって異なる(図表2)。女性は約8割がサービス部門に従事している。女性がサービス部門に集中している原因として、保健医療や家事労働といったケア産業に対する需要の拡大が影響している可能性がある。これらの産業では女性の比率が高く、女性移民労働者に大きく依存している。

一方で男性の産業別分布は女性よりもサービス部門の割合が低く、工業部門の割合が高い。男性の約4割が工業部門で働いており、製造業や建設業といった、移民労働者の比率が高い産業に従事している。

図表2:産業部門別の移民労働者の分布(世界、2019) (単位:%)
画像:図表2

出所:ILO(2021)

2013年と2019年の産業部門別の移民労働者の分布を比較すると、時間の経過による変化のパターンも男女で異なっていた。女性は、農業の割合が大幅に低下し(11.1%から5.9%)、反対に、サービス部門の割合が増加した(73.7%から79.9%)。この変化は、一般的な女性雇用の傾向(世界的に農業、工業部門で就業者数が減少し、サービス部門で増加)と一致している。

男性移民労働者は、農業部門(11.2%から7.9%)とサービス部門(69.1%から56.4%)で2013年よりも割合が減少し、工業部門で割合が増加している(19.8%から35.6%)。この変化は、世界の男性雇用の傾向(農業部門の就業者数が減少、工業部門の就業者数は停滞、サービス部門の就業者数が増加)とは異なっていた。原因は、下位中所得国、上位中所得国で工業部門の労働需要が増加していることによるとみられる。

高所得国に約7割が集中、上位中所得国で需要が増加

移民労働者の移住先を所得水準別にみると、67.4%が高所得国、19.5%が上位中所得国に集中していた。より多くの雇用機会と高い生活水準が移民労働者の高所得国への移住を動機づけているとみられる。

図表3:移民労働者の所得水準別分布(2019) (単位:100万人、%)
  低所得国 低位中所得国 上位中所得国 高所得国 合計(世界)
合計労働者数(100万人) 261.1 1111.6 1484.3 625.2 3482.2
労働者人口の分布(%) 7.5 31.9 42.6 18.0 100
移民労働者数(100万人) 6.1 16.0 33.0 113.9 169.0
移民労働者の分布(%) 3.6 9.5 19.5 67.4 100
全ての労働者における移民労働者の割合(%) 2.3 1.4 2.2 18.2 4.9

出所:ILO(2021)を元に作成

移民労働者は高所得国において労働力の18.2%を占めている。高所得国以外では労働力人口に占める移民労働者の割合は相対的に小さく、上位中所得国では2.2%である(図表3)。

高所得国および上位中所得国に移民労働者の8割以上が集中する傾向は2013年から続いている(2013年:86.4%、2017年:86.5%、2019年:86.9%)。しかし、2019年の高所得国の割合は67.4%で、2013年の74.7%から減少している。一方で、上位中所得国の割合は19.5%で、2013年の11.7%よりも増加している。上位中所得国で暮らす移民労働者の割合が上昇した原因としては、上位中所得国での雇用機会の増加などが関係している可能性がある。

上位3地域に約6割が移住

移民労働者の地理的な分布を11の準地域区分別にみると、北・南・西ヨーロッパが最も多く24.2%である。次いで北アメリカが22.1%、アラブ諸国が14.3%を占める(図表4)。

労働力人口における移民労働者の割合は、アラブ諸国が最も高く、41.4%である。北・南・西ヨーロッパは18.4%、北アメリカは20.0%である。

これらの3地域に居住する移民労働者の割合は世界の60.6%を占めていた。移住先上位3地域に世界の移民労働者の約6割が居住する傾向は2013年、2017年の推計と変わっていない。これら3地域に居住する移民労働者の割合は2013年と2017年はそれぞれ60.2%と60.8%であった。

11の地域別に労働力参加率をみると、東アジアを除く10の地域で移民労働者の労働力参加率は、非移民の労働力参加率と同等かそれを上回っていた。

なお、移民(労働者以外も含む)の出身国を主要な地域別にみると、アジア・太平洋地域の比率が最も高く約3分の1を占めており、続いてヨーロッパ・中央アジア、南北アメリカ、アフリカ、アラブ諸国の順になる。

図表4:世界11地域での移民労働者の分布(2019) (単位:%)
画像:図表4

出所:ILO(2021)

今後の取り組みの「基準」となり得る

既述の通り、ILOは本書を「今後、新型コロナウイルスがもたらした変化を分析する際の評価基準となり得る」としている。とりまとめを担当したマヌエラ・トメイ労働条件・平等局長は、「移民労働者は真っ先に一時解雇の対象となりやすく、治療を受ける際にも困難を経験し、国の新型コロナウイルス政策対応からも除外されやすい」として、「コロナ禍が移民労働者の不安定な状況を露わにしている」点を指摘。また、統計を担当したラファエル・ディエス・デ・メディナ統計局長は、「労働力移動政策は、強固な統計証拠を基盤として初めて効果的になる。そのような政策は、各国が労働需給の変動に応え、革新的な取り組みと持続可能な開発を刺激し、技能の移行・更新を手助けすることができる」と説明している。

参考文献

  • ILO資料 ILO Global Estimates on International Migrant Workers – Results and Methodology
  • ILO(30/06/2021) Labour migration, Global labour migration increases by five million

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