アップルストアで労組結成へ

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  • 国別労働トピック:2022年7月

アップル社が運営するメリーランド州のアップルストアで6月15~18日、労働組合結成の是非を問う従業員投票が行なわれ、賛成多数で可決された。同社での労組結成は全米で初めて。2021年12月のスターバックス社(ニューヨーク州)、2022年4月のアマゾン社(ニューヨーク市の倉庫)、とこれまで労働組合のなかった大手企業での組織化が続いている。

アップル社で初めての労組

アップルストアの店舗は全米で270を超え、6万5,000人以上が同社製品の販売業務等に従事している。投票が行なわれた店舗は、メリーランド州ボルチモア市近郊タウソンにある。従業員らは新型コロナウイルスへの安全対策や賃金・労働条件に関する情報提供などを求め、労組の結成に取り組んだ。AFL-CIO(アメリカ労働総同盟・産別会議)に加盟する国際機械工・航空宇宙労働組合(International Association of Machinists and Aerospace Workers、IAM)が、同店舗の従業員らによる「アップル組織化小売従業員連合(Apple Coalition of Organized Retail EmployeesApple CORE)」の結成を支援した。

米国で労働組合をつくるためには、会社が自主的に結成を承認しない限り、従業員の3割以上から署名を集めて全国労働関係委員会(NLRB)に提出し、投票の実施を申請する。これが認められれば、NLRB管理のもとで従業員投票を行ない、投票者の過半数の賛成を得る必要がある。

アップル社ではこれまで労組結成の動きを警戒して、様々な対策をとってきた。2022年2月には約20ドルだった販売担当スタッフの最低時給を22ドルに引き上げたり、有給病気休暇の強化(メンタルヘルス関連や病院への家族の付き添いのための取得を認める。日数をそれまでの年間6日から12日に増加)などを発表した。労働組合がなくても労働条件の向上は可能との姿勢を示したものとみられる。

IAMによると、同社タウソン店舗での労組結成案について110人の従業員のうち賛成が65、反対が33と賛成多数で可決した(棄権12票)(注1)。このほかに現在、全米で20以上の同社店舗の従業員が、労組の結成に関心を示しており、ニューヨーク州やケンタッキー州、テネシー州では従業員らによる労組結成に向けたキャンペーンが行なわれている。

なお、ジョージア州アトランタの店舗ではアメリカ通信労働組合(Communications Workers of America、CWA)が労組結成を支援し、6月2~4日に従業員投票を行なう予定だったが、労組側が「経営側の介入により自由で公正な選挙ができなくなった」と主張し、投票申請をいったん取り下げた。

労働組合への関心の高まり

連邦労働省労働統計局によると、2021年の全米民間労働者の労組組織率は6.1%で1985年の14.6%から半減している(注2)

だが、2021年末以降、これまで職場に労組がなかった大手企業での組織化の動きが相次いだ。2021年12月にニューヨーク州バッファローにあるスターバックス社の店舗で従業員投票が行なわれ、労組結成が賛成多数で可決された(注3)。これを皮切りに、ブルームバーグ通信などによると、同社の全米におけるおよそ9,000店舗のうち250以上で投票申請が行われ、150以上で投票を実施。その約8割で結成が承認されている。

2022年3月25~30日には、ニューヨーク市にあるアマゾン・ドット・コム社(以下:アマゾン社)の倉庫(物流センター)で投票が行なわれ、賛成多数で可決された(注4)

全国労働関係委員会(NLRB)の集計によると、2022会計年度の上半期(2021年10月~2022年3月)における従業員投票の申請件数は1,174件で、前年同期から57%上昇した(注5)。このペースが続くと、2022会計年度(2021年10月~2022年9月)の申請件数はコロナ禍前の2019会計年度(2018年10月~2019年9月)の1,673件、2018会計年度(2017年10月~2018年9月)の1,597件、を大きく上回る。

労働組合に対する認識の変化をうかがえる調査結果もある。調査会社ギャラップが実施した2021年の世論調査の結果(注6)によると、労組を「良い(approve)」と考える米国民の割合は約7割(68%)にのぼった。調査は1936年から継続的に実施しているもので、2009年に5割(48%)へと落ち込んで以降は上昇傾向にあり、2021年は1965年の71%に届くほどの水準へと回復している。

組織化が進む背景について、現地メディアは飲食、物流、小売りなどの職場でコロナ禍の安全対策の不備や人手不足により労働条件が悪化し、不安や不満を抱える従業員が増加したことや、物価上昇に見合う賃金・労働条件の引き上げを求める声が高まっていることなどを指摘している。

物価上昇と賃金の引き上げ

2022年5月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で8.6%増を記録した。1981年12月の8.9%に迫る40年ぶりの高水準で、品目別に見ると、ガソリン(48.7%)、新車(12.6%)、食料品(10.1%)などの上昇が目立つ(注7)

CPIはコロナ禍が生じた2020年の6月以降、対前月比(季節調整値)でプラスの状態が続き、2022年3月には1.2%の伸びを示した。民間労働者(管理職含む)の時給も上昇しているが、物価上昇分を差し引いた実質の時給水準を見ると、2021年10月以降はマイナスとなっており、物価上昇に賃金が追いついていない傾向が見てとれる(図表1)。

図表1:米国における消費者物価指数と時給の上昇率の推移(対前月比、季節調整値) (単位:%)
画像:図表1

出所:連邦労働省労働統計局ウェブサイトより作成

こうした情勢の下で、飲食、小売り、流通分野の企業が競うかのように、ときには労組の結成や主張に対抗するとも受け取れる形で、賃上げの実施を発表している。現地メディアは先述のアップル社のほか、以下の企業などの賃上げを報じている。

  • アマゾン・ドット・コム社:平均最低時給を17ドルから18ドル以上に引き上げ(2021年9月発表)
  • ウォルマート社:2021年9月に56万5,000人以上の店員の時給を1ドル引き上げ(引き上げ後の平均時給は16.40ドル)
  • コストコ社:最低時給を16ドルから17ドルへと引き上げ(2021年10月発表)
  • ターゲット社:店員らの最低時給を15ドルから最大24ドルへと引き上げ(2022年2月発表)
  • CVSヘルス社(ドラッグストア):2022年7月に最低時給を11ドルから15ドルへと引き上げる予定
  • スターバックス社:2022年8月に最低時給を15ドルに引き上げる予定(引き上げ後の平均時給は約17ドル)
  • ウォルグリーン・ブーツ・アライアンス社(ドラッグストア):2022年11月までに最低時給を15ドルに引き上げる予定(引き上げ前の最低時給は10~15ドルの範囲内)

参考資料

  • ウォールストリートジャーナル、ギャラップ社、国際機械工・航空宇宙労働組合、全国労働関係委員会、日本貿易振興機構、ニューヨークタイムズ、ブルームバーグ、連邦労働省労働統計局、ワーカーズ・ユナイテッド、CNBC、各ウェブサイト

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