雇用労働者の4人に1人が在宅勤務
―連邦統計局調査
連邦統計局が6月14日に発表した資料によると、コロナ禍により在宅勤務者の割合が倍増し、2021年は4人に1人が自宅等で働いていた。感染症予防法に基づき、雇用主に課された在宅勤務義務(業務遂行上可能な場合、雇用主が労働者を在宅勤務させる義務)による影響が大きいと見られるが、22年3月20日に厳しい行動制限が大幅に緩和され、在宅勤務義務も撤廃された。以下にドイツの在宅勤務をめぐる動向を紹介する。
コロナ禍で割合が倍増
ドイツ政府は20年以降、ウイルスの感染拡大を抑制するため、全国一律で雇用主に在宅勤務義務を課してきた。こうした影響もあり、自宅等で仕事をする労働者の割合は、コロナ前の19年には9.9%に過ぎなかったが、20年には18.8%、21年には23.1%と大きく増加した(図1)。
図1:在宅勤務者の割合(雇用労働者、2017~2021年)
出所:Destatis(2022).
割合が高いのはITサービス、低いのはヘルスケアや建設など
在宅勤務の状況は、業種によって大きく異なる。21年の時点で、ITサービス業では、4分の3(75.9%)以上の労働者が在宅勤務をしており、次いで経営管理・コンサルティング業(71.3%)、保険・年金基金関連業(66.2%)の割合が高かった。
他方で、低かったのは、ヘルスケア(健康・医療)(5.4%)や、建設・内装業(8.1%)、販売・小売(8.3%)などであった(図2)。
図2:産業・業種別の在宅勤務割合(雇用労働者、2021年)
出所:Destatis(2022).
義務解除後も殆ど減らず ―Ifo経済研究所調査
雇用主義務解除後の在宅勤務について、Ifo経済研究所(注1)が企業調査を行い、22年5月9日に結果を発表している。それによると、在宅勤務者の割合は22年3月に27.6%、義務解除後の4月には24.9%と、殆ど減っていなかった。
ドイツの中核産業である製造業全体を見ると、同時期に18.6%から16.3%と小幅な減少だったが、自動車産業のみを見ると、同28.4%から17.8%と比較的大きな減少が見られた。
他方、ITサービス業では、同76.8%から72.3%と、依然として高い割合を維持していた。
労働者の希望度合い ―PwC世界労働市場調査
コンサルティング・監査法人のPwCが22年3月に44カ国、5.2万人を対象に行った世界労働市場調査(Global Workforce Hopes and Fears Survey 2022)によると、ドイツからは2138人(フルタイム79%、パートタイム21%)が参加し、全体の44%が「在宅勤務が可能」な状況であった。今後の働き方の希望については、「完全に在宅勤務で働きたい」と回答したのが35%、「ほぼ在宅勤務で働きたい」が23%、「出勤と在宅勤務を半々にしたい」が28%であった。他方で、「出勤して対面で働きたい」と答えのは、全体のわずか5%のみで、在宅勤務を求める労働者が大多数を占める結果となった。
労社相、「在宅勤務権」に関する草案再提出に意欲
フベルトゥス・ハイル労働社会大臣は20年5月、新型コロナウイルスの脅威が去った後も、労働者が望めば在宅で勤務できる権利として、「労働者の在宅勤務権」に関する法案構想を発表した。草案は、労働者に対して1年につき24日のモバイルワーク請求権を付与し、雇用主は緊急の経営上の理由がなければ拒否できないという内容であった。同氏が属する社会民主党(SPD)の賛同を得て、同年秋の法案提出を目指したが、当時の連立パートナーであったキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の強い反対に遭い、閣議決定には至らなかった。翌21年1月に、雇用主の拒否理由に関する規制を少し緩和した草案を発表したが、やはり閣議決定には至らなかった。
その後21年秋の総選挙で、社会民主党が再び連立与党となり、在宅勤務権の法制化に否定的だったキリスト教民主・社会同盟は野党となった。ハイル氏はそのまま労働社会大臣を続投しており、22年1月の現地取材に応じて、新しい連立パートナーである「緑の党」と「自由民主党(FDP)」とともに、在宅勤務権に関する法律の草案を再び閣議に提出する意向を示している(Zeit)。
こうした立法意欲の背景には、コロナ禍より前から、少子高齢化とデジタル化の議論の中で、「労働時間」や「労働場所」の柔軟化の必要性が議論されていたことがある。コロナ後は、改めてそうした文脈の中で、在宅勤務に関する法整備がはかられる可能性がある。
注
- Ifo研究所(Information and Forschung)は、1949年設立された非営利の研究機関でドイツの経済・社会調査・政策研究を行っている。ドイツの6大経済研究所の1つとも言われる。同研究所が継続的に約7000社のドイツ企業に対して行っているアンケート調査による「ドイツIfo企業景況感指数」は、ドイツや欧州の景気動向把握や分析に重要な位置を占めている。(本文へ)
資料出所
- Destatis (Zahl der Woche Nr. 24 vom 14. Juni 2022) , PwC (Global Workforce Hopes and Fears Survey 2022) , (PwC Deutschland, 24 Mai, 2022) (Ifo Press release - 9 May 2022) , Zeit Online (12 Januar 2022) , Fortune (3. Jun 2022)ほか。
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