労社相、在宅勤務権構想を発表
 ―最低年24日を保障

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  • 国別労働トピック:2020年12月

フベルトゥース・ハイル労働社会大臣(社会民主党、SPD)は10月、労働者の在宅勤務権に関する構想案を発表した。希望する労働者は、少なくとも年24日の在宅勤務が法律で保障されるという内容だ。しかし、連立相手のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)内には慎重論が根強く、法制化は依然として不透明な状況である。

構想案の概要

構想(Gesetzesinitiative für eine gesetzliche Regelung zur mobilen Arbeit)では、「希望する従業員に対して、1年間に少なくとも24日間の在宅勤務を認める制度の導入」を雇用主に求めている。その際、雇用主は、当該従業員の出勤が業務上必須であることを証明できない限り、在宅勤務を認めなければならない。この24日というのは年間最低日数であり、労使交渉や個別契約によって、さらに増やすことが可能である。また、在宅勤務によって、休日や深夜の労働が増えないよう、勤務時間を電子的に記録するよう義務づけることも法案に盛り込む予定である。なお、コンスタンツ大学名誉教授のフランツ= ヨーゼフ・デュベル氏によると、今回の在宅勤務権構想は、デジタル化を背景に、2016年のドイツ法律家会議(DJT)で法案設計が論じられた後に、2019年2月にSPDがまとめた構想が土台となっている。

コロナ禍が変えた在宅勤務の状況

2019年の時点で、ドイツでは労働者の10人に1人強が、常態的または一時的に在宅勤務を行っていた(Destatis 2020)。現在、ドイツには在宅勤務(在宅勤務)に関する法律が存在せず(注1)、個別契約や集団的な合意に基づいて実施されている。雇用主が在宅勤務を認めるのは、専門人材の確保や、従業員のモチベーション向上、働きやすさ改善のため等が主な理由となっている。

2020年のコロナ禍は、このような在宅勤務の状況を一変させた。ドイツでは3月中旬以降、新型コロナウイルスの拡大を抑制するため、推定で労働者の4人に1人が在宅勤務を行った。その実績を踏まえて、ハイル労働社会大臣は、「ウイルスの脅威が去った後も、在宅勤務を望み、それが可能な職業であるなら、誰でも自宅で仕事ができるはずだ」として、今回の構想案を発表した。法案の趣旨は、在宅勤務が長時間労働につながり、私生活の領域を脅かすことのないよう、必要な規定を整備することである。

在宅勤務への期待と懸念

現地の報道(Deutsche Welle)によると、今回の案について、ドイツ経済研究所(IWケルン)のオリバー・シュテット研究員は、「法律による規制ではなく、雇用主や管理職が、従業員にとって在宅勤務が効果的で効率的か個別に判断すべきだ」と主張する。併せて、使用者側から見ると、在宅勤務は設備コストの削減、人材利用の柔軟性の拡大、労働生産性や労働品質の向上可能性がある一方で、制度導入の移行コストが不明確で、労働者に対する直接管理の難しさや、組織内の調整や意思疎通の確立に相当の技術投入が必要になるかもしれないという懸念がある点を指摘する。

他方、ハンスベックラー財団経済社会研究所(WSI)のエルケ・アーラー研究員は、「在宅勤務は、多くの従業員にワークライフバランスの改善可能性をもたらし、女性の雇用は劇的に増加するだろう」と分析する。特に、両親が共働きで小さな子がいる場合、在宅勤務の実施によって、ワークライフバランスの改善が容易になるとしている。WSIの調査によると、従業員が在宅勤務をする場合、より満足度が高く、効率的に仕事をすることが多い。ただし、出勤して働く同僚よりも長時間労働で、その分の賃金や自由時間は補償されないことが多いという課題もある。そのため、在宅勤務の実施に際しては、従業員の長時間労働を防止するための何らかの手段や、メンタルヘルスケアなどが欠かせないと指摘する。

構想案に対する反応

ハイル労働社会大臣の構想について、スベーニャ・シュルツェ環境大臣(SPD)は、「在宅勤務は、従業員の利便性を高める上、通勤に伴って発生する交通渋滞が緩和されるなど環境にも優しい」として、いち早く支持を表明した。しかし、メルケル首相の所属するキリスト教民主同盟(CDU)は、あえて法制化するのではなく、社会的パートナー(労使)の協議や合意に任せるべきだという意見が根強い。

参考資料

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