建設業における農民工の賃金保証金への新たな規制

カテゴリー:雇用・失業問題労働条件・就業環境労働法・働くルール

中国の記事一覧

  • 国別労働トピック:2022年4月

建設業の農民工に対する賃金滞納問題が深刻化する中、人的資源・社会保障部、住宅都市農村建設部、交通運輸部等の政府7部門は2021年11月に「建設業における農民工賃金保証金に関する規定」(以下:「規定」)(注1)を共同で施行した。

建設業の賃金保証金問題

建設業の賃金滞納問題は深刻で、総合建設請負業者による工事費や人件費の滞納が多いため、2016年に建設分野の賃金保証金制度が設けられ、2019年には「農民工賃金給付保障条例」で支払い義務がさらに強化された。

賃金保証金とは、「総合建設請負業者(ゼネコン)が銀行口座を開設し、建設工事請負契約額の一定割合を預け入れ、当該工事で働く農民工への賃金滞納が生じた際に賃金として使用する預り金」のことである(「規定」第2条)。なお、賃金保証金は「銀行保証」に置き換えることができ、一定の要件を満たす特定地域では、「工事保証会社保証」か「工事保証保険」等も代替として選択できる。

規制の統一と責任の明確化

近年、各地で賃金保証金制度が導入されたが、規制が統一されていないため、保証金預金の比率、責任主体、貯蓄方式に地域差があり、運用中に資金調達困難になる企業もあった。

そこで、「規定」では、総合建設請負業者に対して、建設許可取得日から20営業日以内に、建設工事の所在地の銀行に賃金保証金を預金するか、「銀行保証」を申請することが義務付けられた。また、一部の地域では、「建設業者」「総合建設請負業者」「下請け業者」の間で責任が不明確となる問題が生じていたが、賃金保証金の預金は「総合建設請負業者」が行うことも明確にされた。過去2年間に賃金滞納がない企業は、賃金保証金の預金比率が半減し、同3年間の場合は賃金保証金そのものが免除される。それに対し、過去2年間に賃金滞納があった企業の預金比率は50%以上増加し、賃金滞納「ブラックリスト」掲載企業は100%以上増加する。そのほか企業の手元流動性不足を解決するため、賃金保証金は、現金でなく「銀行保証」を利用することも許可された。

目的外使用の禁止

このほか「規定」により、賃金保証金は、滞納賃金の支払いにのみ使用でき、他の目的には使用できないことが明確化され、農民工の賃金支払い以外の理由で、賃金保証金を差し押さえたり、凍結したり、割り当てたりしてはならないとされた。総合建設請負業者が農民工への賃金を滞納した場合、まず賃金支払い命令を行政が行う。総合建設請負業者が拒否した場合、現地の人的資源・社会保障部が銀行に賃金保証金の使用を予告し、5営業日以内に農民工の銀行口座へ支払う。賃金保証金を使用した通知を行政から受けた総合建設請負業者は10営業日以内に賃金保証金の口座資金を補填するか、新しい「銀行保証」を申請しなければならない。期日までに、賃金保証金が補填されない場合や「銀行保証」が更新されない場合、さらに人力資源・社会保障部当局の勧告期限内に是正されない場合、「農民工賃金支払保障条例」第55条により、建設工事の停止が命じられ、5万元以上10万元以下の罰金が総合建設請負業者に科される。

賃金保証金の払い戻し

建設工事が完了し、賃金滞納がない場合、総合建設請負業者は、賃金保証金または銀行保証原本の返還を申請することができる。人的資源・社会保障部は、申請書の受領から5営業日以内に審査を行い、審査完了3営業日以内に、総合建設請負業者に賃金保証返還(取消)確認書を発行する。これを取扱銀行が確認した後、総合建設請負業者は、自由に口座資金を引き出すか、口座の解約を選択できる。

行政の監督と倫理規定

「規定」は、行政の監督倫理についても定めている。人的資源・社会保障部は、監督強化のため管理台帳を作成し、会計監査を厳格に実施し、賃金保証金制度を円滑かつ安全に運用する。

行政が賃金保証金を勝手に減免・免除したり、制限を超えて徴収したり、横領したり、理由なく返還を遅延させた場合は、責任を問われることになる。

参考文献

  • 中国政府網、人的資源・社会保障部、央広網。

参考レート

2022年4月 中国の記事一覧

関連情報