団結権保護法案と誤分類の修正

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  • 国別労働トピック:2019年12月

労働者の団結権、団体行動権の強化に加えて、フランチャイザー(本部)・フランチャイジー(加盟店)関係や、請負元と個人請負労働者に雇用関係を拡大することが織り込まれた団結権保護法案が連邦下院議会、労働教育委員会において2019年9月26日に賛成多数で可決した。

団結権と団体行動権強化

2019年5月2日、団体権保護法案(Protecting the Right to Organize Act(H.R. 2474))は連邦上・下院議会に提出された。労働者の団結権と団体行動権の強化が法案の目的である。加えて、労働者の団結権と団体行動権を阻害する使用者に対し、全国労働関係委員会(NLRB)が罰則を与える権限を強化する。全国労働関係委員会は労使関係の施行規則である全国労働関係法(NLRA)の運用を管理している。

誤分類の修正

団結権保護法案は、スマートフォーンなどのインターネット端末を媒介にしてサービスの提供者と利用者をつなぐギグエコノミーや、フランチャイズについても範疇にしている。ギグエコノミーで労働力を提供する場合、雇用ではなく請負とされることが多い。この場合、業務に関わる経費が自己負担となり、最低賃金や超過勤務手当や健康保険、年金、労働災害保険といった社会保障の適用から除外される。

フランチャイズ契約は、本部であるフランチャイザーと加盟店であるフランチャイジーの関係に従属性がある場合、労働者性が認められるかどうかが問われる。

法案は、ギグエコノミー下の請負労働者とフランチャイジーに、共同雇用(joint employment)の概念を導入し、雇用関係の存在を認めようとするものである。

共同雇用概念の適用

共同雇用とは、二つ以上の企業が共同で同一の従業員の雇用上の管理を行うもので、公正労働基準法(FLSA)の下で最低賃金や超過勤務手当など雇用主の義務を共同で負うものである。

一般的に、共同雇用は、企業が給与支払い、社会保険業務、福利厚生等の人事関連業務を一括して、PEO(Professional Employer Organization)と呼ばれる人材派遣企業が外部企業に委託する際に発生する。業務は委託元企業の職場で行うが、そこで働く労働者の雇用上の責任を、委託元企業とPEOの双方が担う。この共同雇用の概念を拡大することで、個人請負労働者やフランチャイジーを雇用労働者へと区分変更するのである。

強制的仲裁合意の撤廃

法案は、強制的仲裁合意(mandatory arbitration agreements)の撤廃も織り込まれている。これは、2019年5月に連邦最高裁で行われたEpic Systems v. Lewisの判決で、労働者が不満をもった際の紛争解決手段として、個人もしくは集団訴訟ではなく、第三者機関による仲裁合意を使用者が労働者に要求することができるとしたものである。

労働者利益を代表する民主党は、強制仲裁合意不正義廃止法案(the Forced Arbitration Injustice Repeal Act (H.R. 1423) )を2019年9月、連邦下院議会に提出した。この法案は雇用、消費者、独占禁止、市民権に関し、これまでに、訴訟ではなく、強制仲裁合意が行われた事案を無効にすることを目的としている。

今後の見通し

団結権保護法案は2019年末までに連邦下院議会で投票となる見通しとなっている。法案を支持する民主党が多数派を占めていることから、可決される見通しが高い。

2018年の中間選挙以降、民主党は労働者保護に関連した法案を複数提出している。男女間その他の賃金差別を禁止する法案(H.R.7),LGBT労働者の職務上の差別を禁止する法案(H.R. 5)、連邦最低賃金を15ドルに引き上げる法案 (H.R. 582)はすでに連邦下院議会を通過している。

連邦上院議会はこれらの法案に反対の姿勢を示している共和党が多数派を占めているため、成立の行方は不透明であるが、2020年の大統領選挙を見据えて、民主党が攻勢をしかけている格好となっている。

(調査部海外情報担当 山崎 憲)

参考

  • Diaz, Jaclyn (2019) House Democrats to Renew Push for Worker Misclassification Bill, Daily Labor Report, Sep. 26.

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