農業労働者に労働基準法と団体交渉権(ニューヨーク州)

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  • 国別労働トピック:2019年12月

農業労働者は労働基準法と団体交渉権の適用対象から除外されてきたが、ニューヨーク州議会は6月19日に上院、翌20日に下院が賛成多数で農業労働者に労働基準法を適用するとともに、団体交渉権を認める法案を可決した。

1938年労働基準法と農業労働者

1938年に成立した公正労働基準法(FLSA; Fair Labor Standard Act)は、1週あたりの労働時間を40時間に制限するとともに、超過した分は1.5倍の割増賃金を支払うことを使用者に義務付けている。このFLSAの規定から農業労働者はおよそ80年間にわたって除外されてきた。その理由は、農業が天候に左右されることや、季節により作業量に大きな差があることから、週40時間を大きく割り込んだり、超過したりするなど時間が読めないことや、悪天候で作業ができない時間があるといったことなどだった(注1)

しかし、農業労働者の労働環境は長時間で低賃金であるとともに、ハラスメント等にもさらされていることが人権団体やコミュニティ組織の支援により、近年になって公になり、2016年の大統領選挙で民主党候補の一人であったバーニー・サンダース上院議員が活動を支援したことから広く知られるようになって、農業労働者へのFLSAの適用および団体交渉権の付与が議論されるようになった。

このような状況のなか、1960年代の公民権運動を活動の起源とするニューヨーク自由人権協会(The NCLU; The New York Civil Liberties Union)が原告となり、農業労働者を州労働法の適用から除外して、労働時間規制と団体交渉権の外に置くことが憲法違反にあたるとして州政府を訴えたことがきっかけとなって、州労働法の改正案が議会にはかられることになった。

週60時間労働

2019年6月19日に州上院、20日に州下院が改正案を可決した。その内容は、1週あたりの労働時間を60時間として、超えた部分は1.5倍の割増賃金の支払いともに、1週ごとに連続24時間の休息を与えることが使用者に義務付けられるというものである。

当初、週当たりの労働時間は40時間としていたが、19の農業事業主団体からなる連帯組織であるGrow NY Farmsおよび、その支持政党である共和党との調整により、労働時間制限が延長されて法案が可決された。これにより、農業労働者に公正労働基準法が適用されるとともに、団体交渉権が付与された州は、カリフォルニア、ハワイ、ミネソタ、メリーランドに続き、5つめとなる。

週40時間をめぐる攻防

法案は州知事の下に設けられた委員会で再び検討されることになる。委員会のメンバーには、労働者を代表してニューヨーク州AFL・CIO(アメリカ労働組合総同盟産業別組合会議)および農業事業主団体であるGrow NY Farmsが参加している。

焦点は残業代の対象となる労働時間をどこからにするかということである。ニューヨーク州農務省の試算では、州内におよそ10万人の農業労働者がおり、労働時間の上限規制にともなう残業代の支払いで労務コストを17%、3億ドル引き上げることになるとし、Grow NY Farmsおよび共和党が負担増の軽減を求めている。

一方で、労働者側の団体は、州内の農業による収益が年あたり40億ドルあり、労務コスト上昇による影響は大きなものとはならないとして、残業代対象となる労働時間の縮減は必要ないだけではなく、週60時間制へと妥協することなく、他産業の労働者と同様に週40時間制とするべきであると主張している。

(調査部海外情報担当 山崎 憲)

参考

  • Herzfeld, John. and Clukey, Keshia. (2018) New York Sets Union Rights, Labor Standards for Farmworkers, Daily Labor Report, 2019 Jun 20.

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