連邦最賃引上げの効果(連邦予算局報告)
最低賃金を時給7.25ドルから15ドルへと倍増させる法案、「賃金引き上げ法(the Raise the Wage Act(H.R.582, S.150))」の審議資料として連邦予算局は2019年7月8日に「連邦最低賃金の引き上げによる雇用と世帯収入への影響」と題するレポートを公表した。
それによれば、最賃が15ドルに引き上げられれば、最賃以下の家族の収入が引き上げられるだけでなく、所得の高い家族の収入が減少する効果をもたらし、結果として所得格差を縮小する効果があるとする。
「賃金引上げ法」審議
「賃金引上げ法」は、連邦下院議会、教育・賃金委員会委員長のボビー・スコット下院議員(バージニア州・民主党)が190人の民主党議員の署名をもって、2019年1月19日に下院議会に提出された。現在7.25ドルの連邦最低賃金を向こう6年間で15ドルに引き上げることを柱に、チップを受け取るレストラン等で働く労働者の最低賃金を通常の労働者と一本化することが織り込まれている。法案は連邦下院議会、教育・賃金委員会で可決されことを受けて連邦下院議会に送られ、引き上げる年数が6年から7年へと1年延長され、連邦上院議会、健康・教育・労働・年金委員会(Health, Education, Labor, and Pensions)へと送られた。委員会で可決されれば、連邦上院議会へと審議が進むことになる。その段階で、議会予算局(CBO; Congressional Budget Office)が最低賃金引上げに関する影響についてのレポートが公表された。
2730万人の労働者の収入が増加
2019年7月8日に議会予算局(CBO; Congressional Budget Office)が公表したレポートは「連邦最低賃金の引き上げによる雇用と世帯収入への影響」である。
CBOは、6年後の2025年までに連邦最低賃金を時給10ドル、12ドル、15ドルのそれぞれに引き上げたと仮定して、雇用と世帯収入のそれぞれを予測した。
雇用については、時給を15ドルに引き上げた場合、予測中央値で2025年に130万人の雇用が失われるとした。収入については、現在15ドル未満の1700万人、15ドルを上回っているが潜在的な影響を受ける1030万人を合計した2730万人の労働者の収入が増加するとした。
レポートは、時給15ドルに引上げた場合、①賃金の上昇は失業によって相殺されるが労働者の収入得を引上げる、②人件費の上昇は消費者に転嫁され、事業収入を低下させるとともに、価格が引上げられる、③雇用の減少と資本ストックが減少し、国内生産量を若干削減すると推測している。
最低賃金の引き上げによる所得格差縮小についてもレポートは分析しており、貧困ラインを下回る家族の平均収入を5.3%上昇させて、130万人を貧困から脱出させるとともに、貧困ラインの1~3倍の収入がある家族の収入を3.5%引上げる一方、貧困ラインの3~6倍の比較的に高い収入がある家族の収入を0.1%、貧困ラインから6倍以上の高収入の家族の収入を0.3%、それぞれ減少させることを通じて、所得格差を縮小させるとする。
チップを受け取る労働者を最低賃金に統合
チップを受け取るレストラン労働者や農業労働者の最低賃金は1938年に成立した公正労働基準法には織り込まれていなかった。その後、1966年に公正労働基準法が改正された際にチップを受け取るレストラン労働者にはじめて最低賃金が導入されたが、その額は一般的な労働者の半分であり、最低賃金における二重制度となっていた。
1986年の改正では、一般的な労働者の半分とされていた最低賃金は、2.13ドルに固定されることになった。それまで一般的な労働者の最低賃金が引き上げられれば、その半分へと引き上げられていたがその道筋が閉ざされたことになる。それ以降、チップを受け取るレストラン労働者の最低賃金は連邦法では2.13ドルから変わっていない。
その一方で、州レベルでは独自の最低賃金制度を持つことができるため、2019年9月現在で、29州およびコロンビア特別区が連邦よりも高い最低賃金であり、チップを受け取る労働者を低い最低賃金とする二重制度を撤廃している州が7ある。今回の「賃金引上げ法」の提案は、こうした州の制度が連邦レベルに移されるものいえる。
(調査部海外情報担当 山崎 憲)
参考
参考レート
- 1米ドル(USD)=108.52円(2019年12月12日現在 みずほ銀行ウェブサイト
)
2019年12月 アメリカの記事一覧
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