YouTuber組合と金属産業労組の連携
―"FairTube"キャンペーン
ドイツ最大の産別である金属産業労組(IGメタル、230万人)とYouTuber組合は7月26日から、YouTubeと親会社のGoogleに対して、"FairTube"というキャンペーンを開始した。会社側の一方的なルール変更によって発生した諸問題を訴え、判断基準の透明化や一方的な決定方法の見直し等を求めており、最終の回答期限を8月23日としている。
発端は2017年のルール変更
「YouTuber(ユーチューバー)」とは、YouTube/Googleが運営する動画共有サイト「YouTube(ユーチューブ)」に自作の動画等を投稿する者を指す。以前は、動画の再生回数が多いと広告がつき、それによってYouTuberが収益を得る仕組だった。しかし、次第に再生回数を増やすために、内容が過激化したり、観る者が不快に感じる動画が増えたため、YouTubeは2017年にルールを変更し、同社のポリシーから外れる動画の非表示化や非収益化等、積極的な対処をするようになった。なお、こうした対処は、アルゴリズムと1万人の評価者の判断の組み合わせで行われている。
このような2017年のルール変更後、投稿動画が、理由も分からず突然非表示化されたり、広告を外されたりするYouTuberが急増し、中には収入が8割以上減り、生活に窮する者も出てきた。
"FairTube"の主な要求内容
以上の状況を踏まえて、IGメタルとYouTuber組合が実施する"FairTube"では、YouTube/Googleに対して、以下の要求を行っている。
- 動画の収益化と視聴に影響する全カテゴリーの決定基準を公開すること。
- 個々の決定に対して明確な説明を付すこと。例えば広告が外された場合、動画のどの部分が広告主の設定基準に違反しているか等。
- 動画の非表示化や非収益化の判断をした場合に、YouTuberに対して説明権限や裁量のある担当者(人間)の窓口・連絡先を設置すること(その判断にミスがあった場合には元通りにすること)
- YouTubeの決定に対する、YouTuberからの異議申し立てを受け付けること。
- 紛争解決のための独立した調停委員会を設置すること。IGメタルとクラウドソーシング協会が共同運営するオンブズオフィスとプラットフォーム事業者の行動指針が参考となる。
- 諮問委員会等を設置して、重要な意思決定にYouTuberを参加させること。
異色の連携と支援の背景
IGメタルがYouTuber組合と連携することは一見奇異に感じるかもしれない。しかし、同労組は古くから金属・電機部品の加工等を自宅等で行う「家内労働者」を組織化してきた歴史がある。この流れを汲み、PC等を用いた極小タスクを自宅等で多数こなす―旧来の家内労働者に通じる働き方をする―「クラウドワーカー」に対し、いち早くオーストリアやスウェーデンの組織と連携して「Fair Crowd Work」というサイトを立ち上げ、支援に乗り出してきた。YouTuberは、立場的に支援が必要なクラウドワーカーと類似する部分があり、同労組の取組み対象として今回の連携が実現した。
「見せかけの自営」の可能性も
IGメタルは今回、著名な労働法学者であるトーマス・クレーベ教授の協力を得て、訴訟の可能性も検討している。もしプラットフォーム運営者であるYouTubeが、動画の内容や質などの細かい仕様に関する要求を厳しく規定し、YouTuberとの間に収入等を含めた永続的な関係性を築いている場合、裁判等でYoutuberが「見せかけの自営(=労働者)(注1)」として認定される可能性もある、と同労組は主張している。
Googleからの回答
訴訟に発展するかどうかが注目された今回のキャンペーンだが、期限最終日の8月23日に、両組合に対してGoogleドイツから正式な書状による回答があった。そこには、「Googleにとって、クリエイターであるYouTuberの満足度は非常に重要であり、ベルリンで改善に向けた話し合いの場を設けたい」と書かれており、今後、実施が予定されている。
Googleドイツから回答と対話への招待がなされた点について、"FairTube"サイトによると、クリスチーネ・ベナーIGメタル副委員長は、「これから始まる交渉を楽しみにしている。YouTubeがどのように変わるかは今後明らかになるだろう」と述べ、YouTuber組合創設者のヨーク・シュプライブ氏は、「今回のキャンペーンで組合員が1.5万人から2.2万人に急増した。これは今後のGoogleとの話し合いに向けて、とても力になる」と述べている。
注
- 見せかけの自営(Scheinselbständigkeit)とは、契約上は独立自営の労務(役務)を外部企業のために提供するが、実際には労働関係において非独立的な仕事をしている者を指す。「見せかけの自営」と認定されると、労働者と同等とみなされ、労働者に適用される法律が全て適用される。「偽装自営」や「仮装自営」と訳されることもある。(本文へ)
参考資料
- IG Metall, FairTube, Fair Crowd Work, Deutsche Welleほか。
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- 海外労働情報 国別労働トピック 2019年1月「クラウドワーカーに関する議論と法的課題」
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