クラウドワーカーに関する議論と法的課題

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  • 国別労働トピック:2019年1月

デジタル化の進展によって、多様な自営業の拡大可能性が議論されている。しかし、これまでのところ、ドイツで自営が著しく増加したことを示すデータはない。ただし、専業・兼業を含むクラウドワークなどの新しい就業形態が今後重要性を増す場合、適切な法的区分や保護の在り方を検討する必要があると政府は考えている。

以下に、現在出ている主な議論を紹介する。

1.クラウドワークとは

クラウドには、「Cloud」と「Crowd」という2つの用語がある。現時点で必ずしも概念が統一されているわけではないが、ドイツ政府の定義によると「Cloudwork」は、場所を問わず、世界中からPCで遂行できるデジタルサービスのアウトソーシングを指す。プラットフォーム上で、企業が個別に選抜した比較的高い技術を有する自営業者等に業務を委託し、消費時間ごと、もしくは遂行されたサービスごとに報酬を支払う。他方、「Crowdwork」は、厳選された個人ではなくインターネットユーザーの不特定グループ(群集)に仕事が委託される。さらに委託内容も、単純で少額報酬のマイクロタスクやクリックワーク、または勝者のみに報酬が支払われるコンペティション形式が多い。

以上のようにクラウドワークには、高技能者が対応するCloudworkと、業務の難易度や報酬が比較的低いCrowdworkが混在している。そして、いずれも当事者である三者、「クラウドワーカー」「プラットフォーム運営者」「顧客」が、世界のどこでも活動できるため、クラウドワークの状況把握や市場の規制は極めて難しい。

2.社会科学研究所の分析と正規雇用への影響可能性

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写真:ベルリンの「wework(コワーキング
スペース)」。多くのクラウドワーカーやス
タートアップの拠点になっている(筆者撮影)。

ドイツで比較的知名度の高い3つのプラットフォーム企業である「Upwork」「clickworker」「InnoCentive」を社会科学研究所(ISF)が調査したところ、単純作業から設計案などの複雑な業務まで、様々な技能レベルの依頼が混在していた。分析を担当したエリーザベト・フォーグル研究員によると、クラウドワークは一見すると「遊び半分のような競争(Scheinbar Spielerischer Wettbewerb)」に見えるが、実際には徹底的な業績管理体制下にある。プラットフォーム運営者は、各クラウドワーカーの作業工程を漏れなく分析することが可能で、良い評価を得た者だけが、さらなる受注を期待できる。そのようにして「徹底的な個人業績」志向の制度が生まれる一方で、クラウドワーカー自身に与えられる権利や情報は少なく、通常は社会保障も得られない。また、支払い、労働時間、休暇等の労働法上の最低基準が取引約款で除外されていることが多い。これが企業にとっては、業務を迅速・柔軟に、かつ有利な条件で処理できるメリットにつながっている。

これに対して、このまま、十分な規制をせずにクラウドワークが急速に拡大すれば、いずれクラウドワーカーが基幹従業員(Stammbelegschaften)と競合し、将来的に正規の雇用関係を脅かすような強力で広範囲に及ぶ社会的影響が出る可能性があるとフォーグル研究員は警告している。

3.クラウドワーカーの法的位置付け

以上を踏まえて、現在ドイツではクラウドワーカーの法的区分や保護の在り方が議論されている。クラウドワーカーに何らかの法的保護が必要な場合、ドイツ法上、「労働者」、「労働者類似の者」、「家内労働者」の3つの法的区分が考えられる。

(1)「労働者」の可能性

「労働者」と「自営業者(フリーランス)」の法的関係の違いは、サービス(労務)提供者が自ら有すると考える「人的従属性の程度の違い」にすぎない。つまり、仕事の場所、時間、仕事内容についての指示の従属性が強いほど、雇用関係が存在すると仮定されやすくなる。

クラウドワークは既述の通り、「クラウドワーカー」「プラットフォーム運営者」「顧客」の三角関係になっている。顧客とクラウドワーカーの間に契約関係が存在する場合もあり、その一部は雇用関係と呼ぶものがあるかもしれない。しかし、ほとんどは、異なる発注者との限定的な契約に細分化されていることが多く、雇用契約でない可能性が非常に高い。

プラットフォーム運営者とクラウドワーカーの間に契約関係が存在することもある。特に提供されるサービスの要求が厳しく、細かい仕様を求める場合や、特定のプラットフォーム運営者のための永続的な関係性が築かれている場合には、労働者(「見せかけの自営業者」)として位置づけられる可能性があるが、この場合は地位確認手続き等でしか明らかにされない。

(2)「労働者類似の者」の可能性

ドイツの法律は、労働者と自営業者の間に「労働者類似の者(Arbeitnehmerähnliche Person)」というカテゴリーを設けている。

労働者が人的従属性によって特徴づけられるのに対して、労働者類似の者は、「経済的に従属し、労働者と同程度の社会的保護を必要とし・・・他者のための業務・サービス契約に基づいて働き、他者の協力なく基本的に1人でサービスを遂行し、さらに、①主に1人の者のために働くか、または②平均してその業務の遂行のために受け取る権利のある報酬合計の半分以上が1人の者によって支払われる者」とされる(団体協約法(Tarifvertragsgesetz)第12a条(1))。

また、連邦労働裁判所は、労働者類似の者を次のように法的に位置づけている。「労働者類似の者は自営業者である。雇用関係を特徴づける人的従属性は、経済的従属性の要素で置き換えられる。通常、その者の生活が、契約相手方のために提供するサービスから得られる収入に依存している場合、経済的従属性があると考えられる。したがって、労働者類似の者は、主に1人のために働き、その結果得られる報酬が自分の生計の決定的な部分を占めるならば、ほかの複数のクライアントのために働くこともできる。」。

これをクラウドワークに置き換えてみると、クラウドワーカーが、生活の糧となる収入の大部分をプラットフォーム運営者から直接報酬を受け取る場合に限り、労働者類似の者と位置付けられる可能性がある。しかし、現実には殆どの場合、クラウドワーカーの報酬の権利的基礎となるのは、「発注者(顧客)」による支払いであり、顧客は恒常的に複数いる可能性が高い。たとえ労働者類似に認定されたとしても、労働法の適用の大半から除外されるため、保護が弱い状態となっている。解雇に対する保護や、他の労働法上の権利の多くも否定されている。限定的に、連邦有給休暇法第2条第2文に従い、有給年次休暇の権利はあり、また職場での安全規則の対象にも含まれるほか、差別禁止法も適用されている。

(3)「家内労働者」の可能性

現行では、クラウドワーカーを労働者類似の者と位置付けるのは困難だが、家内労働法に基づく家内労働者と位置付けることは可能だろうか。

家内労働法は、家内労働者に対して、特別な労働時間保護を付与している(家内労働法第10条)。同法11(1)条において「仕事量は、労働者の引受能力を考慮に入れて、労働者の間で平等に分配されるべき」と規定されている。さらに同法第29a条以下で、解雇に関する特別な保護もある。業務委託者は少なくとも1年間にわたり、または業務委託期間が1年より短い場合にはその業務期間の全期間にわたり、当該労働者に定期的に発注する仕事量の4分の1を削減する予定がある時には通知期間を守る義務がある。また、業務委託者は、全ての家内労働者のリストを維持し、目に見える場所に掲示し、写しを州の労働監督機関に送付しなければならない(同法第6条第1文~4文)。このほか、同法第21(2)条に基づき、業務委託者は仲介者の契約上の責任に加えて、報酬の権利に対して責任を負う。しかし、クラウドワークにおけるプラットフォーム運営者がこうした責任を負うケースはほとんど存在しない。つまり、クラウドワーカーは経済的にプラットフォーム運営者に依存しているかもしれないが、現在の家内労働法からは、家内労働関係にあるという結論は導きだせないのである。

4.多面的に考慮する必要性

写真

写真:「wework」はNY発のコワーキング
スペースで、2018年12月時点でベルリン市
内に7か所の拠点を持つ(筆者撮影)。

以上見た通り、クラウドワーカーを、いずれかのカテゴリーに位置付けるのは、現状では大きな困難が伴う。

残る可能性としては、必要に応じて、家内労働法を準用した保護をクラウドワーカーにも一部拡張する手法や、あるいは、新たにクラウドワーク法のような単独法を制定することが考えられる。また、ドイツでは現在、1人自営業者(Solo-Selbständige)の特別な保護を、法として定めるべきか否かについての議論が行われている。この場合、労働法は必要に応じて個別の「モジュール」に分けられ、個々の「構成要素」に基づいて個別に適用されることになる可能性が高い。

いずれにしても、その解決法には多様な選択肢があり、労働法以外に社会保障法上の見地からも多面的に考える必要がある、とドイツ政府や専門家らは考えている。

参考資料

  • Bundesministerium für Arbeit und Soziales (2016) Weißbuch Arbeiten 4.0, Böckler Impuls10/2018 - Crowdworker nicht allein lassen, Bernd Waas / Wilma B. Liebman / Andrew Lyubarsky / Katsutoshi Kezuka(2017) Crowdwork – A Comparative Law Perspectiveほか。

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