「ライダー」は自営か、労働者か
―ギグワーカーの現状と課題

ドイツの大都市では、四角い大きなバッグを背負い、自転車でレストランフードを個人宅へ配達する「ライダー」の姿を頻繁に見かける。プラットフォーム(モバイルアプリ)を介した「ライダー」のような働き方は「ギグワーク」と呼ばれる。以下にライダーをめぐるドイツのギグワークの状況を紹介する。

ギグワークとは

「ギグ」というのは、元々は舞台パフォーマンスや演奏セッションのことで、その場で提供されるちょっとしたサービスを指す。ここから派生した「ギグワーク」という言葉は、サービスの開始から終了までの短さを強調している。現時点で必ずしも用語概念が統一されているわけではないが、ドイツ政府によると「ギグワーク」とは、プラットフォーム(モバイルアプリ)をベースに「現地で」一般的に「個人」を対象に提供するサービス(仕事)をいう。

具体的には、レストランフードの配達サービスのほか、ケア(保育・介護)サービス、清掃サービス、車両輸送サービスなどがある。

「ギグワーク」の場合、プラットフォームを介した「ワーカー(供給側)」と「顧客(需要側)」の双方が現場にいるという「場所」に依拠するため、当地の法律が適用対象となる。この点で、スマートフォンやPCを通じて、“世界中どこからでも”作業できる「クラウドワーク」とは状況が異なる。

ライダーの担い手と問題点

ライダーの担い手の多くは学生である。スマートフォンと自転車があれば、気軽に収入を得ることができ、週末や夜間に時間がある学生のライフスタイルに比較的合致しているためである。プラットフォーム運営会社は「ライダーは、ヒップ(お洒落、かっこいい)」というイメージ戦略を展開しており、そのことも学生が多い理由となっている可能性がある。このほか、ライダーには留学生も多いが、彼らにとっては、配達業務を通じて街中の位置関係を把握したり、他のライダーとのコミュニケーションをしたりしながら当地の生活に溶け込めるといったメリットもある。

一方で、ライダーの業務は、制限時間内に配達を完了しなければならない強いプレッシャーや、車や歩行者との接触、荒天時の転倒、冬期の道路凍結によるスリップなどのリスクが高いといったデメリットもある。

また、ドイツでは、同じライダーでも、プラットフォーム運営会社によって「自営業」として扱われたり、「労働者」として扱われたり、異なる待遇を受けている。以下にその現状を詳しく見ていく。

「デリバルー社」―自営かつ有期契約

イギリス発祥のデリバルー(Deliveroo)社は、2012年にロンドンで設立後、急成長し、2017年夏には企業評価額が最大15億ポンドと推算されるまでになった。現在は12カ国でサービスを提供しており、ドイツは2015年4月からベルリンに事務所を構えている。世界各地に3万人を超えるライダーがいて、そのうち半数はイギリスで働いている。ドイツには約1000人のライダーがいて、うち300人はベルリンで働いている。デリバルー社のライダーは、「自営業者」という扱いを受ける。しかし、制服着用でシフト勤務があり、賃金(報酬)はデリバルーによって設定されており、自由度が低い。ドイツのライダーは配達1件につき、時給7.5ユーロ+1~2ユーロの上乗せ賃金を受け取るが、誰がどのくらいの上乗せ賃金を受け取るかはデリバルー社に裁量権がある。

デリバルー社では、2018年にケルンのライダーたちが事業所委員会(注1)を設立しようとしたところ、事業所委員に選ばれた複数のライダーの契約を会社側が打ち切るという強硬策に出て、ドイツ労働総同盟(DGB)や食品・外食産業労組 (NGG)等から強い批判を受けている。

「フードラ社」―ミディジョブが大半

他方、ドイツ発のフードラ(Foodora)社は、2014年にミュンヘンで発足後、すぐにベルリンに本部を移し、2015年からデリバリーヒーロー(Delivery Hero)社の傘下に入っている。ドイツ国内には約2400人のライダーがいて、うち450人はベルリンにいる。ライダーは「労働者」として扱われ、殆どはパートタイム労働の一種である「ミディジョブ(収入の平均月額が450.01ユーロ以上、850ユーロ以下)」で働いている。「ミニジョブ(同450ユーロ以下)」や「フルタイム」は非常に少ない(注2)

時給は9~11ユーロ(ミュンヘンでは最大11ユーロ)で、確実に自身のシフト勤務をこなし、遅刻や無断欠勤をせず、時間内に配達をこなしたライダーには1ユーロの上乗せボーナスが2カ月後から支給される。フードラ社はライダーのほかに「ライダーキャプテン」をおき、ライダーとして働きながら、チーム内のライダーの面倒を見る業務を課している。ライダーとライダーキャプテンは、ワッツアップ(WhatsApp)アプリ(注3)のグループで連絡を取り合い、チーム内で問題や無断欠勤が生じた場合は、ライダーキャプテンが最初の相談相手となる。ライダーキャプテンの時給は通常よりも1ユーロ高い。ライダーキャプテン自身に問題が生じた場合は、さらに上位の「シニアライダーキャプテン」に相談することができる。

当初、フードラは、デリバルーと同じく、ライダーを自営業として処遇していたが、ライダーがプラットフォーム(フードラ社)から非常に明確な指図を受け、かつその指図に反することができないことから、ドイツ法上「見せかけの自営(=労働者)(注4)」とされる可能性が高く、ライダーの質の低下なども見られたため、すぐにパートタイム雇用に切り替えた経緯がある。

各地でライダーの合同抗議デモも

既述の通り、ライダーは比較的時給が安く、配達サービス中の事故リスクなどが高い。また、プラットフォーム運営会社によって待遇も異なる。

このような現状の改善を図るため、デリバルーやフードラなどのライダーは連携して、各地で合同の抗議活動を展開している。2018年6月には、ドイツ労働総同盟(DGB)や食品・外食産業労組(NGG)の支援を受けて、比較的規模の大きい合同抗議を行い、フベルトゥス・ハイル連邦労働社会大臣も現場に登場して、ライダー達の要求に耳を傾けた。ライダーらは、①時給1ユーロの賃上げ、②シフト計画作業のための週1時間の有給労働時間の認定、③自転車やスマートフォンが業務遂行のために故障した際の修理費用をプラットフォーム運営会社が負担すること、④履行した労働時間に関する透明性、⑤毎月の最低労働時間数の保障、などを主な要求として掲げている。

州政府の取り組みと労使の見解

ベルリン統合・労働・社会省は2017年、ギグワークに関する労働課題を話し合うため、労働組合、使用者団体、プラットフォーム運営者などの関係者を集めたワークショップを開催した。ワークショップでは、「良き労働(Gute arbeit)(注5)」を形成するための方策が話し合われ、主に、①ギグワーカーの身分(自営か労働者か)、②ギグワークの公正な報酬の在り方、③ギグワーカーの利権代表組織の必要性、④ギグワーカーの技能・評価手法に関する問題、⑤顧客(発注者)に対する啓発の必要性などが話し合われた。

ワークショップを踏まえて、2017年に出されたベルリン政府の報告書によると、フードラの取締役であるエマニュエル・パウラ氏は「ドイツにおいて、プラットフォーム運営者が、ライダーを自営業者として取り扱うモデルに未来はない。税務当局と年金保険機関も、自営業として取り扱うことはドイツ法に適合しないだろうと感じている」とコメントしている。他方、統一サービス産業労組(ver.di)のギュンター・ハーケ氏は「見せかけの自営という問題に関して政治的行動の必要性がある。見せかけの自営に対する基準はかつてリスト化しようとしたが実現しなかった。しかし、特にギグワークについては、今後は、明確な基準が重要だ」と述べている。

最後に、報告書の中で州政府は、ギグワークにおける「ワーカー」、「プラットフォーム運営者」、「顧客」の三者の労働関係を明らかにする必要があり、不安定かつ低賃金に陥りやすいギグワークに対する公正な労働条件の形成と、社会保障制度の維持を両立しながら、三者が納得できる枠組み条件を創出することが重要だと結論づけている。

参考資料

  • Bundesministerium für Arbeit und Soziales (2016) Weißbuch Arbeiten 4.0, Senatsverwaltung für Integration, Arbeit und Soziales(2017) Der Job als Gig – digital vermittelte Dienstleistungen in Berlinほか。

参考レート

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