北米自由貿易協定改定交渉でカナダが米国労働者の権利向上を求める
9月第1週から北米自由貿易協定(NAFTA)改定交渉第2ラウンドがメキシコシティーで開催された。議題は労働とエネルギー。その場で、カナダ政府は米国、メキシコシティー双方の労働基準を高めるよう求めた。
NAFTAの見直し
NAFTAは、米国、カナダ、メキシコ三カ国による自由貿易協定で、1994年1月に発効した。それともに、関税のほとんどが撤廃され、2008年には貿易協定が完成した。
2016年11月の大統領選挙に向けて、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)とNAFTAからの離脱を公約を掲げていたトランプ大統領の当選を経て、見直し交渉のテーブルに上ってきたかっこうだ。
米国にとって、カナダ、メキシコは輸出総額の三分の一を占めており、重要な貿易相手国となっている。米国からすれば、自動車や電気機器の工場をカナダ、メキシコに置いて安価な労働力を活用するとともに、主要な輸出先国としてNAFTAの恩恵に預かっていたのである。一方で、米国の輸入元国をみれば、カナダ、メキシコ両国で3割弱となっている。米国企業が工場を置いていることから、当然に米国内への機械、自動車関連の輸出は増えており、NAFTA発足後5年間でメキシコからの輸出は約2.5倍になった。
このメキシコからの輸出額が貿易赤字を招く大きな原因であるとともに、米国の自動車、電気機器関連企業がメキシコに工場を移転させることで米国人の雇用が失われだけでなく、メキシコの安価な労働力によって米国内の労働者の労働条件が引き下げられていると、トランプ大統領は批判したのである。
これを受けて、NAFTA見直し交渉の第一ラウンドが8月16日にワシントンD.C.で始まった。この場で、米国は製造業分野での貿易が不均衡な状態にあるとして、自動車の原産地規則の導入を主張することになった。
カナダ政府による米国への主張 ―労働組合をつくりやすく
メキシコの安価な労働力を原因とする貿易赤字の拡大を問題視する米国に対して、カナダは、米国、メキシコ双方の労働者の労働条件の低さが、カナダの労働者の利益を不当に阻害している、NAFTA再交渉第2ラウンドで主張した。関連して、トルドー首相は、モントリオールで開催されたカナダ食品産業労働組合(UFCWカナダ)全国大会の場で、NAFTA改定が労働組合員の利益になるだろうと発言した。
具体的には、現在、米国各州ですすんでいるライト・トゥ・ワーク法を撤廃する連邦法を制定するよう、カナダ政府の交渉代表がメキシコシティーで開催中のNAFTA改定交渉第2ラウンドで主張したのである。
ライト・トゥ・ワーク法は、企業と交渉権を獲得している労働組合に対して、企業が賃金から労働組合費を天引きするチェックを禁止するとともに、対象となる従業員が労働組合費を支払わない権利を認めるというもの。米国では、労働組合が企業と合法的に団体交渉を行うためには、同様の勤務体系、勤務時間、職務、賃金体系にある労働者を交渉単位として、その労働者の過半数が投票で労働組合に交渉権を委任することが必要である。ライト・トゥ・ワーク法は、合法的な交渉権を有している労働組合を弱体化するものとして知られる。企業誘致を通じて経済活性化を求める州にとって、労働組合を弱体化することが有効であるとして、同法の成立が全米各州で続いている。現在では28州で成立している。
トランプ政権下では、州法であるライト・トゥ・ワーク法を連邦法に引き上げる全国ライト・トゥ・ワーク法が検討されるなど、労働組合バッシングが続いていた。NAFTA改定交渉の場でカナダから、米国のライト・トゥ・ワーク法が、米国内の労働組合の権利を阻害しているとともに、米国の労働者の賃金を引き下げ、カナダの労働者、労働組合員の利益をそこねているとした主張は、メキシコの低い労務コストを批判していた米国にとって足元をすくわれた格好になったといえる。
一方、米国の労働組合員および民主党は、現在の貿易協定では、米国の製造業が安価な労働力を求めて、カナダ、メキシコ国内に工場を移転しており、それにより、雇用の点で不利益を被っているとして、製造業に対するなんらかの規制が必要だと主張している。
(調査部海外情報担当 山崎 憲)
参考
- Morrow, Adrian(2017)Canada demands U.S. end ‘right to wok’ laws as part of NAFTA talks, THE GLOBE AND MAIL
- Richardson, Tyrone(2017)Fix NAFTA Manufacturing Loophole, Dems and Unions Demand, Daily Labor Report, Aug.14.
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