ホワイトカラー・エグザンプション
―年収3万3660ドルで決着か
2016年12月に行われる予定だったホワイトカラー・エグザンプションに関連した労働基準法の規則改正は、一年後を迎えてようやく決着する見込みだ。さまざまな利害調整の結果、4万7476ドルだった当初案は、3万3660ドルに引き下げられる可能性が高まっている。
オバマ政権下のホワイトカラー・エグザンプション改革
オバマ前大統領は2014年に連邦労働省に対して行政規則の変更を検討するように指示し、連邦労働省からホワイトカラー・エグザンプションの対象となる週給要件を455ドルからほぼ倍増の913ドルに引き上げる案が翌年5月に公表された。これは年収で4万7476ドルに相当する。
オバマ政権は一貫して労働者賃金の底上げを目指していた。連邦最低賃金の引き上げ、連邦政府が契約する請負労働者の契約単価引き上げ、ホワイトカラー・エグザンプションの対象年収(週給)の引き上げによる残業代支給対象者の増加。これらのうち、連邦法の改正が必要な連邦最低賃金の引き上げは頓挫した。政権に反対する共和党が議会を支配していたからである。一方、請負労働者の契約単価引き上げは大統領令によるものであり、ホワイトカラー・エグザンプションは労働基準法(FLSA)に関する行政規則であることから、連邦労働省に権限がある。つまり、どちらも議会による議決を必要としない。
請負労働者の契約単価の引き上げはすでに実施された。ホワイトカラー・エグザンプションに関する行政規則の改正も実施される寸前までの状況にあった。しかし、2016年11月の大統領選挙の実施と共和党および経営者団体の強固な反対が先行きを不透明にさせていた。
テキサス州連邦判事の反対
オバマ政権下のホワイトカラー・エグザンプションに関する行政規則の改正は伸長にすすめられた。連邦議会での議決の必要のない行政規則の改正であっても、連邦労働省のウェブサイト上で意見聴取の場を設定するとともに、対象となる年収額は関係者と調整しながらすすめられてきた。
その結果、週給913ドル、年収4万7476ドルと設定したのちに、物価上昇に応じて調整することで、2020年に5万1000ドルになることが予定されていた。それまでは、ホワイトカラーと認定されると、年収2万3660ドル以上であれば残業代が支給されなかったが、2016年12月からは、年収4万7476ドルまでであれば残業代が支給される。これにより、年収の大幅な上昇をオバマ政権は期待したのである。
しかし、そもそもホワイトカラー・エグザンプションは年収要件だけで決められるわけではない。公正労働基準法(FLSA)は、残業代支給対象からホワイトカラーを除外する一方で、1週あたり40時間を超える労働者に使用者が通常の5割り増しの賃金を支払うことを義務付けている。
残業代支給対象から除外されるホワイトカラーとは、真正な管理職(executive)、運営職(administrative)、専門職(professional)の資格(capacity)で雇用される労働者である。FLSA行政規則は、残業代支給対象から除外するためには、一定以上の俸給額が支払われているかどうか(俸給水準)、賃金の支払い方が一時間あたりではなく月給であるかどうか(俸給基準)、管理や経営および専門知識を必要とするものであるかどうか(職務要件)という三つの要件を満たすことが必要とされる。
これに対し、他の二つの要件を考慮せずに俸給水準だけで行政規則の改正を行うことができないとして、2016年11月に差し止め請求をテキサス州連邦判事が行ったのだ。訴えからおよそ1年後、の2017年11月、連邦第5地区巡回控訴裁判所が連邦労働省に行政規則を変更する権限を持つとする主張を認め、ようやく決着をみることになった。
オバマ政権を引き継いだトランプ政権では、企業活動への影響を考慮し、あらためてパブリックコメントを聴取する機会をもち、年収要件を4万7476ドルから3万3660ドルに引き下げる予定である。
(調査部海外情報担当 山崎 憲)
参考
- 2016 Overtime Rule On Permanent Hold As DOL Develops New Rule, The National Law Review, Nov. 21, 2017.
- Manatt Phelps & Phillips LLP,(2017) DOL White Collar Exemption Remains in Court, LEXOLOGY, Nov.16,2017.
参考レート
- 1米ドル(USD)=106.28円(2018年3月6日現在 みずほ銀行ウェブサイト)
2018年3月 アメリカの記事一覧
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