AFL-CIO大会が開催
―労働者の権利の章典

カテゴリー:労働法・働くルール労使関係

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  • 国別労働トピック:2018年3月

4年おきに開催されるアメリカ労働総同盟産業別組合会議(AFL-CIO)大会が、10月22日から25日の3日間の日程でミズーリ州、セントルイス市で開催された。

トラムカ会長が満場一致で3選されたほか、AFL-CIOの活動議案が議決された。通例は大会で政治家の挨拶が行われてきたが、今回はその慣例を崩し、政党と距離を置く方針が決議され、政治家のスピーチはなかった。

労働者の権利の章典(Worker’s Bills of Right)

大会では、会長ほかAFL-CIOの役員選挙と4年間の方針を決める大会議案の議決が行われた。2009年にはじめて選出されたトラムカ会長は、対立候補のない選挙で3選された。

議決された議案は全部で42だが、そのなかに、いかなる政党とも一定の距離を置くとする議案があった。その背景には、トラムカ会長が強く推す、「労働者の権利の章典(Worker’s Bills of Right)」の存在がある。「労働者の権利の章典」は、2010年にニューヨーク州が「家内労働者の権利の章典(Domestic Worker’s Bills of Right)」を州法として法制化したことがはじめてである。

家内労働は、家事や子守り、介護などを行うもので、請負として労働者が従事する。そのため、労働基準法で定められた、労働時間、最低賃金などの適用から除外されている。労働組合を組織して、元請け側である家主と団体交渉を行うこともできない。家内という閉ざされた空間であるため、長時間労働や超過時間分の未払い、ハラスメント、安全衛生上の問題など、家内労働者は元請けである家主に対して従属的な立場に置かれることが多い。こうした状況を改善するため、家内労働者の権利擁護組織が中核となって、州議会に働きかけてつくられたものが「家内労働者の権利の章典」である。これにより、最低賃金、超過勤務手当、休暇など、労働基準法に準ずる保護を家内労働者が受けられるようになったのである。

2014年にはサンフランシスコ市が、「小売り労働者の権利の章典」を条例化した。これは、日時に応じた顧客の増減に対応するために、小売り企業が労働者を短い時間で細切れに運用することで、労働者側がまとまって働くことができずに、低い所得にとどまる状況や、小売り企業で働く労働者の賃金や労働条件が低くなっていることを改善することを目的としたものである。2015年に実施に移された「小売労働者の権利の章典」は、小売り企業で働く労働者のシフトをまとまった時間数を働くことができるようにすることで、まともな年収と手当、健康保険や年金などの社会保障を労働者に与えるものとなった。

AFL-CIO大会では賃金格差の解消を掲げているが、そのための方策のひとつに、労働者の権利の章典の法制化を置いている。この背景には、労働基準法や労使関係に関する全国労働関係法の適用から外れる労働者の数が増大するとともに、そうした労働者の労働条件が低いままでとどまっていることがある。

政党と距離を置くとした議案は、「労働者の権利の章典」を支持する政治家であれば、党派を問わず手を組むとする意味がこめられている。

組織改革に着手

大会で3選されたトラムカ会長は、組織改革に着手することを宣言しており、運動と組織拡大、制度政策要求のために現状のスタッフの人数を絞り込むとともに、部門の改廃も行う予定である。

そのほか、大会で議決された主な議案は次の通り。

  • すべての人に健康保険を
  • 気候変動に対応した持続可能なエネルギーの活用とそれによる雇用創出
  • 国際連帯を通じた外交政策の促進による戦争以外の解決策の模索
  • 労組による移民の市民権取得支援

大会はミズーリ州で開催されたが、同州は「Black Lives Matter」運動がはじまった場所からほど近いとともに、同州が労働組合をつくりにくくする法律であるライト・トゥ・ワーク法制定に向かった際に、労働組合が40万人の署名を集めて阻止ししたという象徴的な場所でもあった。

(調査部海外情報担当 山崎 憲)

参考

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