シェアリングエコノミー下の労働者への職場差別
2月9日付けインターネット版Daily Labor Reportは、シェアリングエコノミー下で、個人請負として働く労働者の職場差別(Job Discrimination)についてとりあげ、雇用されている労働者と同等の保護が与えられるべきだと指摘した。
ウーバーにおける契約解除事例
スマートフォンを媒介にして、乗客とドライバーをマッチングするサービスを提供していると称するウーバー社では、ドライバーはウーバー社と雇用関係がなく、独立請負(independent contractor)とされる。ウーバー社はドライバーと契約を結ぶ際に、仲裁合意(arbitration agreements)への署名を求めている。紛争が起きた際に、裁判所などの第三者機関ではなく当事者間に限定した解決をはかるためである。
ウーバー社は、乗客の利便性をはかるために、スマートフォンのアプリケーション上で運転手について採点をすることを求めている。点数はアプリケーション上で公開される。点数が高い運転手ほど乗客から再乗車を依頼されやすくなるとともに、点数の低い運転手は淘汰される仕組みを目指している。
ある運転手が乗客を乗せた際に、乗客が運転手の話し方がゆっくりしていたことから、飲酒運転をしていると採点したことから今回の問題がはじまっている。
運転手1カ月後にウーバー社から契約を解除された。しかし、運転手は飲酒運転をしていたわけではなく、オートバイ事故で会話とコミュニケーション能力に後遺症があったために、ゆっくりしか会話ができなかっただけだった。障害者に対する不当解雇には「障害を持つアメリカ人法(the Americans With Disabilities Act)」により、権利が回復される機会が認められている。しかし、その対象は雇われて働いている労働者に限られているため対象とならない。独立請負として働く労働者の数が増えるとの調査結果がみられるようになり、独立請負として働く労働者の職場差別からの保護を求める声が大きくなっている。
雇用ではない労働者の差別からの保護
労働者は、人種、性別、宗教、出身国など、職場差別から、雇用機会均等委員会(EEOC)および1866年公民権法、セクション1981(Section 1981 of the Civil Rights Act of 1866)によって保護されている。しかし、その対象は「障害を持つアメリカ人法」と同様に、雇われて働いている労働者を対象から除外している。2月9日付けインターネット版Daily Labor Reportは、「障害を持つアメリカ人法」、雇用機会均等委員会(EEOC)および1866年公民権法、セクション1981において、雇われて働いているという条件を拡大して、独立請負で働いている労働者に適用することで、職場差別からの保護を拡充することを提案している。とくに、1866年公民権法、セクション1981(Section 1981 of the Civil Rights Act of 1866)の適用が有効だとする有識者の意見を紹介し、差別が意図的であるかどうかを原告が証明する必要があるとする現行の制度を改正して、年収が低い独立請負労働者にも利用しやすい仕組みにするべきだとしている。
また、雇用差別禁止法を改正して、雇用機会均等委員会(EEOC)の対象を雇われて働く労働者以外にも拡大するための法案が、エリナー・ホームズ・ノートン下院議員により2月7日に連邦下院議会に提出されるなど、政策的にも大きな課題ととらえられている。
独立労働者の数はほんとうに多いのか?
職場差別からの保護の対象に独立労働者を加えるべきだとする議論は、その数が急拡大しているとの推察に基づく。連邦労働省は非典型労働者の実態調査を行っているが、2005年に実施した前回調査からようやく2017年に調査を行ったものの、結果はいまだに報告されていない。
経済学者カッツ・クルーガーによる報告では、就業人口のうち、デジタルプラットフォームで仕事を請け負った人の割合が2005年の10.7%から2015年の15.8%に大きく伸びたと推計するが、主業として請負に従事している労働者の数はごくわずかであると指摘するなど、行方は明らかになっておらず、連邦労働省の調査結果の公表が待たれている。
(調査部海外情報担当 山崎 憲)
参考
- Lee Jacquie (2018) Gig Workers Have Scant Protection From Job Bias, Daily Labor Report,Feb.2,2018.
- Katz Lawrence F., Krueger Alan B. (2016) The Rise and Nature of Alternative Work Arrangements in the United States, 1995-2015, NBER Working Paper No.22667.
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