父親の育児参加を促す新しい家族政策

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  • 国別労働トピック:2014年10月

ベルリン社会科学学術センター(WZB)の調査によると、2カ月以上の育児休暇を取得した父親は、その後、労働時間を平均で週4.5時間減らしていた。一方で、育休を取得しなかった父親は、子の誕生後、逆に週1時間増やしていたことが明らかになった。連邦政府は、働く親の「労働時間と家庭時間」のバランスを改善するため、両親手当や育休制度を改革する法案を閣議決定し、近く成立を目指す。

「両親手当」とは

ドイツの「両親手当(Elterngeld)」は、育児のために休業もしくは部分休業(週30時間以内の時短勤務も受給可能)をする親の所得損失分の67%(注1)を補填する制度で2007年に導入された。それ以前は定額制の「育児手当(Erziehungsgeld)」があったが、支給額が原則300ユーロ(月額)と少額のため、多くの家族にとって効果的な所得保障となり得ず、そのため一家の稼ぎ手であることが多い父親の育休取得の困難さなどが指摘されていた。「両親手当」はこのような課題を解決し、子育て期の働く親を支援する目的で導入された。また、同手当は、どちらか片方の親だけが受給する場合は最大12カ月間支給されるが、もう一方の親も受給する場合はさらに2カ月延長され、最大14カ月間支給される。この追加の2カ月分は「パートナー月(Partnermonate)」と呼ばれ、もう一方の親が育児休業を取得しなければ受給権は消滅してしまう。ドイツの場合、受給期間を最大の14カ月間にしようとして「パートナー月」の2カ月だけ父親が育児休暇を取得して両親手当を受給するケースが多い。なお、ひとり親の場合や片方の親が病気等で育児ができない場合は、最初から最大14カ月間支給される。両親が同時に取得する場合は各々最大7カ月間、また、毎月支給額を半額にした場合、期間が2倍に延長される。

「両親手当」導入で増加した父親の育休取得率

このように父親の育休期間は大半が2カ月間と短いものの、2007年の「両親手当」導入によって以前は3%に過ぎなかった男性の育休取得率は大幅に増加し、父親の育児参加が進んでいる。統計局が2014年に発表した資料によると、2012年生まれの子に対して育休を取得して「両親手当」を受給した父親の割合は29.3%に上り、父親の約3人に1人が育休を取得していた(表1)。

表1:2012年生まれの子に対する父親の両親手当取得率
(2012年1月~2014年3月)
  新生児数合計(人) 2012年生まれの子に対する
父親の両親手当取得(認可件数) 割合(%)
ドイツ全体 673,544 197,556 29.3

出所:連邦統計局(2014年) Elterngeld für Geburten

ポイントは単独かつ比較的長期

ベルリン社会科学学術センター(WZB)のマレイケ・ビューニング研究員によると、2カ月以上育休を取得した父親は、その後も子どもとの緊密な関係維持を求めて週労働時間を平均で4.5時間短縮していた。逆に育休を取得しなかった父親は、子どもの誕生後に週労働時間を平均で1時間増やしていた。さらに家庭内の家事分担の観点から分析した場合、母親が働いて従来以上家計に寄与する間、単独かつ比較的長期に育休を取得して育児と家事双方の全責任を負った父親は、その後、育児のみならず家事にも積極的に貢献していることが明らかになった。ビューニング研究員は「育児休暇には、家庭内の伝統的な役割分担を弱め、包括的な男女同権を確立しやすくする効果がある」としつつも、「両親が同時に育児休暇を取得する場合にはこうした現象は見られない」と述べている。

前述の通り、ドイツでは「両親手当」の導入によって父親の育休取得が増えたが、その期間も徐々に延びる傾向にある。育休を取得した父親の75%はパートナー月の2カ月のみだったが、25%はそれよりも長い期間を取得していた。また、55%は母親と同時に育児休暇を取得し、45%は少なくとも1カ月以上単独で育休を取得していた。

新たな家族政策の導入に向けた動き

連邦政府は現在、両親手当や育休制度の改正法案(両親手当プラスの導入、および育児休暇取得の柔軟化に関する法案)の立法手続きを進めている。これにより、両親手当の受給と短時間労働の併用が容易になり、育休の取得も大幅に柔軟化される予定である。

早期の復職を支援

改正法案で新たに導入が計画されている「両親手当プラス」は、親の選択肢が広がる反面、内容は若干複雑になる(制度の導入前後を比較した事例は表2の通り)。従来の「両親手当」でも時短勤務との併用受給は可能だったが、時短勤務で得た収入の分だけ両親手当の額が減る仕組みだった。新しい「両親手当プラス」では、時短勤務で両親手当の額が減っても、受給期間が延長されるという補正措置が設けられ、仕事への早期復帰を希望する親のインセンティブを高める仕組みになっている。「両親手当プラス」は「両親手当」の半額を上限として、受給期間を最長28カ月に延長することができる(現行では最長14カ月)。

この他、「パートナーシップボーナス」の導入も計画されている。例えば両親が同時に週25~30時間の時短勤務をする場合には、「パートナーシップボーナス」として、それぞれ「両親手当プラス」を再度追加的に4カ月受給することができる。

以上の「両親手当」、「両親手当プラス」、「パートナーシップボーナス」は様々に組み合わせることが可能で多様な個人のニーズによって選択できるようになっている。

表2:短時間労働を行う場合の「両親手当プラス」の事例
▶ 起点状況
  ・子ども誕生前の所得:€1,400(月額)
  ・仕事を完全に中断した場合の両親手当プラス:€:910(€1,400の65%)
  ・1年間休職した場合の両親手当:€910×12カ月=€10,920(参考)
▶ 6カ月完全休職して、その後短時間労働(月額収入€550)で復職した場合の請求権
【従来の両親手当の請求権】
  ・当初半年の完全休職中の両親手当:€910×6カ月=€5,460
  ・短時間労働を行った場合の月額収入:€550(従来の月額収入€1,400より€850低い)
  ・短時間労働を行った場合の両親手当:€552.5(€850の65%)×6カ月=€3,315
→計12カ月間の両親手当:€5,460+€3,315=€8,775
【両親手当プラスの請求権】
  ・当初半年の完全休職中の両親手当:€910×6カ月=€5,460
  ・短時間労働を行った場合の月額収入:€550(従来の月額収入€1,400より€850低い)
  ・短時間労働を行った場合の両親手当プラス:€455(€910 ÷2)×12カ月(受給期間が2倍)=€5,460
→計18カ月間の両親手当:€5,460+€5,460=€10,920

出所: 連邦家族省(2014年) Elterngeld Plus und Partnerschaftlichkeit Zahlen & Daten

三回の育休取得も可能に

今回の改正案では、育休の取得方法についても、大幅に柔軟化される。従来は、両親は子どもが3歳になるまで無給の休暇を取得することができ、最後の12カ月については使用者の同意があれば、満3歳から8歳までの間に2回目として取得が可能だった。法改正後は、子どもが満3歳から8歳までの間に計24カ月の育休取得(無給)が可能になり、使用者の同意は不要となる。

例えば、子どもが1歳になるまで母親が育児休暇を取得し、仕事に復帰するとする。新規定では、この母親は子どもが満3歳から4歳まで1年間の育児休暇を再度取得し、小学校入学時にさらに1年間育児休暇を再々取得するなど、合計3回に分けて取得することが可能になる。その場合、彼女は13週間前までに自分の予定を使用者に通知するだけで良い。

シュヴェーズィヒ連邦家族相は、「これは若い家族のニーズが変化したという事実に対応している。多くの母親は(特に若い世代)は、従来よりも早期に復職したいと考えており、多くの父親はもっと長く育児に関わりたいと考えている。その希望と現実の隔たりを解消するのが今回の改正の目的であり、必要な場合には将来の育休取得が確約されているため、母親がより早期に復職する方向へインセンティブが働く。これにより、働く親の双方が職業生活においてキャリアを積む機会を確保することができ、家庭内における家事や育児の平等化も促進され、個人のニーズに応じた選択の幅も広がる」と説明している。

改革法案に対する反応

前述のWZBのビューニング研究員は、両親手当プラスの導入によって、父親は今後短時間労働をしながら、かつパートナーの母親と同時に育休を取得する者が増え、「父親が単独で育休を取得した場合よりも、家事と育児の全責任を負うインセンティブが弱まり、家庭内の平等な役割分担化が遅れるのではないか」との懸念を示している。

一方で、応用社会科学研究所(INFAS)の調査によると、国民の約半数が新しい改革案に賛成している。特に未成年の子がいる回答者と、24歳以下の回答者の賛成比率は約7割に達している。

両親手当プラス、パートナーシップボーナス、育休取得の柔軟化等に関する新しい家族政策法案は、6月4日に閣議決定され、今後予定通り進めば2015年7月1日に施行される。

参考資料

  • Matthias Pollmann-Schult und Mareike Bunning(geb. Wagner)(2014)Vaterschaft im Kontext Wie die Familiengrundung die Erwerbstatigkeit von Mannern beeinflusst. WZB Mitteilungen Heft 143 Marz 2014
  • Die Welt(22.07.14)(21.03.14)
  • BMFSFJ, ElterngeldPlus(04.06.2014),Elterngeld Plus und Partnerschaftlichkeit Zahlen & Daten(4. Juni 2014)

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