ペンシルバニア州第一審裁判所 ウォルマート未払い賃金分として7850万ドルの支払いを命ずる

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  • 国別労働トピック:2006年12月

『フォーチュン』誌によれば2005年実績で全米第2位を記録するウォルマートであるが、同社の経営については高収益を生む源は従業員の低賃金にあるとする批判が絶えず、そうした企業イメージの払拭が大きな課題となっている。

ウォルマートでは、ペンシルバニア州第一審裁判所で、従業員による賃金未払いを理由とする集団訴訟への判決が10月13日に下され、陪審員は原告である労働者側の勝訴とした。ウォルマートは、休憩時間中に従業員を働かせたことを理由に総額7850万ドルの支払いを命じられた。ウォルマートはこの裁判の結果を不服として直ちに上訴するとしている。

今回の集団訴訟は、ペンシルバニア州のウォルマートで働く元および現在の従業員18万7000人を代表して起こされたもので、従業員が休憩時間中に勤務を強いられ、その代わりとなる休憩時間が与えられなかったという内容である。訴えによると休憩時間中の勤務は、1998年から2001年の間を対象としたもので、従業員が15分間の休憩に入る前後にタイムカードに記録することをウォルマートが要求しなかった際に起きていたと労働者側は主張している。これに対しウォルマート側は、15分間の休憩を取っていなかったのは従業員自らの選択であると主張している。

ウォルマートはまた、カリフォルニア州で11万6000人の従業員を代表して起こされた集団訴訟があり、こちらの場合は30分間の食事休憩を従業員に与えなかったとするものである。この裁判は2005年12月に判決が下され、ウォルマートは1億7千2百万ドルを支払うことを義務付けられた。こちらのケースでもウォルマートは上訴している。同様のケースはコロラド州でも生じており、同州では5千万ドルを支払うことでウォルマート側は同意している。

ウォルマートについては過去1年だけでも、同社に対して州・市などの自治体が厳しい対応をする動きが続いているほか、法令遵守(コンプライアンス)についても監視する動きがある。

地方自治体の動きとしては2006年1月のメリーランド州議会の例がある。これは大企業(州内に1万人以上の従業員を雇用する企業)に対して賃金総額の8%以上を医療費負担として義務付ける法案を、同州議会が全米で初めて可決したものである。この規模の大企業は州内に4社あり、8%の医療費負担を満たしていない企業はウォルマートのみであったため同社に向けられた法案として、議会では「ウォルマート法」と呼ばれた。また7月イリノイ州のシカゴ市議会が、年間10億ドル以上、売り場面積が9万平方フィート(8400平方メートル)以上の大型小売店を対象に、最低賃金を引き上げるとする条例を可決した。これは2年前からシカゴへの進出を発表していたウォルマートの出店を規制するねらいがあったとされる。

ただしメリーランド州議会の医療費負担に関する法案について連邦地裁は、州独自の規制は州間の公平を欠くとして同法を無効とする判決を出した。またシカゴ市の最低賃金引き上げに関する条例案は、7月に市議会で可決されたもののデイリー市長が9月に署名を拒否、その後市長の拒否を覆すために必要な3分の2以上の賛成を得られず、廃案となった。

一方、ウォルマート社の違法な行為を監視する動きとしては、2006年2月にチェーン・ソーやフォークリフトなど危険器具・機械使用を伴う就労を児童に行わせたとして、米国児童労働法違反に対する罰金処分を受けたことがる。続く3月に各店舗の清掃業についての数百万人に及ぶ不法移民労働者の使用をめぐり移民法違反による罰金命令に応じたことなどが挙げられる。また労働法以外ではカリフォルニア州の新規店舗建設プロジェクトを対象に環境保護法に違反するとして建設反対派グループによる訴訟が起きている。

ウォルマート社の反労組的な姿勢のため従業員の組織化が難航していたが、同社の経営戦略に対する強い批判を追い風に、2005年11月ウォルマート従業員のための全国組織「アメリカのウォルマート従業員(Wal-Mart Workers of America : WWOA)」が設立された。この組織は従業員の労働条件と生活の向上、社会的な責任を果たすような企業への転換などを活動目的とするもので、同社の現・元従業員からの失業保険や超過勤務手当てなどに関する相談に応じるほか、苦情申し立ての支援を展開している。

今回のペンシルバニア州をはじめとする一連の未払い賃金に関する提訴は集団訴訟という形で行われているが、米国における最近の集団訴訟の事例としては、2006年6月イリノイ州シカゴ市、テネシー州メンフィス市、テキサス州サンアントニオ市、ニューヨーク州アルバニー市の4都市で、看護師による病院を相手取っての集団訴訟が挙げられる。訴えの内容は、複数の病院の人事担当者が水面下で賃金水準に関する情報交換を行い賃金の引き上げを抑制したとして、独占禁止法違反を申し立てたものだ。

全米における看護師不足は深刻で、全米病院協会によると全米看護師不足数は2006年度の17万人から2020年には100万人以上に増加すると見込まれている。それにも関わらず看護師の賃金水準は過去10年間大きな変化がなく、逆に低下しているとの調査結果もある。賃金の引き上げと労働環境の改善、看護師の地位向上などが課題として浮かび上がっている。

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