国家公務員の団体交渉権をめぐる訴訟

カテゴリー:労使関係

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  • 国別労働トピック:2006年4月

米国防総省が導入を計画している国家安全保障人事制度(注1)と呼ばれる新人事制度に対して連邦政府職員連合(AFGE)等(注2)の労働組合が訴えた裁判で、2006年2月27日、連邦地方裁判所は組合側勝訴の判決を示した。主な争点は、合衆国法典の第5章71条に権利として認められている国家公務員の団体交渉権の確保である。

新人事制度導入の背景

国防総省に限らず、連邦政府職員に横断的に適用される一般俸給表は、50年以上前に設計された年功序列の給与制度だが、新人事制度は処遇決定の際、業績評価の要素を取り入れることが特徴。新制度を導入することにより、職務記述書に縛られずに柔軟に職員を配置、処遇することができるとされ、それが結果的に国防総省の施策の効果を高めることになるとの期待が込められているという。

訴訟に至る経緯

人事制度の改革を掲げる国防総省は2005年の年頭、今回の訴訟の原因になった新制度を提案し、組合と継続的に協議を行ってきた。ワシントンポスト紙の報道によれば、新制度の主眼は、職務遂行能力と処遇の結びつきを強化し、職員の雇用、昇進、懲罰をより容易にすること、加えて賃金水準の決定を団体交渉の対象から外し、労働組合の力を抑えることにあるとされる。これに対し労働組合は2005年2月、(1)新制度の設計に際し、当局は組合と十分な協議をしたか、(2)新制度は、職員の団体交渉権の確保を怠っているのではないか――等を争点として訴訟を起こした。

組合に勝訴判決

本判決は、国防総省が団体交渉権の確保を怠っていると述べ、更に、新制度における労使紛争解決のための第三者審査委員会ならびに懲戒処分の不服申し立てについて、適正な措置が講じられていないとして、労使関係分野など新制度の一部の実行を禁じた。

その一方で同判決は、当局が組合と協議する法的な義務を果たしたとの判断も下し、加えて、国防総省は、合衆国法典第5章71条に縛られずに労使関係制度を構築する権限を有すると結論付けた。ワシントンポスト紙の報道によれば、このことは、今後の国防総省と組合との協議に少なからぬ影響を及ぼすと見られる。判決を受けて、国防総省は今後の対応を検討中であるが、4月末には、対象を非組合員職員(1万1000人)に限り、新人事制度を適用する予定である。

今回の判決は、同じ国防関係の国土安全保障省における新人事制度導入に関する2005年8月の判決と歩調を合わせるものだ。連邦地方裁判所は、国土安全保障省のケースについても、今回の判決と同様に、新人事制度は職員の団体交渉権を弱体化させるものだとし、労使関係等の新制度の一部の実施を禁じている。

出所

  • 2月28日付ワシントンポスト紙、AFGEホームページ、国家安全保障人事制度ホームページ

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