ウォルマート従業員のための全国組織設立

カテゴリー:労使関係

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  • 国別労働トピック:2005年12月

アメリカでは、ウォルマートの経営戦略に対する批判が高まりを見せる中で、これを好機と捉えた労働組合が組織化に向けた運動を開始した。

過去最高益を更新し快進撃を続ける米小売最大手のウォルマートでは、同社の強い反労組対策が壁となり、これまで組織化が難航していた。全米食品商業労働者組合(UFCW)(注1)と関係が深い草の根運動グループ「ウェイクアップ・ウォルマート」は、11月4日、ウォルマート従業員のための全国組織「アメリカのウォルマート従業員(Wal-Mart Workers of America:WWOA)」を設立した。この組織は、会社側の攻撃をかわすため敢えて組合でなく「従業員組織」として設立され、ウォルマート従業員の労働条件と生活の向上、同社を社会的に責任ある企業へ転換させることを目的としている。

WWOA設立の経緯と活動内容

WWOAのホームページによると、設立のきっかけは、10月26日付のニューヨークタイムス紙が報じた記事。これはウォルマート役員が書いた極秘メモの露見を伝えるものであった。メモには、労働時間の削減による更なるコスト削減、フルタイムからパートタイムへの転換、中高年労働者の排除、医療費負担を軽減するために健康に問題ある従業員を医療保険の適用除外とする計画などが記されていたとされる。加えて、長時間労働の強制、女性労働者への差別、児童労働などについてウォルマートが残していた記録が明るみに出たと同ホームページは掲載している。

こうした事態を重く見たWWOAは、活動の手始めとして医療保険未加入の従業員50人に対して一人当たり200ドルの資金を提供した。この資金は、ハロウィーン期間に22の州84都市でWWOAが実施したキャンペーンでのキャンディーの売上げであって、同キャンペーンはウォルマートの医療保険の負担のあり方(注2)に焦点を当てたものである。WWOAは同社の現・元従業員に対し失業保険や超過勤務手当などの従業員の権利についてもアドバイスを行うほか、苦情申し立ての支援を展開する。WWOAは今後1、2カ月のうちに10万人の従業員の加盟を目指すとしている。WWOAは同組織を組合ではないと強調しているが、11月13日付ワシントンポスト紙はこの動きを組織化に向けての一歩と伝えている。

高まるウォルマートへの批判

アメリカでは、ウォルマートを題材にした「ウォルマート:毎日低価格の高い代償(Wal-Mart: The High Cost of Low Price)」というドキュメンタリー映画が注目を集めている。この映画は、民間最大の雇用主(注3)である同社が、低価格戦略で成功を収めるかたわら、低水準賃金の労働者を増やしていると批判するもの。UFCWとともに同社従業員の組織化に取り組んできた全米サービス従業員労働組合(SEIU)は、この映画と連携して「反ウォルマート」キャンペーンを展開、巨額を投じてテレビ広告を流している。カリフォルニア大学バークレー校のハーレー・シェイクン教授は、ウォルマートが防戦を迫られている昨今(注4)、従業員の全国組織を設立するには今が好機であると11月4日付けワシントンポスト紙で指摘している。

これらの組織化の動きに対して会社側は同じ記事で、「組織化の取り組みは過去5年間、絶えず試みられているが、成功には至っていない」と述べ、こうした運動が労働者の問題解決に本当に寄与しているかどうかについて疑念を挟んだ。同社への攻撃が強まる中、ウォルマートは11月4日、同社のアメリカ経済への貢献を強調する報告書を発表(注5)、また13日にはワシントンで経済学者を呼んでシンポジウムを開催するなど、企業イメージの改善に努めている。

参考資料

  • 委託調査員レポート、11月4日付ワシントンポスト紙、10月26日付ニューヨークタイムス紙、ウェイクアップウォルマートホームページ、11月15日付日本経済新聞

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