社区工会
―南京市の実験

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年3月

労働組合は中国で「工会」と呼ばれている。1992年公布の「工会法」は、国内のあらゆる工会組織が、いずれも中華全国総工会の指導下にあると定めている。全国では総工会の下に、省と県レベルの工会、及び業種工会が設けられ、さらに末端では企業工会が設立されるというピラミッド型の構造をなしている。国有企業や集団所有制企業の9割以上が工会を組織しており、改革開放後に急成長してきた外資系企業のうち7割に工会が組織されている。さらに全国で3万社の私営企業にも工会が組織されている。現在、工会会員数は1億人を上回り、世界最大の労働組合を誇っている。他方、「工会法」は、工会が中国共産党の指導下にあり、工会役員の選挙や任命は同級共産党組織の考察と推薦を受けなければならないとも定めている。

近年、市場化の波が押し寄せる中で国有セクターが萎縮しており、1998年には国有企業や集団所有制企業の労働者は前年度より1500万人も減少した。1999年には「下崗」労働者は1500万人に上り、都市部の実質失業率が7%以上に達している。

他方、非国有セクターは拡大する傾向を見せており、特に1999年から中国政府は雇用拡大のため私有企業を奨励する政策を推し進め、地域に立脚した小規模な私営企業や町工場が急速に増えている。しかし、「工会法」が労働組合設立を義務付けているのは従業員数が25人以上の企業であり、中小私営企業や町工場の多くはこの規模に達しておらず、その発展の勢いとは逆に労働組合の設立が滞っている。

こうした中で、1999年11月に南京市総工会は「社区工会を強化する意見書」を発表し、新たな実験に挑んだ。社区とは、一定の地域に集中し居住する人々の生活共同体と解釈されており、小規模な地域社会のことである。1990年代以降、都市部では個人経営体や町工場の労働者、新たな就職先が見つかるまで自宅で待機する下崗労働者、さらに町内の清掃や家事手伝いなどをする出稼ぎ労働者等が増えている。彼らの多くは低所得者層に属しており、各地域に散在しているため、これまで特に注目されていなかった。どの労働組合にも所属できないため、自分の利益や権利を守るのも難しい。1998年10月に、南京市玄武区の鎖金村という地域では町内の10の居民委員会(町内会)に社区工会を発足させ、これらの労働者を組合員として加入させた。国有企業を生活基盤としてきた中国の都市部では、市場経済が進む中で、地域社会、即ち社区がもつ膨大な未開発マーケットと潜在的な就業機会が注目されている。南京市では家事手伝いの市場だけでも最低限5万人が必要とされている。居民委員会という住民自治組織に依拠して設立する社区工会は、これまでの企業工会がカバーできない都市労働者を受け入れ、彼らの利益を守り、援助の手をさし伸べ、就職を斡旋するなど積極的に動き出している。1999年4月に玄武区内の126の居民委員会はすべて社区工会を設立し、組合員も1380人になり、これまで1100人に新たな仕事を見つけた。社区工会の助けを得て、弁当屋等のサービス業を起こして生活のメドを立てた下崗労働者や、子供の教育費用を賄った貧困家庭等が報道されている。南京市総工会は社区工会を新しいモデルとして市全体での普及を図り、同市10区26町に400の社区工会を誕生させた。全国総工会の機関紙「工人日報」も特集を組み、南京市社区工会を大きく取り上げ、全国で関心を呼んだ。

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