新規大卒の就職「難」

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年2月

大学卒業生は供給過剰となったか

中国では大学進学率は決して高くなく、大学生はエリートと見られ、卒業後の就職はほとんど保証されていると一般的に思われている。しかし、1990年代後半から大学卒業生の就職も氷河期に入ったような現象が起きている。北京市では、1993年に就職できなかった新規大卒は300人であったが、1994年に600人、1995年に2424人、1996年に2700人と上昇し続け、1998年には8000人になった。北京以外の地域でも、就職待ちの大学や専門学校の卒業生が千人単位にのぼっている。

大学卒業生は本当に過剰となったのか。朱鎔基首相は1998年の中国科学院院士大会の席上で「大学生は仕事が見つからないほど多くなったとは思わない」と述べ、否定的な見方を示した。問題の根源は中国の労働雇用の市場化が完全に実現されておらず、古い人事管理制度が人材の最適配置を妨げているところにあると専門家は分析する。国家行政機関、国有企業などの国有セクターは余剰人員に苦しみ、新たに新規大卒を入れる余裕がない一方、民営、私営や外資企業は規制のため、大卒の大量採用が制限されている。

大学卒業生の就職難を解決するために、国務院は国発(1998)16号通達を発表し、非国有企業への就職を呼びかけているが、戸籍や国家の人事管理政策における規制緩和が施されていないため、非国有企業が新規大卒を採用するルートは塞がったままである。例えば、中国の人事管理政策は大学卒業生を国家幹部と見做しているが、外資や私営企業は国有セクターでないため、新規大卒が国有企業を経ずに非国有セクターに就職すると国家幹部の身分を失ってしまう。企業所在地以外の戸籍をもつ新規大卒を雇用しても非国有企業には戸籍を取得させる術もない。また、大学はいずれも国立であり、中央若しくは地方の行政管理部門の支配下にある。1990年代から、その上級機関管轄外の地域や企業に就職する場合、高額の「育成費」が請求されることが一般的となった。一部の地域では、本地域の戸籍をもたない新規大卒は受入れないと明言したほどである。江西省から進学した北京商学院1999年度のある卒業生は、「戸籍や北京居住権取得の割当てなどの制限さえなければ、北京で少なくとも10の就職チャンスを得られる。しかし、今の私には1つの仕事も見つからない」と嘆いていた。大学側もこのような状況に苦しんでいる。中国人民大学学生課長の馬さんは、「就業政策、戸籍政策と既存の人事政策は相互に矛盾しており、硬直化した国家の人事制度と戸籍制度は、大学卒業生の就業をひどく妨げている」と厳しく指摘している。

新規採用の基準はどうあるべきか

国有企業が新規大卒を採用する際に、学歴や資格を偏重する余り、実務能力のチェック機能がほとんど欠落していることも問題視されている。国有企業と対照的なのは外資系企業である。例えば、中国に進出しているアメリカ系企業の P&G は、毎年、中国全土から200~300人の大卒を募集しており、そのために膨大な費用と人員を投入している。入社試験は数回にわたる筆記と面接試験となっており、試験内容も丸暗記できるものではなく、関係業務の専門家が応募者の想像力、心理状況、対応能力などを実際にチェックするシステムをとっている。1998年、P&G は求人広告費に300万元も支出したほどである。国有企業も外資企業に見習い、新規採用をする際に、もっと実務能力の確認に力を入れるべきだと、学生側から厳しくクレームをつけられている。

国家利益はどう守るか

大学卒業生の就職「難」を緩和するために、1998年の9月から、国務院は新規雇用をする企業に対して各種名目の「育成費」を要求することを禁止する通達を発表し、さらに一部の発展の遅れている辺鄙な内陸地域の大学卒業生に対する帰郷就職の規定を撤廃した。学生側には喜ぶべき規制緩和ではあるが、辺鄙な地域や国防、航空などの国家重点部門の人材確保を憂慮する声が上がっている。

現に、全国大学生に対する調査をみると、71.5%は大都市に、72.8%は沿海地域に就職を希望し、辺鄙な地域に行きたい者は僅か1.3%にすぎない。北京大学1996年の調査をみると、最も理想主義と思われている北京大学の学生でさえ、就職の際に最も重視しているのは、「所得」とのことである。

新規大卒に対する各種の規制はいずれ労働雇用市場化の流れの中で消滅すると思われるが、地域間や業種間の大幅な所得格差は、決して一朝一夕に改善されることではない。専門家の間では、辺鄙な地域や国家重点部門の人材の確保について、国家奨学金を設置し、国家が奨励する地域や部門への就職者に対して、入学の時点から奨学金を支給する等の提案はなされており、意見がまとまっていないが、新規大卒就業の規制緩和は一層進めるべきであり、近い将来の大卒就職の自由化と市場化の実現については、だれもが異議を唱えていないのである。

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