労働契約の締結状況と問題点

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年11月

労働契約制度の実施状況

1994年中国は「労働法」を公布し、労働者と企業との間に雇用契約を結ぶ労働契約制度を導入した。1999年6月末には、全国都市部の国有企業、集団所有制企業と外資企業の従業員のうち、労働契約締結者は1億708万人に達し、同従業員総数の98.1%を占めるようになった。私営企業や労働者を雇う個人経営体の中には、労働契約締結者が1035万人に達し、同従業員総数の約50%を占めている。北京、河北、山西など10の省、市の923社の大中型国有企業に対する調査によれば、労働契約管理ファイルを設け労働契約管理を制度化している企業は6割に達している。広東省、福建省、大連市など沿海部に進出した欧米や日本などの外資企業でも労働契約制度が比較的整備されている。

労働契約実施過程の問題点

労働契約制度が急速に普及している反面、その実施にあたっては多くの問題を抱えている。労働法に従わず労働契約を締結しない企業が依然として多く存在している。私営企業、個人経営体、貿易会社や飲食業企業の約5割が従業員と労働契約を締結していない。また、労働契約を導入した国有企業のうち、約6割の中小型企業は労働契約管理ファイルや適正な契約管理制度を確立しておらず、契約は名目的なものに止まっており、実効力を発揮していない。このような問題は非国有企業の中で特に際立っており、労働契約の内容が不完全で、法律に抵触することもある。

労働契約の実施過程に現れたこれらの問題点の背景を探ると、まず国有企業では無期限に近い固定的な長期契約が多く、労働契約と労働者の責任、業績、人事考査、賃金待遇との連結が薄く、労働契約のもつインセンティブ機能が発揮されていない。私営企業や個人経営体の経営者の中では労働法と労働契約の内容に対する理解が不足しており、労働法と労働契約を故意に無視する経営者も少なくない。一方、労働者は法に従って自分の合法的な権益を守る意識が薄く、労働契約で賦与された権利を主張する者が少ない。

労働契約の不完全な管理は社会問題にも発展しかねない。国有企業改革によって弾き出される下崗労働者は、3年後に企業と労働契約を解除すべきだが、労働契約の管理が行き届いていないため、すでに何らかの新しい仕事についているにもかかわらず、元の国有企業と労働契約を解除しないままの労働者の「隠性就業」が企業改革の妨げとなっている。

企業と労働者の間に労働契約を締結せず、或いは労働契約が締結されても、労使双方の権利や義務が明確に示されていないため、結果的に労働争議を誘発しかねない。統計によると、1998年1年間に発生した労働争議件数は9万4000となっているが、そのうちの6割は企業の労働契約不履行か、契約違反によるものである。

労働契約制度が従業員の業績考課、待遇など能力主義的な人事労務管理システムとのリンクが弱いことも、結果的に契約の有名無実化を招くことになる。労働者側も契約に基づいて自らの権利を主張する習慣がなく、健全な労働関係の確立における労働契約の効果が発揮されておらず、労働市場の育成にも効果が少ない。

今後の展開

労働契約制度の導入は、従来の国有企業の終身雇用体制を変革させる重要な転換点である。そのため、今後、労働契約の一層の普及と規範化が予想される。現在の労働契約管理上の問題を改善するには、今後、契約管理の規則や手順の一層の明確化が進められるであろうし、「労働契約法」も全人代で検討されており、いずれ公表される予定である。

労働契約に対するモニター体制が検討されている。今後、新規労働者と労働契約を締結しない企業、或いは内容が不完全で公正さを欠ける契約に対する行政指導が一層厳しくなると思われる。契約を履行せず従業員に損害を与えた企業の賠償責任も問われるであろう。経営が行き詰まり、契約解除や中止の際に、労働者に経済補償を行う能力をもたない国有企業に対する地方行政の支援体制も検討されている。その他に、職業斡旋業の規範化及び社会保険制度の一層の整備も必要とされている。

中央政府の労働管理部門は国有企業に対して、企業内の労働契約制度の整備、管理監督や労使協議体制の確立、契約解除・中止の内容、手順の明確化を呼びかけている。契約を締結する際には従業員代表大会との協議や契約の開示も制度化されつつある。企業経営における労働契約のインセンティブ機能を発揮させるためには、労働契約と従業員の人事考課及び責任、業績、能力、待遇など企業内人事労務システムとの一層の連結が要求され、隠性就業や下崗労働者の労働契約に対して、解除期限に達した場合、企業との関係をはっきり打ち切るなど契約執行がより厳格になるであろう。

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