基礎情報:ベトナム(2017年)
6. 労使関係

6-1 労働者代表

かつてフランスの植民地とされていたベトナムにおいては、歴史的に資本家・使用者階級=フランス、労働者階級=ベトナム人民、労働運動=民族独立運動であった。したがって、その労働運動は必然的に共産主義運動と結びつき、ベトナム労働組合はベトナム共産党の指導の下、一体となってフランス、日本、アメリカと戦い、社会主義ベトナムとしての統一・独立に貢献した。

そのような歴史的正統性を有するベトナム労働組合は、ベトナムにおいて唯一の労働者代表組織としてすべての労働者を代表する特殊な法的地位を付与されている。すなわち、一つの事業場において労働者が設立することができる労働組合は一つのみで、当該組合は当然にベトナム労働総同盟(Vietnam General Confederation of Labour:VGCL)をナショナルセンターとするベトナム労働組合に組み込まれ、当該事業場における組織率(従業員全体における加入率)にかかわらず、当然にその全従業員を代表する権限と責任が付与される。

問題は、未組織の事業場(労働組合が未設立の事業場)における労働者の代表主体であり、かつてはストライキ権の行使手続きに限定して、当該事業場の労働者の過半数により選出された代表者のもとでこれを行使することが認められたこともあったが、現在では、ベトナム労働組合内の当該地区における上級組織がそれらの労働者を直接代表する制度がとられている。

このような特殊な労働組合制度のもとで、事業場の労働組合の組合員となった労働者は毎月賃金の1%を組合費として徴収されるが、使用者もまた、全従業員(全組合員ではない点に注意)の賃金の2%相当額を組合経費として納入しなければならない。

準国家機関的な性質を有するベトナム労働組合がそもそも「労働組合」と呼びうるものであるか否かについては、かねてから議論のあるところである。最近ではTPP(環太平洋経済協力パートナーシップ協定)にともなう越米の2国間合意に基づいて労働者代表組織の自由設立を認める労働法典改正法案が準備されたが、TPP批准案自体の国会提出が見送られたことにより頓挫した。

6-2 使用者代表

使用者者側を代表する全国レベルの団体には、ベトナム商工会議所(Vietnam Chamber of Commerce:VCCI)とベトナム協同組合連合(Vietnam Co-operative Alliance:VCA)などがある。

VCCIは、非国有企業及び大半の外資系企業を代表している。研修、情報提供、企業フォーラム開催等企業発達の支援を行っている。VCA は、協同組合や中小企業を主な会員とする団体で、全国各地に支部を設置している。

参考資料:厚生労働省「2016年海外情勢報告」

6-3 団体交渉・労働協約

団体交渉及び労働協約は、ともに当該事業場の全労働者と使用者との間の交渉であり、当該交渉の結果としての協定である。しかし、6-1「労働者代表」の項で述べたとおり、事業場における労働者の代表組織は当該事業場レベルの労働組合(労働組合が未設立の場合は上部組合)だけであるから、結局、労働組合組織を通じて使用者と交渉することになる。ただしその結果締結された労働協約の効力は(組合員であるか否かにかかわらず)当該事業場の全労働者に及ぶこととなる。

団交請求権は、(団交応諾義務が使用者のみに課されている日本とは異なり)労使双方に認められている。どちらか一方が団体交渉を要求したときは、双方は7日以内に開催日時などを合意しなければならない(2012年労働法典第68条)。

交渉事項は、(1)賃金、賞与、手当及び昇給、(2)勤務時間、休憩時間、時間外労働、及び交代制勤務の間の休み、(3)労働者に対する雇用保証、(4)労働安全・労働衛生の保証、就業規則の実現、及び、(5)その他、当事者双方が関心を有する内容である。

交渉代表者(労側は労働組合)が合意に至ったときは、当該事業場の全労働者による投票をおこない、過半数の賛成を得て労働協約を締結する。労働協約の期間は1年から3年だが、初めて労働協約を締結する場合は1年未満の期間を設定することができる。

なお、事業場レベルでの労働協約制度とは別に、産別レベルでの労働協約制度も法定されているが、その内容は不明確な部分が多く、ほとんど活用されていない。

6-4 労働紛争解決システム

労働紛争は、個別的労働紛争と集団的労働紛争に大別される。集団的労働紛争はさらに権利に関する紛争と利益に関する紛争に分類され、それぞれ調停前置(一部の紛争類型を除く)のうえで別個の解決システムが定められている。

個別的労働紛争については、調停が不調に終わった場合は裁判所での解決となる。

集団的労働紛争のうち権利に関する紛争については、調停が不調に終わった場合は県レベル人民委員会主席に解決を要求し、その決定内容に不服のときは裁判所に解決を要求することになる。また、利益に関する紛争については、調停が不調に終わった場合は、省レベル仲裁評議会においてさらに調停(「仲裁」といいながら、同評議会の決定は強制力を有さず、実質的に調停案に過ぎない)を重ね、再び不調に終わった場合にはじめて労働者側はスト権行使のための手続きを開始することができる。

ストライキは、当該事業場の労働組合(未設立の場合は上部組合)が労働者の過半数の賛成を得て開始する。ただし、ストライキが開始された場合でも、これに参加するか否かは労働者各人の自由である。この点は、労働組合が当然に全労働者を代表するベトナムの労働組合システム(6-1「労働者代表」の項参照)における矛盾であり、このストライキの結果としてなんらかの労働協約が勝ち取られた場合の効力(全労働者に適用)との整合性も説明が困難である。

もっとも、現実には1994年労働法典(1995年1月1日施行)において初めて労働者のスト権が規定されてから現在に至るまで、労働組合によって法定の手続きどおりに行われたストライキは皆無であると言われている(他方で、労働組合によらない違法なストライキは多発している)。

また、そもそも「集団的労働紛争」とはどのような紛争であるのかという根本的な定義の問題が曖昧なまま残されているため、現在に至るまで集団的労働紛争解決システムは全体としてほとんど機能していない。

なお、2012年労働法典は、ストライキに対する対抗手段として、使用者にはじめてロックアウトを行う権利を認めている(2012年労働法典第214条)。

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例) 出典:労働政策研究・研修機構「基礎情報:ベトナム」