基礎情報:ベトナム(2017年)
4. 労働契約・労働条件

4-1 労働契約

労働契約は、その期間によって、以下の3種類に大別される。すなわち、(1)期間の定めのない無期労働契約、(2)12~36カ月の期間を定める有期労働契約及び、(3)12カ月未満の期間を定める季節的・一時的な短期労働契約である。

いずれの契約類型についても書面での締結と社会保険への加入が義務付けられているが、短期労働契約のうち3カ月未満の期間を定める超短期の労働契約については例外的に口頭での契約が認められており、社会保険の加入義務も免じられている。このため、建設・販売などの業種を中心として、社会保険を逃れるなどの目的のために超短期の契約が多用されており、「季節的・一時的」な労働に関する定義規定の必要性などが政府内で議論されている(2018年1月1日以降は、1カ月以上の期間を定める労働契約まで社会保険の適用対象を拡大予定、5-1「社会保険制度」参照)。

労働契約の締結に際しては、直接締結義務、労働条件提示義務、使用者による身分証などの原本保管禁止、損害賠償の予定禁止などが定められている(2012年労働法典第18~20条)。実際には、兄弟・親戚など他人のID等を用いて就労する者が多いこと(年齢、居住地域などの詐称)や、一枚の労働許可証で多くの使用者と労働契約を締結する外国人が多いこと(労働管理に支障をきたす)などが問題となっている。また、そもそも現行2012年労働法典は労働関係が発生した場合に労働契約以外の契約類型を用いることを明確に禁止しておらず、脱法的に「役務提供契約」などの名目で労働力が使用されているケースも指摘されている。

なお、違法な労働契約の無効を宣言する権限について、2012年労働法典は裁判所の他に労働監督機関にもこの宣言を行う権限を付与しているが、その後2015年民事訴訟法典(2016年7月1日発効)において当該内容が改正され、裁判所がこの権限を有する唯一の機関とされている。

4-2 試用期間

試用期間は、一つの仕事につき1回のみ設定することが認められている。期間は当該職種の専門性の程度により3段階に分けられており、(1)短大卒以上の専門・技術水準を要する仕事については60日以内、(2)職業訓練校・専門学校レベルの仕事については30日以内、(3)その他の仕事については6営業日以内とされている。試用期間中の給与額は双方の合意によるが、通常の賃金の85%以上でなければならない(2012年労働法典第97条)。

問題は、試用期間が労働契約に含まれるか否かについて、いまだ明確に規定されていないことである。このため、取り扱いが企業によってまちまちであり、雇用契約の中に位置づけて社会保険の納付対象としている企業もある一方で、雇用契約から切り離し、当該期間については社会保険を納付していない企業もある。また、試用期間中に労災事故が起こった場合の使用者の義務についても法は明確に定めていない。

政府内では、労働契約本体とは別個の「試用契約」の締結を当事者に義務付けた上で、試用期間満了後の労働契約への自動移行(労働契約の締結なく就労継続した場合)などを規定することが検討されている。

4-3 パートタイム労働

2012年労働法典第34条第1項は、パートタイム労働者について、「(略)1日または1週間について通常の労働時間よりも短い時間就労する労働者をいう」と定義し、同条第2項は、「パートタイム労働者は、賃金、各権利及び義務についてフルタイムの労働者と同様の取り扱いを受け、機会の平等、差別をされないこと、労働安全及び労働衛生に関する権利を有する」と規定している。しかし、ここに言う「同様」の意味するところは明らかにされておらず、その給与が当該地方の最低賃金額(月額で規定。4-5「最低賃金」の項目参照。)を下回ることの可否や、退職手当、失業手当の算出方法も明確でないことが指摘されている。

4-4 契約更新ルールと無期転換

有期労働契約を更新しないときは、当該期間の満了より15日前までに書面により労働者に通知しなければならない(2012年労働法典第47条)。

また、この規定とは別に、有期労働契約の期間満了後、30日以上にわたり新契約を締結しないまま当該労働者を使用したときは、従前の契約期間が12カ月未満であったときは24カ月の期間を定める有期労働契約が成立し、従前の契約期間が12カ月以上であったときは期間の定めのない労働契約が成立する旨が定められている。

さらに、期間の長短にかかわらず、有期労働契約を2度更新したとき(すなわち有期労働契約を2度連続して締結したのち、さらに続けて労働契約を締結するとき)は、期間の定めのない労働契約となる(2012年労働法典第22条)。

しかし、このような、より長期ないし無期の労働契約への自動転換制度については、転換を求める労働者とこれを避けたい使用者との間での様々な紛争の原因となりやすく、また特に更新回数を制限する無期転換制度については、すくなくとも高齢者(健康を保証できない)やベトナムで働く外国人労働者(労働許可証の期間は最大で2年間)などについて適合的でないことから、政府内でも見直しが検討されている。

4-5 最低賃金

最低賃金は、全国を経済発展状況に応じて4種類の地域に区分し、それぞれについて毎年規定・公布されている。2016年から2020年までは、毎年7%引き上げられるべきことが国会で決議された(2016年11月9日)。また、労働法典は最低賃金額を月・日・時間単位で定める旨規定しているが、実際には月額のみが公布され、かつ月・日単位での最賃額の算出方法が不明確であることが現場に混乱をもたらしている。

直近6年間の最低賃金の変遷は以下のとおり。

表:地域別最低賃金額(ベトナム・ドン/月)
  2017年 2016年 2015年 2014年 2013年 2012年
第1地域 3,750,000 3,500,000 3,100,000 2,700,000 2,350,000 2,000,000
第2地域 3,320,000 3,100,000 2,750,000 2,400,000 2,100,000 1,780,000
第3地域 2,900,000 2,700,000 2,400,000 2,100,000 1,800,000 1,550,000
第4地域 2,580,000 2,400,000 2,150,000 1,900,000 1,650,000 1,400,000
議定
(政令)
153/2016/
ND-CP
122/2015/
ND-CP
103/2014/
ND-CP
182/2013/
ND-CP
103/2012/
ND-CP
70/2011/
ND-CP
公布日 2016年11月14日 2015年11月14日 2014年11月11日 2013年11月14日 2012年12月1日 2011年8月22日
発効日 2017年1月1日 2016年1月1日 2015年1月1日 2014年1月1日 2013年1月1日 2011年10月1日

注:第1地域はハノイ・ホーチミンなどの都市部、第2地域はハノイ・ホーチミン市外、主要地方都市部、第3地域は地方都市、第4地域はその他、が該当する。

なお、2012年労働法典において政(公)労使の3者構成による国家賃金評議会が設置され、毎年の最低賃金額の調整内容について、物価の変動状況などをもとに労働者保護の観点から政府に建議を行っている。この3者構成の内訳は「公」=政府(労働・傷病兵・社会省)、「労」=労働組合(ベトナム労働総同盟)及び「使」=(各使用者代表組織)だが、「公」に労働・傷病兵・社会省以外の関係省庁も加えるべきとの意見や、学識経験者などニュートラルな立場の構成員を増やすべきとの意見が政府内外に根強く存在する。

4-6 労働時間・割増賃金制度

通常の労働時間は、1日8時間、かつ週48時間を超えないものとされる(2012年労働法典第104条1項)。使用者が週当たりで通常の勤務時間を定めた場合、これを1日10時間、週48時間を超えないものとしなければならない(2012年労働法典第104条2項)。

休日、休暇に関連して、週40時間勤務が推奨されているものの週休2日は義務ではなく、他方、週休1日は確保されなければならない(2012年労働法典第104条2項、110条1項)。実際に土曜日も操業している現地の企業は少なくない。週休の曜日は就業規則(ベトナム語の直訳では「労働内規」)で定める(2012年労働法典第110条2項)。労働者は、8時間連続勤務の場合に最低30分(深夜勤務時間である午後10時から午前6時の間は45分)の休憩を取ることができる(2012年労働法典第108条)。交代制勤務の場合、次の勤務までに12時間を空けなければならない(2012年労働法典第109条)。年次有給休暇は、有害・危険な業務に従事しない通常の労働者は12日間となっており(2012年労働法典第111条1項)、5年勤務ごとに1日ずつ増加する(2012年労働法典第112条)。未消化の年次有給休暇は金銭により清算されることになる(2012年労働法典第114条)。その他、結婚や家族の死亡等による慶弔休暇も存在する(2012年労働法典第116条各項)。

時間外労働に関しては法律、労働協約または就業規則に規定された労働時間以外の労働時間をいい(2012年労働法典第106条1項)、労働者の同意を得てこれに従事させることができる(2012年労働法典第106条2項a)。時間外労働には上限があり、1日の労働時間の50%、1カ月30時間、1年間200時間(特別な企業は1年間300時間)を超えてはならない(2012年労働法典第106条2項b)。時間外労働手当は、通常の賃金に対し、(1)平日の時間外労働は150%、(2)週休日勤務は200%、(3)祝日または有給休暇日勤務は300%、(4)深夜勤務にはさらに30%、(5)深夜かつ時間外勤務にはさらに20%を割増して支払わなければならない(2012年労働法典第97条各項)。この計算方法は、通達第23/2015/TT-BLDTBXH号によって明確化された。

4-7 賃金テーブル・賃金表

使用者は企業内の各職位や職務等に応じた賃金水準を設定した賃金テーブルを作成し、地方当局に届け出なければならない(2012年労働法典第93条1項、2項)。また、賃金テーブルを作成する際には、使用者は企業内の労働組合の代表部から意見を聴取しなければならない。

賃金テーブルを作成する際には、職位等の上下等級間で5%以上の差を設けなければならない(政令第49/2015/ND-CP号7条2項)。また、通常の労働条件において最も基本的な業務を行う労働者の最低賃金は、地域別最低賃金を下回ることはできず、職業訓練を受けた労働者の賃金は地域別最低賃金より7%以上高く設定しなければならない(同条3項a、b)。重労働、有害、危険な業務に従事する職務、職位の賃金は、通常の場合と比較して5%以上高くなければならず、また、特別な重労働、有害、危険な業務の場合は7%以上高くなければならない(同項c)。

実務上は、最低賃金が上がる度に賃金テーブルも上方修正をして対応している企業もあるが、勤続年数の長い労働者の給与水準が高騰していくことが懸念となっている。行政による査察の際に、賃金テーブルが上記に従って作成(届出)がされているか、賃金支払いと整合しているか等が確認され、修正、補足の指導を受けることがある。

4-8 懲戒

懲戒処分(労働紀律)は、物的責任(損害賠償)とともに、就業規則の主要な内容とされている。

就業規則は、10名以上の労働者を使用する使用者について、文書によりこれを備えることが義務付けられている。必要的記載事項は、(1)労働時間・休憩時間、(2)職場における秩序、(3)職場における労働安全・労働衛生、(4)使用者の財産及び経営上・技術上の秘密、知的財産の保護、(5)労働者の各労働紀律違反行為及び各労働紀律処分(懲戒処分)、物的責任(損害賠償)である。就業規則の作成・公布・届出については日本と類似の手続きが規定されている。すなわち、当該事業場の労働者代表からの意見聴取義務、当該事業場における掲示などを通じた周知義務、及び所轄機関への届出義務(10日以内)である。ただし、日本と異なり、届出後15日を経て発効する旨が定められており、届出が明確に効力発生要件とされている。また、日本の労働契約法におけるような、就業規則の不利益変更による個別的労働契約内容の変更は規定されていない。なお、意見聴取が義務付けられている労働者代表については6-1「労働者代表」の項目を参照のこと。

懲戒処分の種類は、(1)けん責、(2)昇給停止(6カ月以内)、降格及び(3)解雇に限定されている(2012年労働法典第125条)。従前は給与水準の低い他の業務への一時的異動(最大6カ月)が規定されていたが、現在は廃止されている。この他、(1) 労働者の身体・人格に対する侵害、(2)懲戒処分に代えて罰金・賃金カットの形式を用いること、(3)就業規則に規定されていない行為に対して懲戒処分を適用することが、それぞれ明文で禁止されている。また、懲戒処分には時効が設定されている。一般的な時効は6カ月であり、使用者の財政、財産、秘密漏えいに直接かかわる行為については12カ月とされている。

最も重い処分である懲戒解雇処分は、以下の3つの場合に適用される。すなわち、(1)労働者が職場において窃盗、汚職、賭博、故意の傷害、麻薬の使用を行い、または使用者の経営上・技術上の秘密を漏えいし、もしくは知的所有権を侵害し、あるいは使用者の財産・利益に重大な損害を与え、または特別重大な損害を与えるおそれのある行為を行ったとき、(2)昇給停止または降格の懲戒処分を受けた労働者が、当該紀律処分期間の満了前に再び紀律違反行為を行ったとき、及び(3)労働者が正当な理由なく1カ月に5日または1年に20日故意に欠勤したときである。

実際には、上記の「重大な損害」の程度が具体的に法定されていないことから、これを非常に軽微な水準で就業規則に定め、懲戒解雇を濫発する企業の多いことが問題となっている。

4-9 労働契約の終了

労働契約は以下の場合に終了する(2012年労働法典第36条)。(1)有期労働契約の期間が満了したとき(労働組合の非専従役員としての任期が残っている場合を除く)、(2)労働契約の対象たる仕事が完成したとき、(3)当事者双方が労働契約の終了について合意したとき、(4)労働者が社会保険の納付期間と年金の受給年齢に関する条件を満たしたとき、(5)労働者が裁判所の判決によって懲役刑または死刑に処され、もしくは復職を禁じられたとき、(6)労働者が死亡し、または裁判所により民事行為能力の喪失もしくは失踪を宣告されたとき、(7)労働者が懲戒解雇されたとき、(8)労働者が一方的に労働契約を終了したとき、(9)使用者が一方的に労働契約を終了したとき、(10)使用者が組織・技術の変更または経済的理由もしくは企業の吸収・合併・分割・分離を理由として労働者を解雇したとき(多数の労働者を対象とする整理解雇。特別の手続きが法定されている)。

なお、労働者が一方的に労働契約を終了(退職)できる場合とは、以下の各場合である(2012年労働法典第37条)。

まず、有期労働契約に基づいて就労する労働者については、(1)労働契約において合意されたとおりの仕事内容、仕事場所に配置されず、労働条件を保証されなかったとき、(2)賃金の不払い、不完全払い、遅払いがあったとき、(3)虐待、セクシュアル・ハラスメント、強制労働があったとき、(4)労働者本人またはその家族の生活上の困難のために労働契約関係の継続が不可能となったとき、(5)民選機関の専従者として選出され、または国家機関での職務に任命されたとき、(6)妊婦であって、医療機関の指示によるとき、及び、(7)病気・事故により、通常の有期労働契約の場合は連続90日、短期労働契約(12カ月未満)の場合は契約期間の4分の1の期間治療してなお労働能力が回復しないとき、それぞれの場合について法律の定める予告期間を経て一方的に退職することができる。

また、期間の定めのない労働契約に基づいて就労する労働者については、45日前の予告(妊婦たる労働者について医師が退職時期を指定する場合を除く)をもっていつでも退職することができる。

つぎに、使用者が一方的に労働契約を終了(解雇)できる場合とは、以下の各場合である(2012年労働法典第38条)。(1)労働者が常態として労働契約に基づく仕事を完成しないとき、(2)病気・事故により治療を受ける労働者が、期間の定めのない労働契約の場合は連続12カ月、通常の有期労働契約の場合は連続6カ月、短期労働契約(12カ月未満)の場合は契約期間の2分の1を超える期間を治療に費やしたが労働能力が回復しないとき、(3)天災、火災または法律が規定するその他の不可抗力による場合であって、使用者がこれを克服するためのあらゆる方法を検討してなお生産を制限し事業場を削減せざるをえないとき及び、(4)労働契約の一時停止期間の満了後15日以内に労働者が復職しないとき。

なお、年金の受給年齢(=定年年齢)に達してもなお、社会保険の納付期間を満たしていないために労働契約の終了要件を満たさない労働者の多いことが問題となっており、定年年齢に達した事実を使用者による一方的解雇事由として加えることの是非が政府内で検討されている。

解雇予告期間は、期間の定めのない労働契約については45日、通常の有期労働契約については30日、短期有期労働契約(12カ月未満)については3労働日とされている(2012年労働法典第38条)。

契約の終了にかかる予告義務(退職または解雇の予告期間)に違反した当事者は、違反した日数分の賃金相当額を相手方に支払わなければならない。ただし、これはいわゆる予告手当ではなく賠償金であり、当然に予告に代替しうるものではない。

4-10 労働者派遣制度

労働者派遣は、2012年労働法典において初めて認められた労働力使用形態である。ユーザー企業と派遣労働者が個別的に深夜労働や時間外労働を合意できる点や、派遣労働者の労働契約期間中におけるユーザー企業からの直接雇用の申込みが許されている点などが特徴的である。ただし、これらについて具体的な手続きを定める規定は未整備である。

対象業務はポジティブリスト方式がとられ(2012年労働法典第53条)、製造業への派遣が認められていないこと、ユーザー企業に直接雇用される労働者と同一の労働条件水準が求められている(2012年労働法典第57条)ため割高となること、派遣期間が1年間に制限されている(2012年労働法典第54条)ことなどから、ユーザー企業にとっては必ずしも使いやすい制度となっていない。

参考レート

関連情報

お問合せ先

内容について

調査部 海外情報担当

お問合せページ(事業全般に対するお問合せ)

※内容を著作物に引用(転載)する場合は,必ず出典の明記をお願いします。

例) 出典:労働政策研究・研修機構「基礎情報:ベトナム」