基礎情報:ベトナム(2017年)
2. 雇用・失業関係

2-1 公共職業安定制度

政府が職業紹介(雇用サービス)組織の設立・運営に関する条件等を定めている(2012年労働法典第14条)。雇用サービス組織には、雇用サービスセンターと雇用サービス活動事業体(企業)があり、職業相談、職業紹介、職業訓練などを実施している。

雇用サービスセンターは政府の規定に基づいて設立される。全国に130カ所あり、うち64カ所は地方の労働・傷病兵・社会局(DOLISA)が、その他はさまざまな団体、委員会が運営している。主な業務は(1)無償での求職者に対する職業相談、職業紹介及び労働市場情報の提供、(2)事業主に対する求職者の紹介、(3)労働市場情報の収集、分析、失業保険受給書類の受付、DOLISAへの提出、(4)雇用に関するプログラムやプロジェクトの実施、(5)職業技能訓練、である。

コミューンといわれる区や市等が管轄区域に登録されている全世帯の情報を収集し、各地のDOLISAが、管轄区域に拠点を置くすべての事業所情報を記録する責任を負っている。

雇用サービス活動事業体は、地方レベルの労働に関する国家管理機関から雇用サービス活動の許可を得なければならない。

なお、職業紹介で公的機関の果たしている割合は非常に小さく、知人・親族の紹介や、工業団地の門前に広告を提示するなどして直接募集することが多い。

参考資料:厚生労働省「2014年, 2016年海外情勢報告」、国際労働財団ウェブサイト

2-2 失業保険制度

失業保険に加入する者は、ベトナム人労働者で(1)無期限の労働契約、(2)有期の労働契約(12~36カ月)、または(3)季節的業務または特定業務のために3カ月以上、12カ月未満の労働契約を締結している者である(雇用法第43条1項)。労働者が複数の使用者と契約している場合、当該労働者が最初にした契約関係に基づいて、労働者と当該使用者が保険料を負担する(同項)。労働者は月給(社会保険法下で社会保険算定基礎になる給与額、地域最低賃金の20カ月分が上限(雇用法第58条))の1%、使用者は当該労働者の給与基金の1%の金額をそれぞれ納付する(雇用法第57条)。

失業保険を受給する要件は、①労働契約が終了したこと(労働者が一方的に違法に労働契約を終了した場合、退職金や労働能力喪失手当を受給している場合を除く)、②12カ月以上保険料を納付していること(無期または有期の労働契約の場合は労働契約終了前の24カ月以内に、季節的業務または特定業務のために3カ月以上12カ月未満の労働契約の場合は労働契約終了前の36カ月以内に)、③雇用サービスセンターに必要書類一式を提出していること、④書類提出日から15日以内に職を見つけていないこと(例外規定あり)となっている(雇用法第49条各項)。

失業手当の受給額は、失業前の6カ月間の平均賃金額の60%で、地域別最低賃金の5倍を超えない金額となる(雇用法第50条1項)。失業保険の受給期間は、保険料納付期間によって変動し、それが12~36カ月間の場合は3カ月である。保険料納付期間がその期間を超えて12カ月増えるごとに1カ月受給期間が延びるが、最大で12カ月である(雇用法第50条2項)。

なお、失業保険の制度は法改正に伴って段階的に変化して上記の現行制度に至っているため、ベトナム法人での勤続年数の長いベトナム人労働者については、旧法下の制度等も確認するなど注意が必要である。

2-3 定年制度

定年年齢は年金の受給開始年齢と同じであり、男性は60歳、女性は55歳とされている(2012労働法典第187条)。ただし、軍人など一部公務員についてはさらに早い定年年齢が設定されているほか、民間労働者であっても、政府規定のリストに属する障がい者や重労働・有害危険業務に従事する者、山岳地帯や島嶼部で勤務する者などについては一般労働者よりも低い年齢での定年(年金受給開始)が認められている。また、高度の専門的技術を有する労働者や管理職などいくつかの類型の労働者については5年を限度として定年の延長が認められている。

女性に対して男性よりも早めの定年年齢が設定されている理由は、一般に、女性保護のためであると説明され、理解されている。しかし、他方で女性の社会進出を阻害する差別であるとの声もあり、男女間の定年年齢格差を縮小する方向での法改正が検討されている。

また、現在のままでは2029年頃に社会保険制度が破たんすると予測されており、年金の支給を遅らせる必要性の観点から、定年年齢の延長も検討されている。もっとも、急激な変更は混乱を引き起こすことから、たとえば、十年程度をかけて、男性の定年を62歳、女性を60歳まで延長する案などが政府内で検討されている。

2-4 障がい者雇用対策

障がい者雇用については、従前、いわゆる雇用割り当て制度がとられていた。割り当て雇用率は3%(一部の職種については2%)とされていた。また、障がい者の労働時間は1日7時間、週42時間に制限されていたほか、労働能力喪失度51%以上の障がい者については時間外・夜間労働に就かせることが禁止されていた。

しかし、割り当て雇用率を達成する企業はほとんど存在せず、また、障がい者保護の観点に立つ労働時間制限は、かえって障がい者雇用の障害となってきた(健常者向けの法定労働時間は1日8時間、週48時間であり、ライン作業などで健常者と障がい者を混在させて配置することが難しいなどの問題による)。

そこで、2012年労働法典は、上記の割り当て雇用制度及び労働時間規制を廃止した。労働能力喪失度51%以上の障がい者を対象とする時間外・夜間労働の禁止は維持されている。

もっとも、ベトナムにおける障がい者雇用の促進のためには、まだまだ多くの課題が残されている。たとえば、障がい者の職業教育が不十分であること、障がい者が無理なく通勤できるような交通インフラなどが未整備であること、障がい者雇用を進めるための企業に対するインセンティブが貧弱であることなどである。

2-5 外国人労働者

外国人のベトナムでの就労形態として、ベトナム法人との労働契約(政令第11/2016/ND-CP号(以下、「政令11号」とする)2条1項a)や外国法人からの社内人事異動(同項)などが典型的である。ベトナム法人と締結しベトナムで就労する労働契約はベトナム労働法の規制に服することとなる。外国人労働者については、査証(ビザ)、一時在留許可証(テンポラリーレジデンスカード)や個人所得税など注意すべき点が複数存在するが、ここでは労働許可証の制度について紹介する。

外国人がベトナムで労働をするための条件の一つとして、例外的な場合を除きベトナム当局より発行された労働許可証を取得していることが挙げられている(2012年労働法典第169条1項d)。労働許可証の発行条件は、政令11号及び、通達第40/2016/TT-BLDTBXH号(以下、「通達40号」とする)に詳しい定めが存在する。これらによると、2012年労働法典第169条を踏まえ、(1)ベトナムの法令に従い民事行為能力を有すること、(2)業務遂行に支障のない健康状態であること、(3)管理者、最高経営責任者、専門家または技術者であること、(4)ベトナム及びベトナム国外の法令に基づき罪を犯しまたは刑事責任を追及されていないこと、(5)管轄当局に外国人労働者の雇用が文書で承認されていること、とされている。

このうち特に、(3)の専門家の要件の解釈が問題となっている。専門家の要件として、政令11号3条3項では、(a)外国の機関、組織、企業が専門家であることを認めた証明書を有するまたは(b)大学卒業レベル以上の卒業証明書(専攻分野はベトナムで就労する職位に適合すること)を有し、かつその専攻分野(ベトナムでの職位)に関する実務経験が3年以上あることが要請されている。政令11号及び通達40号において、(a)の発行主体が外国の公的機関でなければならないかという点の解釈が不明確となっているので注意が必要である。

労働許可証の有効期間は上限2年とされているが(2012年労働法典第173条)、更新(再発行)手続きがあり、有効期間の残存期間が5日以上45日以下となった場合に申請する(政令11号13条2項、15条1項)。

労働許可証には取得免除条件がある。2012年労働法典第172条によると、労働許可証の取得が不要となる主な場合として、(1)有限責任会社の出資者または所有者、(2)株式会社の取締役会の構成員、(3)ベトナムにおける、国際組織、NPO組織の代表事務所、プロジェクトの責任者、(4)マーケティングのために3カ月に満たない期間ベトナムに滞在する者、(5)ベトナム人専門家及びベトナムに居る外国人専門家には処理できない、生産・経営に影響を及ぼす(またはそのおそれのある)不測の複雑な事故、技術上の事態を処理するために、3カ月に満たない期間ベトナムに滞在する者、(6)ベトナムで働く留学生の場合で、使用者が7日前までに省レベルの労働に関する国家管理機関に届け出た者、(7) 政府の規定に基づくその他の場合(詳しくは政令11号7条2項に記載)などが列挙されている。なお、労働許可証の取得が免除されるときであっても、勤務開始前7営業日前までに当局へ報告が必要となる場合がある(政令11号8条2項)。

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