基礎情報:アメリカ(2000年)
5. 労使関係

※このページは、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

5-1. 労使関係、労使関係法の概況

連邦法である全国労働関係法(NLRA)がアメリカの労使関係を全般的に規定する法律で、同法は労働組合の結成、団体交渉などについて規定している。

労働組合の組織化

全国労働関係法は排他的交渉単位制度を採用しており、この制度の下においては、労働組合を組織する場合には、交渉単位の労働者の30%以上の賛成署名を集めるとともに、選挙において労働組合は過半数の支持を得なければならない。

交渉単位

全国労働関係法は団体交渉について、交渉単位ごとにそこに所属する労働者の選択により、唯一の労働組合が当該交渉単位の労働者を代 表して、使用者と交渉すると定めている。したがって、ひとつの交渉単位に複数の労働組合が存在することはない。また、労働者の過半数の支持がない場合は、 当該交渉単位では労働組合による団体交渉は行われない。交渉単位について通常、労働組合は過半数の支持を得ることを容易にするため、狭い範囲を主張し、こ れに対して使用者は労働組合の影響力を削ぐためにより広い範囲で定めることを主張している。この交渉単位の確定が団体交渉を始める前に問題となりがちであ る。交渉単位が労使間で決着しない場合は、全国労働関係委員会(NLRB)が裁定する。

交渉単位における代表の決定は、全国労働関係委員会の管理の下での選挙によって行われる。選挙は次の場合に行われる。

  1. 新たに労組が代表権の証明を求めるとき
  2. 労働者が既存労組の代表権の否定を求めるとき
  3. 使用者が既存労組の代表権の否定を求めるとき
  4. 労働協約の適用を受ける組合員以外の労働者が労組に負担金を払っている場合、その負担金の支払中止を求めるとき
  5. 労組組織に変更があった場合、使用者または労組が証明を求めるとき
  6. 使用者または労組が交渉単位の確認を求めるとき

団体交渉

アメリカでは、全国労働関係法に基づく排他的交渉単位制度の下で団体交渉が行われている。したがって、各交渉単位において過半数の労働者に支持されている労組が、当該交渉単位のすべての労働者を代表して団体交渉を行う。

団体交渉の内容は、賃金、労働時間、その他の労働条件とされている。

アメリカでは一般的に労働協約の有効期間を3~4年とするところが多く、したがって団体交渉は3~4年ごとに行われる。団体交渉の時期は産業、企業によって区々であり、統一的な交渉はほとんどないといっていい。

不当労働行為

全国労働関係法は使用者および労働組合の不当労働行為を禁止するとともに、不当労働行為があった場合における全国労働関係委員会による行政救済を定めている。使用者の不当労働行為とは以下のものである。

  1. 労組を結成し、労組に加入し、労組を通じて団体交渉する権利を阻害すること
  2. 労働者の組織を支配したり、組織に介入したり、財政援助をすること
  3. 労組の組合員になることを促進、または阻害することを目的に労働条件などについて差別的取り扱いをすること
  4. 労働者が全国労働関係委員会に申告、または証言したことを理由として解雇その他の差別的取り扱いをすること
  5. 賃金、労働時間などの労働条件について労働者の過半数に支持されている労組との団体交渉を拒否すること
  6. 労働協約にホット・カーゴ条項を定めること

労働組合の不当労働行為とは以下のものである。

  1. 労組を結成し、労組に加入し、労組を通じて団体交渉する権利およびこれらをしない権利を制限すること
  2. 団体交渉に関する使用者の行為の制限
  3. 使用者に対して、労組問題に関連して労働者の差別的取り扱いを要求すること
  4. 当該労組が代表権を持つ交渉単位に関し、賃金、労働時間などの労働条件についての団体交渉を拒否すること
  5. 労組や使用者団体への加盟、労組承認などのため取引関係を利用してスト、ピケ、ボイコットを行い、または脅し強要すること
  6. 労組保証条項の下での差別的または過大な負担金を徴収すること
  7. フェザーベッディング
  8. 証明されていない労組による組織化、使用者の容認を求めるピケまたはピケの脅し
  9. 労働協約にホット・カーゴ条項を定めること
  10. 通告なしの病院などのスト、ピケ

労働争議の動向

労働争議(参加人数1000人以上)は、1970年代前半をピークに減少傾向にある。

表:産業別生産労働者(非監督者)の平均時間・週賃金
1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999
労働争議発生件数(件) 35 45 31 37 29 34 17
参加人員(人) 182 322 192 273 339 387 73
労働損失日数(千人日) 3,981 5,020 5,771 4,889 4,497 5,116 1,995

出所:Bureau of Labor Statistics, Department of Labor

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5-2. 労働組合

労働組合の形態

労働組合の多くは産業別に組織されているが、実際の活動は、職場または地域単位に置かれる支部(ローカル・ユニオン)が中心になり、大きな工場の場合には、工場単位に支部が設置されるのが通例である。先に述べた排他的交渉単位制度の影響で、工場によっては交渉単位の異なる職種ごとに労組が存在するケースや、大多数の従業員は組織化されていないが一定職種だけは組織化されている場合もある。

組織率

アメリカの労組組織率は1945年には35.5%であったが、60年代には30%を割り、80年代には20%を割り込み、90年代後半に入っても組織率の長期低落傾向に歯止めはかかっていない。1940年代から50年代にかけて約4500万人であった雇用者数が90年代に入って1億人を超したが、この間、労働組合員数は1600万人程度で安定している。すなわち、アメリカの労組は製造業を中心に組織されており、雇用者はもっぱら労働組合の組織化に消極的な産業、たとえば金融業、サービス業、最近ではハイテク関連産業で増加したためである。また、地域的にみると、労働組合の弱い南部諸州において雇用が増えている。

しかし、労働統計局が2001年1月に発表した労働組合員統計によれば、2000年のアメリカ全国の組合員数は1999年と比較して若干落ちこみ、1630万人となった。

2000年の特徴は以下のとおりである。

  1. 民間部門は、10人に1人が組合員であるのに対して、公共部門は10人に4人が組合員である。
  2. 警察官、消防士等のprotective serviceの労働者が最も高い組織率(39.4%)を誇っている。
  3. 白人、ヒスパニックに比べて黒人の組織率が高い。

組織率については、データが利用可能な最初の年である1983年は20.1%であったが、99年には13.9%に落ち込み、さらに2000年は13.5%となった。

2000年の産業別の組織率は、公共部門が37.5%であるのに対して、民間部門は9.0%であるにすぎない。公共部門の中では、地方自治体労働者の組織率が最も高く、43.2%であった。民間非農業部門では、輸送・公益事業24.0%、建設業18.3%、製造業14.8%であるが、金融・保険・不動産が最も低く、1.6%であった。

職業別ではprotective service労働者が最も高く、39.4%、最も低い販売職は3.5%となっている。

ナショナルセンター

アメリカの労組ナショナルセンターは米労働総同盟産別会議(AFL-CIO)ただひとつである。したがって、ほとんどの有力な産業別、職業別の労働組合が加盟している。AFL-CIOの加盟労組は現在(2001年1月)、66組織で、組合員数は約1300万人を数える。加盟労組の地方・企業別支部(ローカル・ユニオン)は合計4万5000組織といわれる。

AFL-CIOは1955年にAFL(米労働総同盟)とCIO(米産別会議)が合併して設立され、リーダーシップはジョージ・ミーニー会長(1955~79年)、レーン・カークランド会長(1979~95年)と引き継がれ、現在は1995年大会で選出された次の三役に率いられている(かっこ内は出身労組)。

  • ジョン・スィニー会長(SEIU)
  • リンダ・トンプソン上席副会長(AFSCME)
  • リチャード・トルゥムカ書記長(UMW)

AFL-CIOは伝統的に民主党を支持している。現在、最も力を入れて取り組んでいるのは「組織率の上昇」である。このためにスィニー会長が選出された1995年の大会で、AFL-CIO本部に独立した組織局を設立するとともに、加盟労組の組織化活動を支援するための基金を設けて取り組んでいる。これまでのところ、とくにスィニー会長の出身労組であるSEIUなどは活動資金の30%以上を組織化活動につぎ込む強力な取り組みを進めており、一定の成果を上げている。

AFL-CIO執行評議会

2000年2月12日から17日にかけて、ルイジアナ州ニューオーリンズ市においてアメリカ労働総同盟・産業別組合会議(AFL-CIO)執行評議会が開催された。本評議会は日常的な管理事項、定期大会(2年に1回開催する最高意志決定機関。最近では1999年10月に開催)で採択された基本政策の実施に関する事項等の決定を行っている。今回は、ゴア副大統領も出席し、2000年選挙対策、公正貿易対策、移民対策、についての決議がなされた。

1. 2000年選挙対策

評議会は、「労働2000」プログラムを中心に、引き続き選挙対策を推進することを決議した。

2. 公正貿易対策

グローバル経済における公正確保のキャンペーン展開、中国への恒久的通常貿易関係([permanent] Normal Trade Relations: NTR)付与阻止、発展途上国の平等的・民主的・持続的発展のための広範な開発アジェンダを支持することを決議。

3. 移民対策

評議会は、1999年10月の定期大会で決議案が提出され、今評議会で議論することになっていた移民政策について、違法移民労働者およびその家族(500~600万人)に恒久的合法的地位を付与する新恩赦プログラム、労働権の保護、悪質な使用者に対する制裁立法を要求する旨決議した。

主要労働組合

先にも述べたようにアメリカの労働組合の多くは産業別に組織され、組合員の経済的条件の改善に主として取り組んでいるが、最近の傾向として労組間の合併による組織の拡大が目立っている。たとえば1995年には繊維、衣料関係において衣料繊維合同労組(ACTW)と女性縫製労組(LGW)が合併して全米縫製・繊維労組(UNITE)を結成、また、国際機械工労組(IAM)は製材関係の労組を吸収合併し、国際サービス労組(SEIU)も消防士労組を吸収している。

主要労組と組合員数の推移(千人)
  1995年 2001年
チームスター(Teamsters) 1285 1500
全米州郡市労組(AFSCME) 1183 1300
国際サービス労組(SEIU) 1027 1400
国際食品・商業労組(UFCW) 983 1400
全米自動車労組(UAW) 751 1250
国際電気工友愛労組(IBEW) 678 775
全米教員連盟(AFT) 613 1000
全米通信労組(CWA) 478 740
国際機械工労組(IAM) 448 735
全米大工差物師友愛労組(CJA) 378
国際建設労組(LIUNA) 352 800
全米縫製・繊維労組(UNITE) 251

出所:2001年の数字は、2月2日現在の各労組ホームページから。

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5-3. 使用者団体

アメリカの使用者団体は19世紀末から労働運動の勃興に対抗する形で創設されてきたが、団体交渉が主として企業レベル、地域レベルで行われるため、膨大な数に上る使用者団体が地域レベルで存在するものの、使用者団体の全国組織は必ずしも労使関係(団体交渉)に大きな影響力を持たず、議会に対する働きかけ(ロビー活動)が主な活動となっている。最も重要な組織は全米商業会議所と全国製造業者連盟である。

全米商業会議所(Chamber of Commerce of the United States)

世界で最も大きな経営者団体。加盟会員は2700の地方・州商業会議所、1200の業種別団体、56の在外国米商業会議所、18万社の企業であり、直接、間接を含めて500万社の企業が加盟していることになる。

全国製造業者連盟(National Association of Manufacturers: NAM)

加盟企業は13000社、カバーする労働者は1530万人。加盟企業数は少ないがほとんどが大企業で、加盟企業だけでアメリカの製造業の生産高の75%を占める。

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例) 出典:労働政策研究・研修機構「基礎情報:アメリカ」