基礎情報:アメリカ(2000年)
3. 賃金
※このページは、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。
3-1. 賃金制度の概要
アメリカの賃金制度は主として管理職、専門職など(ホワイトカラー)に適用される年俸制とそれ以外の労働者(ブルーカラー)に適用される時給制とに大きく分けることができる。時給制の労働者の場合も支払いは週単位が多い。
ブルーカラーに適用されている時給制は基本的には職務給である。すなわち、職務(ジョブ)を細かく定義し、各職務の評価に応じて当該職務に従事する労働者の1時間当たり賃金額の範囲が定められている。実際に支払われる賃金は、当該職務賃金の範囲内で当該労働者の業務実績や能力に応じて決まる。この時給制が適用される労働者には公正労働基準法(FLSA)に基づいて、週40時間を超えて働いた場合には、40時間を超えた時間について50%の時間外労働手当が支払われる(労働時間の項参照)。
一方、ホワイトカラーに適用される年俸制も職務給を基本としている。ブルーカラーと同様に各職務の評価に応じて、当該職務に従事する労働者の年俸額の範囲が定められているが、一般的には上司と相談して年間の達成目標を決め、目標の達成度合いに応じて評価が行われる。この評価に基づいて、次の年の昇給が行われることになる。年俸制が適用されている労働者には労働時間管理が行われず、したがって時給制適用労働者とは異なり、時間外労働手当は基本的には支払われない。
ボーナスは、ホワイトカラー層を対象として企業の業績に応じて支払われるケースが多く、場合により非常に高額なものもみられる。最近では、ブルーカラー層に対してもある程度のボーナスが支払われるケースが増加している。
3-2. 最低賃金
アメリカの最低賃金制度は公正労働基準法(FLSA)に基づいており、全国一律の最低賃金額が連邦法により定められているが、各州には全国一律最低賃金より高い額を定める権限が与えられており、実際に幾つかの州では、全国一律最低賃金より高い額の州最低賃金を定めている。公正労働基準法によると、最低賃金が適用されるのは、次の条件に適合する労働者である。
- 年商50万ドル以上の企業に雇用されている労働者
- 州を越えた事業活動を行うか、州を越えて流通する商品を製造する企業に雇用されている労働者
- 病院、身体障害者施設、学校に雇用されている労働者
また、公正労働基準法の規定によると、次のような労働者は最低賃金の適用対象から除外されている。
- 管理職、専門職
- 外勤販売員
- 季節的娯楽施設、教育施設に雇用されている労働者
- 小規模の新聞社に雇用されている労働者
- 小規模の電話会社に雇用されている交換手
- 家庭内で働く育児・介護労働者
現在、最低賃金の対象となっている労働者は約1億人(労働力人口の約70%)である。現行の最低賃金額は、1997年9月1日に90セント引き上げられて、1時間当たり5ドル15セントとなっている。
この現行最低賃金額に対し、クリントン政権は1998年2月に賃金格差、所得格差の解消に最低賃金引き上げが大きく貢献しているとの認識から、所得格差解消の方策として「1時間当たり1ドル引き上げ6ドル15セントとする」法案を議会に提出した。
同法案は、2年間にわたって年間50セントずつ引き上げ、2000年までに1時間当たりの最低賃金を5ドル15セントから6ドル15セントにする内容であり、約1200万人の労働者に恩恵をもたらすであろうと期待されていた。
しかし、7カ月にわたる審議の末、上院は「経済は今なお堅調ではあるが、産業界は最低賃金の引き上げを容易に吸収できない」という共和党議員と経営者団体の主張をいれ1998年9月22日、同法案を否決している。
3-3. 賃金関連情報
アメリカでは業種間、人種間、男女間の賃金格差が大きい。最近では、これに加えて正規従業員とコンティンジェント労働に就く者との 所得格差も目立つ。賃金格差、所得格差について、すでに1970年代後半から問題とされてきており、その要因として指摘されているのは次の各点である。
- 労働力需要が高技能、高度教育を受けた労働者に有利にシフトしていること(産業社会がコンピュータ革命で技術偏重に変化したため、教育が高く経験を積んだ熟練労働者がそうでない労働者よりも必要とされ、当然収入も多くなった)。
- 国際競争、産業の空洞化の影響(NAFTA 発効による隣接メキシコとの関係など)。
- 労働力供給の増加(移民の増加)(技術水準も賃金も低い国からの輸入と移民の増大によって非熟練労働者があふれ、相対的所得を押し下げている)。
- 労働組合の弱体化。
- 法律的に解雇規制が存在しないこと。
- 労働市場の流動化が進み過ぎたこと(コンティンジェント労働の顕在化)。
平均1時間当たり賃金 | 平均1週間当たり賃金 | |||||
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1999年 | 2000年 | 1999年 | 2000年 | |||
12月 | 11月 | 12月 | 12月 | 11月 | 12月 | |
民間部門平均 | 13.46 | 13.98 | 14.02 | 465.72 | 479.51 | 479.48 |
(季節調整値) | 13.44 | 13.96 | 14.01 | 463.68 | 478.83 | 477.74 |
鉱工業 | 15.11 | 15.65 | 15.69 | 627.07 | 636.96 | 632.31 |
鉱業 | 17.19 | 17.06 | 17.17 | 763.24 | 769.41 | 765.78 |
建設業 | 17.47 | 18.16 | 18.19 | 677.84 | 699.16 | 685.76 |
製造業 | 14.20 | 14.62 | 14.71 | 603.50 | 608.19 | 607.52 |
耐久消費財製造 | 14.73 | 15.22 | 15.27 | 634.86 | 639.24 | 635.23 |
非耐久消費財製造 | 13.39 | 13.70 | 13.84 | 557.02 | 560.33 | 564.67 |
サービス業 | 12.94 | 13.46 | 13.52 | 424.43 | 440.14 | 442.10 |
運輸・公益業 | 15.96 | 16.43 | 16.49 | 612.86 | 632.56 | 636.51 |
卸売業 | 14.85 | 15.44 | 15.61 | 570.24 | 594.44 | 599.42 |
小売業 | 9.26 | 9.60 | 9.64 | 271.32 | 274.56 | 277.63 |
金融・保険・不動産業 | 14.76 | 15.27 | 15.38 | 534.31 | 548.19 | 553.68 |
その他サービス業 | 13.65 | 14.16 | 14.26 | 444.99 | 461.62 | 463.45 |
出所:The Employment Situation News Release, Jan. 5, 2001, Bureau of Labor Statistics, Department of Labor
1999年 | 2000年 | |||||
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12月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | |
民間部門平均 | 34.5 | 34.3 | 34.4 | 34.4 | 34.3 | 34.1 |
鉱工業 | 41.0 | 40.8 | 40.7 | 40.9 | 40.5 | 39.8 |
鉱業 | 44.3 | 44.6 | 45.2 | 45.6 | 45.0 | 44.3 |
建設業 | 38.9 | 39.2 | 39.0 | 39.3 | 38.6 | 37.9 |
製造業 | 41.7 | 41.4 | 41.3 | 41.4 | 41.2 | 40.4 |
時間外労働時間 | 4.7 | 4.5 | 4.4 | 4.5 | 4.3 | 4.0 |
耐久消費財製造 | 42.2 | 41.9 | 41.8 | 41.9 | 41.7 | 40.7 |
時間外労働時間 | 4.8 | 4.6 | 4.5 | 4.6 | 4.4 | 4.0 |
非耐久消費財製造 | 40.9 | 40.6 | 40.6 | 40.6 | 40.4 | 40.0 |
時間外労働時間 | 4.5 | 4.2 | 4.3 | 4.3 | 4.1 | 4.0 |
サービス業 | 32.9 | 32.7 | 32.8 | 32.7 | 32.8 | 32.7 |
運輸・公益業 | 38.4 | 38.2 | 38.5 | 38.6 | 38.5 | 38.7 |
卸売業 | 38.5 | 38.3 | 38.6 | 38.5 | 38.6 | 38.4 |
小売業 | 29.1 | 28.8 | 28.8 | 28.8 | 28.9 | 28.6 |
金融・保険・不動産業 | 36.3 | 36.1 | 36.3 | 36.1 | 36.1 | 36.1 |
その他サービス業 | 32.7 | 32.6 | 32.6 | 32.6 | 32.6 | 32.6 |
出所:The Employment Situation News Release, Jan. 5, 2001, Bureau of Labor Statistics, Department of Labor
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