基礎情報:韓国(2013年)
6. 労使関係

6-1 労使関係

韓国の労使関係は、2つの大きな課題(タイム・オフ制の導入及び専従組合員に対する使用者の賃金支払いの禁止、複数組合制および交渉窓口の単一化)に直面している。2010年1月1日の労働組合及び労働関係調整法の改正に伴い、労使に関連した活動に限って賃金支給を認めるタイム・オフ制が2010年7月1日から施行され、職場レベルの複数組合制が2011年7月1日から認められた。

労働組合は当初、これらの新しい規則の制定に強く反対した。しかし、2011年8月末現在、タイム・オフ制は94%の職場に導入され、導入企業の99.4%で遵守されている。複数組合制に関しては、導入当初より労働組合の新規申請件数が減少している。最も異論の多い課題の交渉窓口の単一化に関しては、韓国全国民主労働組合総連盟(KCTU)傘下労働組合の86.2%の企業および韓国労働組合総連盟(FKTU)傘下労働組合の89.8%の企業で導入されている。

資料出所:韓国国際労働財団(2011) "Labor Situation in Korea 2011"、同(2011) "Korea Labor Review, No.41"

6-2 労働組合

雇用労働部の調査によると、2011年の労働組合員数は172万人で、前年より7万7,000人(4.7%)増加した。労働組合組織率は10.1%で、前年より0.3%上昇した。組織率は1989年に19.8%に達して以降低下し続け、2010年に9.8%を記録した。2011年の組織率の上昇には、複数組合制の導入が影響したとみられている。

韓国には、韓国労働組合総連盟(FKTU)と韓国全国民主労働組合総連盟(KCTU)の2つのナショナルセンターがある。2011年の組合員数は、FKTUが76万8,953人(44.7%)、KCTUが56万2,310人(32.7%)で、両組織に未加盟の組合員が36万6,746人(21.3%)であった。

産業別の組合組織率は、公務員が59%、教員が18.8%で、民間企業の8.9%よりもかなり高い。民間部門の組合員数は1,459万人で、前年より8万1,000人(0.3%)増加した。

資料出所:韓国労働財団ウェブサイト

6-3 労使紛争処理制度

労働委員会は、公労使をそれぞれ代表する同数の委員からなり、主に労働争議に対する調整業務と不当労働行為・不当解雇等に対する判定業務や非正規労働者に対する差別是正業務などを行う独立行政機関である。労働委員会は、中央労働委員会(中労委)、地方労働委員会(地労委)、特別労働委員会(船員労働委員会)の3種類がある。

労働委員会は、もともと不当労働行為の判定業務を行ってきたが、1989年の勤労基準法改正により、不当解雇等の個別紛争も取り扱うようになった。

紛争処理手続き

労働委員会における紛争処理手続は、労使当事者が地労委に対して救済の申立や調整を申請することから始まる。地労委の決定や判定に不服のある当事者は、中労委に再審査を求めることができる。労働委員会は、審問の結果、申立事実の全部または一部について理由があると判定したときは、その全部または一部に対して救済命令を発する。理由がないと判定したときは、棄却命令を発する。中労委の決定や判定に不服のある当事者は、行政裁判所に行政処分取消訴訟を提起することができる。

調停事務

労働委員会は、労働組合と使用者との間の賃金、労働者福祉、解雇、その他の労働条件に関する主張の不一致によって労働争議が生じた場合、当事者双方または一方の申請により調停や仲裁を行う。

労働委員会は、調停事件が受理されると、公労使各1名で構成される調停委員会を組織する。調停委員会は、関係当事者を呼び出して争点を確認し、調停案を作成する。調停が終わると調停会議を開き調停案を提示して受諾を薦めるか、あるいは行政指導を行う。しかし、労使間の意見の隔たりがあまりにも大きく、調停が成立する見込みがない場合には、調停案を提示せずに調停を終了する。

仲裁手続

仲裁手続は、(1) 労働紛争の当事者が申請した場合、(2) 当事者の一方が労働協約に基づいて申請した場合、(3) 緊急調停が成立する可能性がないと認められ、仲裁に回付された場合に開始される。

仲裁委員会は、調停担当公益委員の中から合意によって選定された3人の委員で構成される。当事者間の合意が成立しない場合は、関係当事者双方または一方を仲裁委員会に出席させて、争点を確認する。

仲裁委員会の仲裁裁定は、書面で作成され、効力発生期日を明示しなければならない。仲裁裁定の法的効力は、労働協約と同一である。仲裁裁定の解釈やその履行方法をめぐって当事者間の意見が異なる場合は、仲裁委員会の解釈に従わなければならない。

関係当事者は、地方労働委員会の仲裁裁定が違法または権利の濫用に当たると判断する場合、異議申立をすることができる。また、仲裁裁定書が送達されてから10日以内に中央労働委員会に再審を申請することができる。中央労働委員会の仲裁裁定または仲裁再審裁定が違法または権利の濫用に当たると判断する場合は、仲裁裁定書または仲裁再審裁定書が送達されてから15日以内に行政訴訟を提起することができる。企業内の苦情処理について、制定法により次の3段階(標準手続の場合)の手続の導入。

裁判所

韓国では、労働紛争を専属管轄する特別裁判所は存在せず、解雇を含む労使紛争は、一般民事事件とともに裁判手続を通じて処理される。裁判手続は日本と同じく三審制となっており、仮処分手続、民事調停手続、審理手続、救済内容なども日本とほとんど変わりない。

中労委の決定や判定に対する取消を求める行政訴訟を提起する場合は、行政裁判所が第一審となる。行政裁判所の控訴審は高等裁判所であり、その上告審は最高裁判所である。従って、労働委員会における紛争処理手続は、地労委→中労委→行政裁判所→高等裁判所→最高裁判所の五審制となる。

資料出所:李●(2010)「韓国における労働紛争処理システムの現状と課題」(日本労働法学会誌116号)
※●は金へんに延。

参考文献

  • 海外職業訓練協会ウェブサイト
  • 韓国労働財団(2012)「外国人経営者のための労務管理マニュアル2012」
  • 健康保険組合連合会(2009)「社会保障年鑑2009年版」
  • 勅使千鶴(2009)「韓国における保育機関の公共性と保育の質―保育政策と実践にみる公共性と「保育の質」の向上への取り組み」(日本福祉大学子ども発展学論集 第1号)
  • 脇田滋(2011)「韓国における雇用安全網関連の法令・資料(1) 雇用保険法・雇用保険制度」(龍谷法学 第44巻第1号)
  • 労働政策研究・研修機構(2009)「活気に溢れたシステマチックな人的資源市場(労働市場)の構築―第7回北東アジア労働フォーラム

(文中記載資料を除く)

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