JILPTリサーチアイ 第91回
時間外労働の上限規制に対して、企業はどのように対応したのか
2026年4月8日(水曜)掲載
1.はじめに
働き方改革の中で、2019年に労働基準法が改正され、労働時間規制が強化された。そして、5年間の猶予期間を経て、2024年4月より、自動車運転の業務に従事する労働者(以下、自動車運転者)に新たな労働時間規制(改正労働基準法と改善基準告示[注1])が適用された。ここでいう自動車運転者とは、トラック運転者やタクシー運転者、バス運転者を指す。
今回のリサーチアイでは、新たな労働時間規制に、企業はどのように対応したのか、その際にどのような課題が発生したのか、発生した課題に対して、企業の労使はどのように対応したのかを取り上げる。なお、本リサーチアイの内容は、『時間外労働の上限規制への対応―自動車運転の業務に従事する労働者を対象に―』(労働政策レポートNo.15)に基づく。
2.自動車運転者の就業環境
具体的なテーマを取り上げる前に、自動車運転者の就業環境を概観しよう。図表1は、有効求人倍率の推移を示している。有効求人倍率が高いほど、募集が多くなり、それだけ人手が足りない状況であることを示す。職業計を全体の平均と見立てれば、自動車運転の職業は平均より有効求人倍率が高くなっており、それだけ人手不足の状況が深刻であることがわかる。図表2は、各運転者の平均労働時間(年間)の推移を示している。全産業の数値を全体の平均と見立てれば、各運転者の労働時間は平均より長いことがわかる。また、年間の平均所定外労働時間を見ると、全産業に比べると、自動車運転者の平均所定外労働時間(残業時間)は長い(図表3)。これに加え、自動車運転者は、他の労働者に比べると、年間給与は低い(図表4)。
このように、自動車運転者が働く職場は、人手が足りず、労働時間が長い傾向にあることがわかる。こうした職種に対して、労働時間規制を強化することで、労働者の健康を守り、安心して働ける環境を整備することは重要である。
ただし、図表1の通り、人手が足りない職種に労働時間規制を強化すると、より一層の人手不足を招く可能性が考えられる。この場合、例えば、1日で届いていた荷物が、2日かかって届くようになる等、私たちが当たり前のように受けているサービスが損なわれることも起こり得る。こうした労働時間規制の適用に伴うサービスの質の低下等への懸念は、「物流2024年問題」といわれている。
図表1 有効求人倍率の推移(倍)

出所:厚生労働省『一般職業紹介状況(職業安定業務統計)』より。
図表2 平均労働時間の推移(年、時間)

出所:厚生労働省『賃金構造基本統計調査(e-statよりデータ取得)』より独自に集計。
図表3 平均所定外労働時間の推移(年、時間)

出所:図表2に同じ。
図表4 年間給与の推移(千円)

出所:図表2に同じ。
3.調査概要
既述の通り、今回は時間外労働の上限規制に対して、企業がどのように対応したのかがテーマである。具体的には、企業内において労働時間規制をどのように遵守しているか(あるいは遵守できてないのか)である。そのため、企業の事例を取り上げる必要がある。
分析対象は、図表5の通り、物流業4社、バス会社2社、タクシー会社2社の計8社である。いずれも大企業であり、労働組合を有する。物流業は全国で事業を展開し、主にBtoB事業を行う。バス会社とタクシー会社は、特定のエリアで事業を行い、BtoC事業を行う。なお、同じ業種でも、企業によって事業の特徴が異なっており、それに伴い、主な分析対象となる運転者は異なる。
図表5 企業の属性、事業の特徴、主な分析対象
| 企業 | 事業エリア | 従業員規模 | 事業の特徴 | 主な分析対象 |
|---|---|---|---|---|
| 物流業A社 | 全国 | 約17,000人 | BtoB事業。顧客の多くは中小企業(業務量の予測が困難)。 | 市内ルートと店舗間ルートを担当する運転者 |
| 物流業B社 | 全国 | 約14,000人 | BtoB事業。中距離輸送もしくは短距離輸送を行う。 | 中距離・短距離輸送の運転者 |
| 物流業C社 | 全国 | 約17万人 | BtoC事業がメイン。ニーズの減少傾向が続いている。 | 市内ルートを担当する運転者 |
| 物流業D社 | 全国 | 2,200人程度 | BtoB事業。C社の100%子会社。 | 店舗間ルートを担当する運転者 |
| バス会社E社 | 関東 | 900人弱 | BtoC事業。路線バス、高速バス、貸切バスを運行。 | 路線バスの運転者 |
| バス会社F社 | 関東 | 約950人 | BtoC事業。路線バス、高速バス、貸切バスを運行。 | 路線バスの運転者 |
| タクシー会社G社 | 関東 | 約2,000人 | BtoC事業。24時間営業(複数のシフトを導入し対応)。 | 日勤・隔日勤務の運転者 |
| タクシー会社H社 | 関西 | 約950人 | BtoC事業。私鉄傘下のタクシー会社。電車の運行時間帯を中心に営業。 | 日勤・隔日勤務の運転者 |
4.主な事実発見
8社の事例分析による主な事実発見は、(1)労働時間規制適用に伴う企業の対応、(2)労働時間規制適用後にみられた課題と対応、(3)協力会社との関係の3点にまとめられる。
(1)労働時間規制適用に伴う企業の対応
調査対象企業は、新しい労働時間規制の適用に際し、以下の4つの取り組みを行っている。
①輸送ルートの見直し:物流業A社・B社・C社・D社
輸送ルートの見直しは、全ての物流企業で行われた。輸送ルートの見直しには、荷降ろし先を減らしたり、組み替えたりすることで荷降ろし時間等の削減を行うものと、中継輸送を活用して、1つの便の運行時間等を短縮する対応がある。これにより、1日の拘束時間内に輸送を終えられるようになり、トラック運転者の負担の軽減につながった。
②荷主への要求:物流業A社・B社・D社
この取り組みは物流業A社、B社、D社で行われた。取引関係を考えれば、業務委託を受ける企業は、荷主に対して要求をするのは困難だと考えられる。しかし、物流業3社は、労働時間規制を遵守するために、荷主に対して待機時間の削減やダイヤの見直しを求め、それを実現した。
③応援体制の整備:物流業C社s支店
物流業C社s支店の収集エリアには、集配先の多い住宅地や集配先間の距離の長い山間地があり、それらのエリアの集配時間が長くなる傾向がある。s支店は、各エリアの集配状況を可視化し、作業が終わったエリアからの応援を行えるようにした。これにより、s支店の運転者全体の残業時間の削減と平準化につながった。
④休憩所の確保と整備:物流業C社s支店
物流業C社s支店は、労働時間規制に基づく休憩時間を確保するために、各エリアに休憩所を設置している。しかし、休憩所の整備状況は一律ではないことから、全ての運転者が安全で安心して休憩が取れる状況にはない。それゆえ、C社s支店は、C社労組s支部の要求を受けて、休憩所の整備に取り組んでいる。
(2)労働時間規制適用後にみられた課題と対応
調査対象企業は、改善基準告示で定められたルールを遵守しようとしていたが、その際に、図表6に示したように、課題発生の可能性を含め、6つの課題がみられた。
①連続運転時間に関わる課題:物流業B社・C社・D社
連続運転時間については、「連続運転時間は4時間以内、運転の中断は合計30分以上」というルールが定められている。この課題が発生した背景には、道路渋滞や天候不良がある。ただし、天候不良は予期しえない事象に該当すると考えられ、それへの対応時間は連続運転時間から除くことができる。また、連続運転時間を超過するケースは稀に発生する程度であることから、連続運転時間に関わる課題は深刻なものにはなっていない。
②36協定で定めた時間外労働の時間数に関わる課題:バス会社F社
この問題は、深刻な人手不足を抱えるバス会社F社で発生した。バス会社は、ダイヤを運輸局に提出しており、ダイヤに定められた運行を行わなくてはならない。バスの欠便を出さないため、F社は運転者に残業を要請せざるを得ない状況に置かれている。しかし、F社は、運転者の絶対数が足りていないため、最終的には多くの運転者が36協定に定められた残業時間を超過してしまった。F社労組は、会社に運転者の増員を要求し、同社は採用に力を入れているものの、応募者は少なく、人手不足は解消されていない。
③1日の拘束時間に関わる課題:物流業A社・B社
1日の拘束時間は、「隔日勤務[注2]のタクシー運転者以外は、原則13時間以内」とされている。1日の拘束時間の超過が発生したのが物流業A社とB社である。
物流業A社では、集荷の遅れが配送までの運行スケジュール全体に影響を及ぼすことで、1日の拘束時間の超過が発生する。A社は、課題が発生するルートを特定し、月1回の労使協議で対応策を検討している。物流業B社では、繁忙期に物量が増加したことで、1日の拘束時間超過が発生した。B社は、荷主に対して、待機時間の削減への対応を要求する等の対応を行った。
④1ヵ月の拘束時間に関わる課題:タクシー会社G社
1ヵ月の拘束時間は、「トラック運転者は原則284時間以内、バス運転者は原則281時間以内、タクシー運転者については、日勤が288時間以内、隔日勤務は262時間以内」となっている。タクシー会社G社では、1ヵ月の拘束時間に関わる課題発生の可能性が指摘された。
タクシー会社G社の日勤の運転者のシフトには、昼間勤務と夜間勤務があり、2人の運転者が1台のタクシーで営業を行う。G社m営業所では、夜間勤務の運転者が帰庫時間を守れていない可能性が指摘された。G社労組m支部は、定期的に営業所の責任者と話し、労働時間の確認を行っている。
⑤休息期間の時間確保に関わる課題:バス会社E社
休息期間は、勤務と勤務の間の時間であり、「タクシーの隔日勤務を除く運転者は、連続で11時間の休息期間の確保に努めることが基本とされ、9時間を下回らない」こととされた。休息期間は最低9時間確保しなくてはならないが、この課題が発生しそうになったのがバス会社E社である。
バス会社E社のバス運転者は、積極的に残業を引き受ける人と極力残業をしたくない人に分かれており、特定の運転者に残業が集中する傾向がある。2024年4月以降、休息期間の時間は9時間となったため、以前と同じように残業を引き受けてしまうと、休息期間の時間の確保が困難になってしまう状況にある。ただし、調査時点では、E社で休息期間の時間を確保できないという事態は発生していなかった。
⑥休日の時間確保に関わる課題:タクシー会社H社
休日は、休息期間の時間(最低9時間)に24時間を足し合わせた時間になる。したがって、休日の時間は33時間を下回ってはならないことになる。この課題が発生したのは、タクシー会社H社である。
H社では、もともと休日の時間の確保ができていなかった時期があり、その際にH社労組が会社に対応を求めて解決した経緯がある。2024年4月より、休息期間の時間が1時間延びたことで、再びその問題が発生したが、今回もH社労組が会社に対応を求めて解決した。
図表6 労働時間規制を適用した際に発生した課題と原因
| 企業 | 発生した課題 | 原因 |
|---|---|---|
| 物流業A社 | 1日の拘束時間に関わる課題が発生した。 | 荷物量の予測が困難であり、物量が増えると、運行に遅れが出る。 |
| 物流業B社 | 連続運転時間と1日の拘束時間に関わる課題が発生した。 | 天候不良や繁忙期の物量の増加による。 |
| 物流業C社(s支店) | 連続運転時間に関わる課題が発生した。 | 渋滞等による。 |
| 物流業D社(n支社) | 連続運転時間に関わる課題が発生した。 | 降雪による大渋滞が発生したため。 |
| バス会社E社 | 残業を担当する運転者の休息期間の時間確保が困難になりつつあるという課題が指摘された。 | 運転者不足のため。 |
| バス会社F社 | 36協定に定めた残業時間(月70時間)に関わる課題が発生した。 | 運転者不足のため。 |
| タクシー会社G社(m営業所) | 日勤(夜勤担当)の運転者で、1ヵ月あたりの拘束時間に関わる課題が発生した可能性があることが指摘された。 | 売上を優先する運転者が帰庫時間を守らないことがあるため。 |
| タクシー会社H社 | 日勤の交替勤務の運転者で、休日の時間の確保に関わる課題が発生した。 | 休日の時間が1時間延びたことにより、休日の時間確保の対応が必要になった。 |
注1.連続運転時間に関わる課題は稀に発生する程度である。
注2.上記の課題には、発生する可能性のあるものも含まれる。
(3)協力会社との関係
自動車運転者が働く業界のうち、物流業の特徴は下請け構造にある。一般的にいえば、下請け企業であるほど、企業経営は厳しく、当該企業で働く労働者の労働条件や労働環境は劣悪になりやすくなる。しかし、下請け企業は業務発注がなくなることを恐れ、委託元に対して、条件の見直し等を要求しづらいことが考えられる。
調査対象企業と協力会社の関係をみると、物流業各社は、協力会社に対して、無理な運行をさせないよう配慮したり、運賃単価の見直しの要求に応じたりしている。その背景には、協力会社から委託しているルートを返上されたりすると、自社の事業を継続するのが困難になってしまうからだと考えられる。
5.おわりに
最後に、8社の事例分析を基に、新しい労働時間規制への対応に関わる課題を整理し、結びとしたい。
(1)労働時間規制を遵守する際に発生した課題
調査対象企業は、労働時間規制を遵守しようと取り組んでいるが、いくつか課題が発生した。その課題には、ある程度、共通点がみられる。物流業では、連続運転時間に関わる課題と1日の拘束時間の課題など、1日の運行に関わる課題がみられた。バス会社では、深刻な人手不足から、36協定で定めた残業時間の超過が発生したり、休息期間の時間確保の課題が指摘されたりした。タクシー会社では、1ヵ月の拘束時間超過の可能性が指摘されたり、休日の時間確保の課題が発生したりした。業種によって、ある程度、課題に共通点がみられるということは、業種別の対応が有効だと考えられる。
(2)労働時間規制の効果と課題
調査対象企業の取り組みをみる限り、労働時間規制を遵守するために、企業は事業を見直したり、発生した課題に対して、労使で対応したりしている。つまり、労働時間規制の強化は、経営面の効率化を促したり、労働者が働く環境の整備につながったりする側面がある。これらは労働時間規制の効果といえる。
その一方で、課題もみられた。決められた時間で仕事を終えられるよう、仕事を区切ることによって労働密度が高まった結果、労働者への負荷が強まったり(物流業C社s支店)、一定の時間の運行に対して、休憩を取ることが義務付けられているため、運行全体の効率性が損なわれたりした(物流業D社n支社)。
(3)労働時間規制を遵守するうえでの障害
自動車運転者が働く職場には、他産業に比べると、労働時間が長い一方で、賃金が低いという課題があり、それが慢性的な人手不足をもたらしていると指摘されてきた。それが顕著にみられたのが、バス会社F社である。同社では、人手不足であるにもかかわらず、バスの欠便を出せないため、運転者に残業を要請した結果、長時間労働が常態化していた。この背景には、労働条件の課題が人手不足を招き、それが労働時間規制遵守の妨げになるという構造がある。この構造は、程度の差こそあれ、自動車運転者が働く職場に共通しており、これが自動車運転者の労働時間の適正化の障害となっていると考えられる。
この構造を改善するには、どうしたらよいだろうか。その対応の1つは、労働条件を改善することである。労働条件を改善することで、採用応募者を増やし、また、残業をしなくても済む賃金水準に引き上げる必要がある。
ただし、そのためには、一定の原資が必要になる。この原資をどう確保するかが課題となる。現状では、企業にその対応が求められているが、それだけでは限界がある。そこで、自動車運転者を対象とした処遇改善事業を行ったり、顧客や荷主の理解を促して、適正な運賃単価や料金に引き上げたりすることが考えられる。
脚注
注1 改善基準告示とは、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」であり、自動車運転者の長時間労働を防ぐためのものである。詳しい内容については、下記を参照のこと。
自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)|厚生労働省
(アクセス日は2026年3月4日)
注2 隔日勤務とは、1回の勤務で2日分の仕事をする働き方のことである。


