JILPTリサーチアイ 第88回
JILPT定点観測調査「第8回 勤労生活に関する調査」結果より

著者写真

リサーチフェロー 郡司 正人

2025年7月25日(金曜)掲載

Ⅰ.はじめに

労働政策研究・研修機構では、勤労者の意識の多様な側面について明らかにするため、1999年から定点観測意識調査「勤労生活に関する調査」を実施している。本稿では直近の2021年調査の結果から、いわゆる「日本型雇用慣行」とともに、職業キャリア形成や目指すべき日本社会のあり方について、終身雇用、年功賃金、組織との一体感に関する意識、一社でのキャリア形成と複数企業でのキャリア形成、平等社会と競争社会、といった切り口から、勤労者の意識を紹介する。

同調査は、1999年、2000年、2001年、2004年、2007年、2011年、2015年の調査に続いて、直近の2021年調査で8回目となり、勤労者意識の変遷をたどることができる。調査方法は、調査員による訪問留置調査。調査対象は、「住民基本台帳」から層化二段系統抽出した、全国20歳以上の男女4,000人で、2,388人の回答を得ている(有効回収率59.7%)。

Ⅱ.「終身雇用」「年功賃金」「組織との一体感」に関する意識

日本型雇用慣行を構成する3大要素である「終身雇用」(1つの企業に「定年」まで勤める長期雇用)、「年功賃金」(勤続年数とともに給与が増えていく賃金制度)、「組織との一体感」(会社や職場との一体感を持つこと)について、それぞれの支持割合(「良いことだと思う」「どちらかといえば良いことだと思う」の合計、以下同じ)の推移をみてみよう。「終身雇用」を支持する割合は、調査初回の1999年に72.3%と7割を超えており、2007年には86.1%と8割を超え、前回調査(2015年)に87.9%と9割近くに達したが、ここをピークに直近の2021年調査では82.0%と5ポイント以上ダウンした。「組織との一体感」については、「終身雇用」と同様に調査開始以来、上昇を続け、前回調査では88.9%と約9割の支持率を示したものの、これをピークに2021年調査では87.2%とダウン。ただし、下げ幅は1.7ポイントと大きくない。賃金に関する項目でも、「年功賃金」を支持する割合が、調査開始以来一貫して上昇傾向を示していたが、前回調査の76.3%をピークに2021年調査では、70.4%と5.9ポイントダウンしている。調査開始以来、上昇傾向を示していた、いわゆる日本型雇用慣行をあらわす項目に対する支持割合が一転して下落している(図表1)。

図表1 日本型雇用慣行の支持割合

図表1 折れ線グラフ

Ⅲ.「終身雇用」への支持(年齢階層別の推移)

「終身雇用」を支持する割合について、年齢階層別に詳しくみると、20歳代の75.1%から70歳以上の88.5%まで、年齢階層に比例して支持割合が高くなっている。前回調査(2015年)では、すべての年齢階層で「終身雇用」の支持割合が9割に迫る高さで、年齢による差が見られなかったが、2021年調査では年齢階層による差が広がっている。時系列に年齢階層別の割合をみると、2004年調査までは、年代が上がるに従って、「終身雇用」を支持する割合が高まる傾向がはっきりしていたが、2007年調査で、20歳代、30歳代の若年層で「終身雇用」を支持する割合がともに10ポイント以上伸びて、すべての階層で8割を超え、年齢階層別の差は急激に小さくなった。前回調査(2015年)では、さらに年齢階層別の差が縮まったが、2021年調査では年齢階層による支持割合の違いがはっきりと出ており、年齢階層が高くなるほど支持割合も高くなっている(図表2)。

図表2 「終身雇用」を支持する割合

調査年 1999年 2000年 2001年 2004年 2007年 2011年 2015年 2021年
全体 72.3 77.5 76.1 78.0 86.1 87.5 87.9 82.0
男性 71.2 75.8 74.7 77.2 86.3 87.4 87.0 81.3
女性 73.3 78.8 77.4 78.8 85.9 87.5 88.6 82.7
20-29歳 67.0 73.5 64.0 65.3 81.1 84.6 87.3 75.1
30-39歳 69.1 72.0 72.6 72.1 85.9 86.4 88.4 78.0
40-49歳 70.8 77.3 74.6 76.9 86.5 87.8 88.6 78.5
50-59歳 71.0 77.1 78.9 80.0 86.0 85.2 88.1 81.3
60-69歳 75.4 80.1 78.4 82.6 86.5 89.8 88.1 84.1
70歳以上 83.2 84.0 85.0 85.4 87.7 88.7 87.1 88.5

Ⅳ.「年功賃金」への支持(年齢階層別の推移)

「年功賃金」を支持する割合について、年齢階層別の詳細をみると、20歳~59歳の現役世代で6割台、60歳以上の高齢層で7割台と、いずれも高水準となっている。しかし、前回調査(2015年)と比べると、どの年齢階でも、軒並み支持割合がダウンしており、とくに40歳代、50歳代でそれぞれ10.0ポイント、7.0ポイントと大きくダウンしているのが目立つ。調査開始以来の時系列でみると、「終身雇用」と同様に、2004年調査までは、年代が上がるに従ってはっきりと「年功賃金」の支持割合が高まっていたが、2007年調査で、20歳代の支持割合が約20ポイントと大きく伸び、また2011年調査では、30歳代で約10ポイント伸びて、年齢階層の差が急激に小さくなっていた(図表3)。

図表3 「年功賃金」を支持する割合

調査年 1999年 2000年 2001年 2004年 2007年 2011年 2015年 2021年
全体 60.8 61.8 62.3 66.7 71.9 74.5 76.3 70.4
男性 58.5 58.4 59.8 65.3 73.3 74.6 74.7 69.7
女性 62.8 64.7 64.4 68.0 70.8 74.4 77.7 71.0
20-29歳 56.2 54.5 54.1 56.1 75.5 74.5 72.6 69.1
30-39歳 56.8 57.7 55.8 62.3 63.8 73.1 72.8 66.5
40-49歳 55.3 58.2 61.5 66.4 68.2 70.2 73.7 63.7
50-59歳 60.2 61.3 61.8 67.4 72.0 73.0 76.2 69.2
60-69歳 66.9 67.9 67.4 69.5 72.4 75.5 75.7 72.3
70歳以上 73.0 70.1 72.0 74.5 79.1 80.2 82.1 77.4

Ⅴ.「組織との一体感」への支持(年齢階層別の推移)

「組織との一体感」の支持割合は、2021年調査では年齢階層による違いがあまりみられないが、2007年調査以降もっとも高い支持割合を示していた20歳代が最下位になっているのが特徴的。前回調査(2015年)で、支持率が90%を超えていた20歳代~50歳代の現役世代が軒並みダウンしているのが目立つ。時系列にみると、調査開始以来一貫して、70歳以上の高齢者で「組織との一体感」を支持する割合が他の年齢階層より低いほかは、年齢階層による違いは今まであまりみられなかった。しかし、2004年調査と比べて、2007年調査から20歳代、30歳代で「組織との一体感」を支持する割合が大きく10ポイント以上伸びて、現役世代全般の支持割合が高くなり、2011年調査、2015年調査でも同様の傾向となっていた。男女別にみると、調査開始以来、男性の支持割合が女性を上回っているのが目立ち、男性の会社等への帰属意識の高さがうかがわれる結果となっている(図表4)。

図表4 「組織との一体感」を支持する割合

調査年 1999年 2000年 2001年 2004年 2007年 2011年 2015年 2021年
全体 74.6 76.9 79.1 77.8 84.3 88.1 88.9 87.2
男性 81.0 82.6 85.1 82.9 89.8 90.8 91.3 90.2
女性 69.1 72.2 73.9 73.2 80.0 85.9 87.0 84.4
20-29歳 79.2 80.2 84.5 75.3 92.3 93.6 94.3 85.4
30-39歳 79.1 80.3 81.2 78.9 91.1 93.6 92.0 86.0
40-49歳 73.5 76.0 77.1 82.1 89.9 92.9 91.8 87.8
50-59歳 73.1 76.6 79.1 76.1 81.3 85.2 92.7 88.8
60-69歳 73.7 77.3 79.9 80.3 82.1 85.5 86.6 87.5
70歳以上 69.1 70.9 73.4 72.6 75.9 82.1 83.1 86.6

Ⅵ.キャリア形成についての意識

日本型雇用慣行で通常想定されるキャリア形成のあり方は、一つの企業に「定年」まで長期に勤めることで、技能を蓄積していくタイプだ。望ましい職業キャリア形成のあり方を問う設問では、「一企業キャリア」とする回答割合が1999年の調査開始以来、一貫して高く、ゆるやかな上昇傾向を示し、前回調査(2015年)では50.9%と過半数を占めたが、2021年調査では36.6%と大きく下落しているのが特徴的。一方、「複数企業キャリア」を選択した割合は32.4%となっており、1999年からほぼ横ばいで推移していたが、2021年調査で9.3ポイントアップと「一企業キャリア」に迫るのびを示している。自分で事業を行う「独立自営キャリア」を支持する割合は調査開始以来、ゆるやかに下降傾向を示しており、2021年調査では9.5%と1割を切っている(図表5)。

図表5 望ましいキャリア形成

図表5 折れ線グラフ

「一企業キャリア」を選択した割合について、年齢階層別に時系列でみると、2007年調査までは、若年層よりも50歳代~70歳以上の中高年層の支持割合が若干高い傾向がみられたが、2011年調査で、20歳代の「一企業キャリア」支持割合が10ポイント以上と急激に伸び、年齢階層による違いが小さくなっていた。しかし、2021年調査では、どの年齢階層も軒並み大幅ダウン(10~20ポイント)。とくに、現役世代(20~50歳代)の下げ幅が大きい(図表6)。

図表6 望ましいキャリア形成に「一企業キャリア」を選択した割合

調査年 1999年 2000年 2001年 2004年 2007年 2011年 2015年 2021年
全体 40.5 44.6 40.5 42.9 49.0 50.3 50.9 36.6
男性 39.6 45.8 41.4 41.8 51.1 51.6 50.3 38.4
女性 41.3 43.6 39.7 44.0 47.4 49.1 51.4 34.9
20-29歳 36.6 44.1 38.9 33.9 40.3 51.1 54.8 38.6
30-39歳 42.6 40.1 34.9 41.0 45.1 46.7 49.3 34.7
40-49歳 38.7 40.6 37.2 36.6 50.9 48.0 53.1 30.0
50-59歳 40.1 41.6 40.4 45.2 48.9 49.7 48.2 35.0
60-69歳 42.3 48.9 48.4 45.9 49.6 52.1 50.6 38.5
70歳以上 43.1 53.0 41.8 51.2 53.9 53.4 51.0 41.8

「複数企業キャリア」を選んだ割合は、2007年調査まで、「一企業キャリア」とは逆に、年齢階層が若いほど高い傾向を示している。しかし、2011年調査では、20歳代で「複数企業キャリア」の支持割合が約15ポイントと大きくダウンし、若いほど「複数企業キャリア」志向という色彩が薄まった。2021年調査では、すべての年齢階層で「複数企業キャリア」を支持する割合がアップ(7~10ポイント)しており、現役世代の支持割合が高いのは従来と変わらないが、60歳以上の高齢者層でも支持割合が高くなって、年齢階層による違いがあまり見られなくなっているのが特徴(図表7)。

図表7 望ましいキャリア形成に「複数企業キャリア」を選択した割合

調査年 1999年 2000年 2001年 2004年 2007年 2011年 2015年 2021年
全体 23.9 21.9 26.2 26.1 24.6 24.4 23.1 32.4
男性 24.4 21.5 25.2 25.4 23.5 23.0 24.1 28.9
女性 23.4 22.3 27.1 26.8 25.4 25.6 22.3 35.6
20-29歳 33.5 29.9 36.6 35.4 42.9 28.2 26.8 35.6
30-39歳 31.5 30.4 37.4 35.7 32.8 33.9 27.9 37.3
40-49歳 26.8 27.0 30.3 33.4 28.4 27.6 30.2 39.6
50-59歳 21.3 22.9 22.9 24.4 22.7 28.8 29.6 37.4
60-69歳 18.0 14.9 19.7 20.0 21.8 20.4 19.5 30.4
70歳以上 10.2 7.3 12.7 11.4 11.8 12.2 13.3 20.4

全体的にみて、年齢階層が上がるほど「一企業キャリア」志向の割合が高く、「複数企業キャリア」志向の割合が低くなる調査開始以来の基調は、2011年調査から崩れ始め、2021年調査では、20歳代で「一企業キャリア」を支持する割合が現役世代の中でトップ(38.6%)となる一方、「複数企業キャリア」支持については、20歳代の支持割合(35.6%)が現役世代でもっとも低くなるなど様相が変化している。

Ⅶ.日本が目指すべき社会

日本型雇用慣行に関する意識の背景となる社会のあり方について聞いたところ、これからの日本が目指すべき社会の姿を、「貧富の差の少ない平等社会」とする割合が37.2%で、「意欲や能力に応じ自由に競争できる社会」だとする割合(31.6%)を上回った。調査開始以来の推移をみると、2004年までは「意欲や能力に応じ自由に競争できる社会」を選択する割合が「貧富の差の少ない平等社会」を10ポイントほど上回っていたが、2007年調査で10ポイント以上の差で逆転し、2011年調査では順位はそのままで差が縮まっている。2011年調査からでは、2015年調査、2021年調査とほぼ同じ水準で推移している(図表8)。

図表8 目指すべき社会の姿

図表8 折れ線グラフ

「貧富の差の少ない平等社会」を支持する割合を年齢階層別にみると、20歳代、30歳代、40歳代の若年・壮年の支持率は3割前半(それぞれ、33.5%、32.2%、31.1%)で、中高年・高齢者の50歳代、60歳代、70歳以上の支持率は4割程度(それぞれ、38.5%、38.0%、44.3%)となっており、年齢階層による違いがみられる。時系列でみても、水準の変動はあるが、若年・壮年層と中高年・高齢者に違いがみられる傾向に変わりはない。これを、男女別でみると、男性で「平等社会」を支持する人は32.7%で、女性では41.5%となっており、性別による考え方の違いが大きいことが分かる(図表9)。

図表9 「平等社会」を支持する割合

調査年 1999年 2000年 2001年 2004年 2007年 2011年 2015年 2021年
全体 32.5 31.0 29.0 30.6 43.2 38.6 38.1 37.2
男性 26.9 25.9 24.7 27.4 41.8 34.7 34.0 32.7
女性 37.3 35.1 32.7 33.5 44.4 41.8 41.5 41.5
20-29歳 26.0 27.8 24.8 23.2 38.3 31.9 29.3 33.5
30-39歳 29.1 25.8 24.7 25.1 38.8 35.0 29.3 32.2
40-49歳 30.8 27.3 28.3 32.5 38.7 34.6 32.4 31.1
50-59歳 33.3 32.7 32.8 30.7 44.2 43.1 37.2 38.5
60-69歳 36.7 35.5 31.1 32.6 48.2 41.1 43.5 38.0
70歳以上 39.8 35.4 29.4 36.9 46.1 41.2 45.6 44.3

「意欲や能力に応じ自由に競争できる社会」を支持する割合を年齢階層別にみると、ほぼ年齢階層が若いほど、支持割合が高くなっており、20歳代では40.8%と約4割が支持している。時系列的にみても、おおむねこの傾向を示している。男女の支持率の違いが大きく、男性で「競争社会」を支持するのは36.9%と高い水準で、女性の支持割合の26.6%を大きく上回っている(図表10)。

図表10 「自由競争社会」を支持する割合

調査年 1999年 2000年 2001年 2004年 2007年 2011年 2015年 2021年
全体 40.9 40.1 40.9 42.3 31.1 34.1 33.7 31.6
男性 50.0 48.8 49.8 50.6 37.4 41.7 39.9 36.9
女性 32.9 33.0 33.3 34.8 26.1 27.7 28.6 26.6
20-29歳 50.1 43.9 49.8 50.2 43.9 48.9 51.0 40.8
30-39歳 43.7 48.7 45.1 49.0 34.5 39.7 46.7 39.4
40-49歳 47.3 44.1 42.4 42.5 35.0 33.9 35.5 35.4
50-59歳 42.6 41.8 40.4 43.3 29.6 31.4 32.0 28.0
60-69歳 33.5 33.7 39.3 40.8 28.6 31.9 29.5 27.1
70歳以上 23.0 29.1 28.8 30.1 23.6 28.0 24.7 27.8

Ⅷ.まとめに代えて

いわゆる「日本型雇用慣行」とともに、職業キャリア形成や目指すべき日本社会のあり方に関する勤労者の意識の推移について、それぞれ「終身雇用、年功賃金、組織との一体感」「一社でのキャリア形成と複数企業でのキャリア形成」「平等社会と競争社会」をキーワードに、定点観測調査の結果を紹介してきた。

これらに共通しているのは、いずれの意識についても2007年調査で大きく変化していることだ。この時期は、バブル経済崩壊後の景気低迷に加えて、米国発のサブプライムローン問題からリーマンブラザース倒産などへと続く世界金融危機にあたる。これらの状況を背景に、2007年調査から、従来は他の年齢階層に比べて非伝統的な意識を持つ割合が高い若年層で、伝統的な「日本型雇用慣行」「一社でのキャリア形成」「平等社会」を支持する割合が大きく伸びたことで、全体的に日本型雇用慣行など伝統的な考え方を支持する割合が高くなり、年齢階層の差が少なくなっていた。

今回の2021年調査では、伝統的な意識が優勢なトレンドは変わらないものの、若年層はやや非伝統的価値を支持する方向に振れ、年齢階層による違いが見えるようになった。雇用を巡る状況は、景気に関わりなく、AIなどの新しいテクノロジーや労働市場の流動的な変化などから、不安定化することが予測されている。また、現実として、職務給によるジョブ型雇用を導入する企業が出現するなど、確実に日本型雇用慣行は崩れ始めている。しかし、こうした変化に対する不安が強く感じられる限り、伝統的価値観を支持する割合は、今しばらく、年長者を中心に高い水準を示すだろう。

GET Adobe Acrobat Reader新しいウィンドウ PDF形式のファイルをご覧になるためにはAdobe Acrobat Readerが必要です。バナーのリンク先から最新版をダウンロードしてご利用ください(無償)。