JILPTリサーチアイ 第63回
コロナ離職と収入低下

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雇用構造と政策部門 主任研究員 高橋 康二

2021年5月27日(木曜)掲載

1 はじめに

本稿では、新型コロナウイルス感染拡大にともなう勤務先の離職(コロナ離職)がどのような帰結をもたらすのか、不利な帰結をもたらすとしたら、それはなぜなのかを検討する。結論として、コロナ離職者は転職・再就職後に収入が低下する確率が高いことが明らかになる。また、その理由として、会社都合離職率の高さ、転職・再就職の過程での産業間移動率の高さが関係していることが示される。

コロナ感染拡大後の労働者の離職と再就職の状況については、高橋(2021)が明らかにしている。そこでは、若年者や非正社員が離職しやすいことや、失業・無業状態を経て再就職した場合には6割以上が収入の低下に直面していることなどが示されている。

しかし、離職や再就職は、コロナ禍とかかわりなく日常的に起きている。それゆえ、上記の状況がコロナ禍における離職や再就職に特有のものであるかは分からない。そこで本稿では、サンプルサイズが僅少になることを承知の上で、コロナ感染拡大後の離職を、コロナ離職と一般の離職とに弁別し、比較することで、コロナ離職の特徴を明らかにすることを試みる。

使用するデータは、JILPTが実施したパネル調査「新型コロナウイルス感染拡大の仕事や生活への影響に関する調査」の第1回~第4回調査である。一連の調査は、連合総研の「第39回勤労者短観」(2020年4月)を前段調査として、5月、8月、12月、2021年3月に同一個人を追跡しつつ実施されている。調査対象は2020年4月1日時点の民間企業労働者とフリーランスに分けられるが、本稿で分析対象とする民間企業労働者について言えば、インターネット調査会社のモニターから、「就業構造基本調査」をもとに性別×年齢層×居住地域ブロック×正社員・非正社員(180セル)別に層化割付回収をした形となっている[注1]

本稿の分析対象は、2020年4月1日時点の民間企業労働者で、前段調査および第1回~第4回調査のすべてに回答している2,501名である。なお、そのうち2020年4月から2021年3月(第4回調査時点)までに離職を経験しているのは310名であり、さらにそのうち雇用労働者として再就職しているのは249名である。

2 コロナ離職者の定義・捕捉

本稿では、コロナ離職者を新型コロナウイルス感染拡大にともなって勤務先を離職した者と定義し、次のように捕捉した。

第1に、「定着者」と「離職者」を弁別した。具体的には、第4回調査では2020年4月以降のキャリアをたずねており、そこにおいて「離職も退職も、全く経験していないで働いている」と回答した者を「定着者」とし、それ以外の者を「離職者」とした[注2]

第2に、「離職者」を「一般離職者」と「コロナ離職者」に弁別した。第4回調査では、「新型コロナウイルス感染症に関連して、あなたの雇用や収入に関わる影響」がどの程度あったかをたずねており、そこにおいて多少なりとも影響があったと回答した者に対し、影響の具体的内容をたずねている。本稿では、「離職者」のうち、影響の具体的内容として「会社からの解雇」、「期間満了に伴う雇い止め」、「勤め先の休廃業・倒産に伴う失業」、「自発的な退職」のいずれかを挙げた者を「コロナ離職者」とし、それ以外の者を「一般離職者」とした。言わば、「離職者」のなかから、コロナ感染拡大にともなって勤務先を離職したことが明白である者を切り出した形である。

そのようにして定義・捕捉された定着者、一般離職者、コロナ離職者の割合は、それぞれ87.6%、9.3%、3.1%である(図1)。コロナ離職者は、離職者全体の4分の1程度であることが分かる。

図1 コロナ禍における定着/離職の状況(%、N=2501)

図1グラフ

注:分析対象は、2020年4月1日時点の民間企業労働者。表1、表2においても同じ。

3 誰がコロナ離職をしているのか

それでは、どのような労働者がコロナ離職をしているのだろうか。まず、表1から、定着者、一般離職者、コロナ離職者のプロフィールを比較したい。なお、雇用形態、産業、職業、企業規模は2020年4月時点のものを指している。

ここから、コロナ離職者には、女性が多いこと、34歳以下、35~49歳の者が多いこと、非正社員が多いこと、飲食店、宿泊業、サービス業勤務者が多いこと、管理職、生産技能職に従事していた者が少なく、事務職、サービス職に従事していた者が多いことが分かる。

なお、非正社員はもともと(=コロナの影響の有無にかかわらず)離職をしやすいためか、コロナ離職者より一般離職者の方が非正社員割合が高くなっている点に注意が必要である。

表1 コロナ離職者のプロフィール(%)

表1 画像

注:雇用形態、産業、職業、企業規模は、2020年4月時点のもの。

次に、上記のプロフィールを説明変数として、どのような労働者がコロナ離職をしやすいのかを、「定着者」をベースカテゴリーとした多項ロジスティック回帰分析により明らかにする(表2)。

ここから、非正社員、飲食店、宿泊業勤務者はコロナ離職をしやすく、管理職、生産技能職従事者はコロナ離職をしにくいことが分かる。他方、一般離職者となりやすいのは、若年者、生計維持者[注3]、非正社員、飲食店、宿泊業、医療、福祉勤務者、小企業勤務者、企業規模が「わからない」と回答した者である。

表2 コロナ離職の規定要因(多項ロジスティック回帰分析)

表2 画像

注1:**:p<0.01、*:p<0.05、†:p<0.1。(ref. )はレファレンス・グループ。

注2:ベースカテゴリーは、「定着者」。

注3:雇用形態、産業、職業、企業規模は、2020年4月時点のもの。

4 離職から転職・再就職に至るまで

続いて、一般離職者とコロナ離職者について、離職から転職・再就職に至る過程を比較していきたい。同調査では、先にコロナ離職者を捕捉するために用いた設問とは別に、2020年4月以降の離職経験者に対して、離職の理由をたずねている(図2[注4]。これを見ると、コロナ離職者には、いわゆる会社都合離職者(倒産・廃業・閉鎖、人員整理・雇止め、契約期間の満了)が65.3%(25.6%+39.7%)と多く、一般離職者には自己都合退職者が57.8%と多いことが分かる[注5]。また、一般離職者の場合には、様々な事情を抱えたケースがあるためか、「答えたくない」も14.7%と多くなっている。

図2 離職理由(%)

図2グラフ

注1:分析対象は、2020年4月1日時点の民間企業労働者で、2021年3月までに離職を経験している者。図3、図4においても同じ。

注2:p=0.000。

離職後の状況はどうか。コロナ離職者は一般離職者と比べて、2020年5月以降に失業・無業を経験した割合がやや高くなっているが、統計的に有意な差ではない(図3)。また、2021年3月時点の就業状態を見ると、一般離職者とコロナ離職者とで就業率はほとんど変わらない(図4)。むしろ、コロナ離職者の方がもともとの正社員割合が高いためか、2021年3月時点の正社員割合はコロナ離職者の方がやや高くなっている[注6]

図3 失業・無業経験者の割合(%)

図3グラフ

注:p=0.117。

図4 2021年3月の就業状態(%)

図4グラフ

注:p=0.198。

さらに、調査時点で雇用労働者として働いている一般離職者とコロナ離職者について、雇用形態の移行状況を比較すると、コロナ離職者には正社員から正社員への移行者が多く、一般離職者には非正社員から非正社員への移行者が多いという違いがある(図5)。ちなみに、コロナ離職者には正社員から非正社員への移行者も多いが、非正社員から正社員への移行者も多くなっている。これを見る限り、コロナ離職者の雇用形態の移行状況に特段の問題があるとは言えなさそうである。

図5 雇用形態の移行状況(%)

図5グラフ

注1:分析対象は、2020年4月時点の民間企業労働者で、2021年3月までに離職を経験し、雇用労働者として転職・再就職している者。図6、図7、図8、表3においても同じ。

注2:p=0.085。

このように、離職から転職・再就職に至る過程を比較すると、必ずしも一般離職者に比べてコロナ離職者が不利を蒙っているわけではないように見える。しかし、雇用労働者として転職・再就職した者について、コロナ前と比べた直近の月収の状況をたずねると、コロナ離職者の不利が明らかになる。月収低下者の割合が、一般離職者では34.1%であるのに対し、コロナ離職者では57.8%と明らかに高いのである[注7]図6)。

図6 月収低下者の割合(%)

図6グラフ

注:p=0.001。

5 産業間移動による収入低下

コロナ離職者に月収低下者が多いのはなぜか。考えられる要因のひとつは、コロナ禍は特定の産業を集中的に襲っているため、同一産業内での転職・再就職が難しいということである。図7は、2021年3月時点で雇用労働者として働いている一般離職者とコロナ離職者について、産業間移動者の割合を示したものである[注8]。ここから、コロナ離職者の場合には過半数が産業間移動をしていることが分かる。

そして、産業間移動者には月収低下者が多いことを、図8は示している。具体的には、月収低下者の割合は産業内移動者では32.9%であるのに対し、産業間移動者では53.4%と高くなっている。

図7 産業間移動者の割合(%)

図7グラフ

注:p=0.002。

図8 月収低下者の割合(%)

図8グラフ

注:p=0.002。

それでは、産業間移動は、コロナ離職者の月収低下を本当に説明しているのだろうか。この点を明らかにするため、月収低下を被説明変数、コロナ離職ダミー、(これまでの分析で一般離職者とコロナ離職者との間に差が見られた)離職理由および雇用形態の移行状況[注9]、そして産業間移動ダミーを説明変数として、二項ロジスティック回帰分析を行う。分析対象は、雇用労働者として再就職している249名である。

表3は、その結果を示したものである。まずモデル①から、コロナ離職ダミーは1%水準で有意に月収低下確率を高めていることが分かる。これに対しモデル②から、会社都合離職ダミーをコントロールすると、コロナ離職ダミーの有意水準が5%になることが分かる。コロナ離職における月収低下確率の高さは、コロナ離職者に会社都合離職者が多く含まれていることによって説明されると言える。他方、モデル③で雇用形態の移行状況をコントロールしても、コロナ離職ダミーの係数は大きく変わらない。その上で、モデル④にて産業間移動ダミーを追加投入すると、産業間移動ダミー自体が1%水準で有意となり、コロナ離職ダミーは有意でなくなる。コロナ離職における月収低下確率の高さは、コロナ離職者に産業間移動者が多く含まれていることによっても説明されると言える。

表3 月収低下の規定要因(二項ロジスティック回帰分析)

表3 画像

注:**:p<0.01、*:p<0.05、†:p<0.1。

6 おわりに

コロナ離職者は失業・無業経験率が極端に高いわけでもなく、調査時点での就業率が低いわけでもなかった。雇用形態の移行状況からも、特段の不利は読み取れなかった。しかし、転職・再就職後の月収が低下している割合が顕著に高かった。その要因として、会社都合離職率の高さと、転職・再就職にあたっての産業間移動率の高さが見出せた。

当然ながら、コロナ感染拡大という非常事態において、コロナに関連した離職者には会社都合離職者が多い。そして、会社都合離職の場合には、転職・再就職の準備が不足することが多く、そのことがコロナ離職者の収入低下の一因となっていると考えられる。ここから、コロナ離職者に対して失業給付の水準や期間を手厚くする必要性が導かれる。

その上で、本稿のより重要な発見は、コロナ離職者には転職・再就職にあたり産業間移動をしている者が多く、そのことが収入低下に結びついているということである。コロナ感染拡大は特定の産業に集中的に影響を及ぼしているため、コロナ離職者は同一産業内で転職・再就職先を探すことが難しく、転職・再就職にあたりこれまで培ってきた経験やスキルを十分に活かせない結果を生み、そのことが収入低下の一因となっていると考えられる。

このように考えると、ひとつに、コロナ離職者に対する適切な転職・再就職先の紹介・斡旋、すなわち精度の高いマッチングの必要性が導かれる。そして、いまひとつに、他の産業への出向およびその支援の意義が浮かび上がる。コロナ離職者に産業間移動者が多い事実は、特に今回のコロナ禍のような経済ショック時においては、他の産業への移動が必要となる場合が多いことを示している。他方、産業間移動者に収入低下者が多い事実は、労働市場の自然なメカニズムに任せていると、他の産業への移動者が不利を蒙ることを物語っている。その不利を解消するべく、出向という形態をとり、出向先の開拓や出向後の賃金補填に関して公的な支援を充実させる余地は大きいと考えられる[注10]

参考文献

脚注

注1 調査実施概要の詳細および調査結果の速報は、渡邊(2021)を参照されたい。

注2 正確には、「前の仕事を離職、退職後、再就職(転職・起業)した」、「前の仕事を離職、退職後、現在は求職活動中」、「前の仕事を離職、退職後、再就職しておらず、現在は求職活動もしていない」と回答した者を、「離職者」とした。

注3 生計維持者については、離職はしやすいが、失業・無業を経験せずに(間断なく)転職する傾向にあることが明らかになっている。高橋(2021)を参照。

注4 2回以上離職をしている場合には、「直近の経験」についてたずねている。

注5 定義上、「会社からの解雇」、「期間満了に伴う雇い止め」、「勤め先の休廃業・倒産に伴う失業」、「自発的な退職」のいずれかであるはずのコロナ離職者に「出向、出向元への復帰」が含まれているのは、2回以上離職を経験している者が、コロナ離職でない方の離職理由を回答しているからだと考えられる。また、一般離職者のなかに「自営業・内職の廃業・休止」が含まれているのも、2回目以降の離職理由だと考えられる。

注6 ただし、その差は統計的に有意ではない。

注7 ちなみに、定着者に占める月収低下者の割合は24.7%である。

注8 表1のプロフィールで示した15の産業区分を用い、2020年4月時点と2021年3月時点とで同一産業区分であれば産業内移動、そうでなければ産業間移動とみなした。(ただし、「わからない」から「わからない」への移動は、産業間移動とみなした。)

注9 離職理由については、「勤務先の倒産・廃業・閉鎖」、「勤務先の人員整理・雇止め、契約期間の満了」を合せて「会社都合離職」ダミーを作成した。

注10 この点に関連して厚生労働省では、コロナ禍において雇用維持を図るため、在籍型出向を支援している。具体的には、従前から産業雇用安定センターを通じて出向先の開拓やマッチングあたるとともに、雇用調整助成金により出向元に助成をしてきたことに加え、2021年2月に産業雇用安定助成金を創設し、出向元および出向先に賃金・経費を助成するなどしている。詳細は在籍型出向支援|厚生労働省新しいウィンドウを参照。