JILPTリサーチアイ 第61回
クラウドワーカーは「労働者」か?─連邦労働裁判所2020年12月1日判決

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労使関係部門 副主任研究員(労働法専攻) 山本 陽大

2021年5月7日(金曜)掲載

Ⅰ.はじめに

去る2021年3月31日、筆者は、JILPTより労働政策研究報告書No.209『第四次産業革命と労働法政策─"労働4.0"をめぐるドイツ法の動向からみた日本法の課題』(以下、本報告書)を刊行した。本報告書は、AIやIoT、ビッグデータ等の新たなデジタル技術による産業構造の変化(第四次産業革命)が雇用社会に及ぼす影響とそれに対応するための労働法政策の在り方について、ドイツにおける議論や政策動向(いわゆる"労働4.0")を素材として、特に、職業教育訓練法政策、「柔軟な働き方」をめぐる法政策、「雇用によらない働き方」をめぐる法政策、労働者個人情報保護法政策および集団的労使関係法政策という5つの政策領域を対象に、日本における現状との比較検討を行ったものである。本報告書についてはJILPTのHP上で公表されているので、関心を持っていただいた方は適宜ダウンロードしていただければ、筆者として大変嬉しく思う次第である。

ところで、本報告書においては、上記の通り、検討対象の一つとして「雇用によらない働き方」をめぐる法政策の領域を採り上げている。そこでは特に、近時世界的に拡大を見せているインターネット・プラットフォームを通じた新たな就労形態であるクラウドワーク(Crowdwork)に焦点を当て、現行のドイツ労働法の適用関係とその保護に向けた立法政策上の動向について検討を行ったのであるが、かかる検討における重要論点の一つがクラウドワーカーは現行労働法のもとで「労働者(Arbeitnehmer)」性(民法典611a条)を認められるのかという問題である。周知の通り、他の欧州諸国においては同様の問題についての司法判断が既に下されていたところ[注1]、ドイツでも最近になって連邦労働裁判所(BAG)がこの問題について初めてとなる判断を示した。それが、連邦労働裁判所2020年12月1日判決(以下、本判決)であり、本判決については本報告書のなかでも検討対象として採り上げたところである(第三章第三節1.(2))。

もっとも、本判決の内容については、2020年12月1日の判決言渡しに伴って公表された連邦労働裁判所による記者発表資料[注2]のなかで概要が示されたものの、その全文については長らく公表されてこなかった。そのため、本報告書においてもかかる記者発表資料を素材として検討を行わざるをえなかったのであるが、つい先日、連邦労働裁判所のHP上において本判決の全文[注3]が公表された。そこで、本稿においては、本報告書のフォローアップを兼ねて、かかる全文を素材として、本判決のポイントを紹介することとしたい。

Ⅱ.事案の概要

まずは、事案の概要を確認しておこう。

被告は、顧客から委託を受けて、小売店やガソリンスタンドにおける商品陳列を管理・監督する業務を行うクラウドソーシング企業である。被告は、オンライン・プラットフォーム(以下、本件プラットフォーム)を運営しており、顧客から受託した上記業務をマイクロタスク(商品陳列棚の写真撮影等)へと分解したうえで、かかるマイクロタスクの遂行業務(以下、単にタスク)を、本件プラットフォームを通じてクラウドワーカーへ提供していた。一方、原告は、本件プラットフォームに登録し、クラウドワーカーとして就労していた者である。

原告はかかる就労に先立ち、被告との間で基本合意(Basis-Vereinbarung)を締結しており、そのなかではクラウドワーカーはタスクを引き受けるか否かは自由であり、タスクを引き受ける義務はなく、また被告にもタスクを提供すべき義務はない旨(1条)、クラウドワーカーは働く場所や時間について拘束を受けない旨(同条)、クラウドワーカーはタスクを自身が雇用する者に行わせ、あるいは再委託することも可能である旨(5条)、当事者は基本合意を何時においても解約しうる旨(8条)等が、それぞれ定められていた。

また、被告におけるクラウドワーカーとしての就労は、スマートフォンにダウンロードしたアプリを利用して行われていたところ、かかるアプリの利用規約中においては、タスクの引き受けによりクラウドワーカーと被告との間において契約関係が発生する旨(Ⅱ)、タスク引き受けのためにクラウドワーカーについて開設される利用者アカウントは、他人に譲渡することができず、また一人につき複数のアカウントを開設することはできない旨(Ⅲ.1)、被告とクラウドワーカーとの契約関係は労働関係ではなく、クラウドワーカーは指揮命令を受けない旨(Ⅲ.3)、被告による契約の解約は、E-mailあるいはアカウントの削除により行われる旨(Ⅳ)等が、それぞれ定められていた。

原告は、2017年2月4日以降、被告のクラウドワーカーとしての就労を開始した。その実態についてみるに、まずアプリを起動させると現在地から半径50km圏内において引き受けが可能なタスクが表示される。タスクには、その遂行の場所および時間、ならびに遂行に際して採るべき手順に関する詳細な記述書(Auftragsbeschreibung:以下、タスク記述書)が定められていた。また、かかるタスク記述書には、その間にタスクを遂行すべきタイムスパン(Zeitfenster)も定められており、それは通常は2時間となっていた。更に、被告においては評価システム(Bewertungssystem)が採用されており、それによればクラウドワーカーがタスクを遂行し被告が成果物を受領した場合、当該クラウドワーカーの利用者アカウントには報酬とともに、経験ポイント(Erfahrungspunkte)が付与される。かかるポイントは、クラウドワーカーのレベルを上昇させるものであり、レベルが上がるとより多くの数のタスクを引き受けることが可能なシステムとなっている。例えば、最も高いレベル15になると、15のタスクを同時に引き受けることが可能となる。このような働き方のもと、原告は、後述する被告による本件通知までの11ヶ月の間に2,978件のタスクを遂行しており、就労時間は週平均で20時間に及び、報酬として月平均で1,749.34ユーロを得ていた。

2018年4月10日、被告の経営者は、原告に対し、アカウントを停止・削除する旨の通知(以下、本件通知)を行った。これを受けて、原告は、被告との間で労働関係が成立しているとして、本件通知によってはかかる関係は終了していないことの確認と本件通知後の不就労期間についての報酬支払いを求めて訴えを提起した。これに対して、被告側は、原告は自営業者(selbständiger Unternehmer)であったと主張しつつ、仮に労働関係が成立していた場合に備えて、第一審係属中の2019年6月24日に解雇通知(以下、本件解雇)を行った。

以上の経過のなかで、本件では、原告と被告間に労働関係が成立しており、従って原告は「労働者」であったかが、最大の争点となった。

Ⅲ.判旨

この点について、本件の一審判決[注4]および二審判決[注5]は原告の労働者性を否定し、その請求を棄却したが、上告審において連邦労働裁判所は要旨次のように判断し、原告の労働者性を肯定した[注6]

  1. 労働関係と自営業者との法律関係とを区別するための基礎となる法原則は、2017年4月1日以降は、労働関係の法的定義を定め、それと関連して誰が労働者であるのかを規定する民法典611a条から導かれる。同条1項によれば、労働者とは、労働契約によって、他者のために、人的な従属のもと、指揮命令に拘束され、他者により決定される労働を給付する義務を負う者をいう。これにより、義務を負う者の人的従属性(persönliche Abhängigkeit)の程度(Grad)によって、労働関係は自営業者との法律関係とは区別されることとなる(Rn.29~31)。
  2. 民法典611a条1項3文によれば、自身の職務(Tätigkeit)および労働時間を本質的に自由に構成・決定することができない者は、指揮命令に拘束されている。義務付けられた成果物の履行に関して詳細に記述され裁量の余地を厳しく制約する形で法的に構成された契約およびその履行からも、指揮命令への拘束(Weisungshebundenheit)は生じうる。一方、指揮命令権(Weisungsrecht)は、労働関係以外においても存在しうる。従って、労働法上の指揮命令権と、自営業者との契約関係における指揮命令権とは区別されなければならない。自営業者に対する指示は、典型的にはモノや成果物に向けられているが、労働契約上の指揮命令権は、ヒト、プロセスおよび方法に対して向けられる点に特徴がある(Rn.32~35)。
  3. 相手方(Auftraggeber)が、それによって就労者が継続的に労働タスクを引き受けかつそれを一定のタイムスパンのなかで正確な基準に基づき本人自身が遂行することを(直接的ではなく、間接的に)仕向ける組織的措置を講じている場合には、労働関係が想定される。このような措置に関して、プラットフォームのインセンティブシステム(Anreizsystem)によっても、民法典611a条の意味における人的従属性は生じうる(Rn.36)。
  4. 労働関係が認められるために必要な人的従属性の程度に達しているか否かの判断に際しては、民法典611a条1項4文に基づき、その都度の職務の特性(Eigenart)も考慮しなければならない。副次的で容易な作業の場合には、高度な職務の場合よりも、人的従属性が存在している。就労者が容易な労働給付を義務付けられている場合には、もとよりその構成に関する裁量(構成裁量)はわずかにしか認められない。従って、職務遂行に際しての組織的な基準をわずかに定めることで、就労者がもはやその職務を本質的に自由に構成することができないようにすることができる(Rn.37)。
  5. 民法典611a条1項5項によれば、具体的事案における法律関係の確定については、個々の事案における全ての事情を総合的に考慮しなければならない。必要な総合考慮のなかで、人的従属性を基礎付ける全ての基準に十分な重み(Gewicht)が認められ、またはそれが法律関係を特徴付ける場合に初めて、労働関係の存在を認めることができる(Rn.38)。
  6. 以上の原則に照らせば、上告審としては、州労働裁判所の判決を維持することはできない。民法典611a条1項5文により本件事案における全ての事情を総合的に考慮すれば、原告は実際に契約を遂行するなかで、労働者に典型的な形で、指揮命令に拘束されかつ他者に決定される労働を給付していたことが、明らかとなる。この点について、決定的に重要であるのは、①原告は自身で給付を履行する義務を負っていたこと、②義務付けられたタスク(職務)はその特性において容易なものであり、その遂行について内容的な基準が設定されていたこと、である。加えて、③本件におけるアプリの利用は、タスク提供に際しての他者決定性(Fremdbestimmung)の手段として、特に重要である。(Rn.41・45)
  7. (①について)アプリの利用規約によれば、いかなる者も開設された利用者アカウントの他人への譲渡や、一人で複数のアカウントを開設することはできず(Ⅲ.1)、アカウントの共有(Teilen)は、被告により明確に利用規約違反とみなされていた。そして、タスクはアプリと個々人の利用者アカウントによって遂行しなければならなかったのであるから、クラウドワーカーは、基本合意5条が定めるのとは異なり、引き受けたタスクを第三者に遂行させることはできなかった。むしろ、原告はタスクを自身で履行しなければならなかった。(Rn.46)
  8. (②について)原告が行っていたタスクはその性質において容易なものであり、原告はそれを被告が厳格に定めた基準のもとで遂行しており、自身の職務を本質的に自由に構成することはできなかった。タスクはアプリにより本件プラットフォームを通じて遂行されるが、どのように遂行しかつどのような手順を採るべきかが詳細に定められており、これは単に成果物に関する記述を意味するものではない。これによって、被告は、契約遂行の手段および方法において、ただでさえ少ない構成裁量を完全に排除していた。(Rn.47)
  9. (③について)本件において被告によりアプリを通じて一方的に定められた就労条件は、クラウドワーカーがタスクを経済的に意義があるものとして行おうとする場合には、長期間にわたり定期的にタスクを引き受け、かつあらかじめ詳細に定められた作業プロセスに従ってこれを遂行しなければならないというように設計されていた。ここから職務の他者決定性が生じる。すなわち、本件におけるタスクは、複数こなさなければ利益の出るものではなかったところ、クラウドワーカーが現在地から半径50km圏内において、一つのルート上で複数のタスクを引き受け、それにより移動に要する経費を補填できるだけの時間当たりの報酬額を得ることができるかは、アプリ、なかでも評価システムにおけるレベルに依存している。被告は、このような評価システムのインセンティブ機能を利用することで、クラウドワーカーをして、自身がいつもいる地域において継続的にタスクを遂行するよう仕向けることを狙っていた。(Rn.48~50)

Ⅳ.若干のコメント

本判決のなかで、特に注目されるのは、本件プラットフォームで採られていた評価システムが、クラウドワーカーにとって継続的にタスクを引き受けることのインセンティブとなっていたことを、労働者性(民法典611a条)を肯定する積極的要素として位置付けている点であろう(判旨3および9)。これは、原審であるミュンヘン州労働裁判所が、本件では基本合意(1条)上、クラウドワーカーはタスクを引き受けることを義務付けられてはいなかったことを主な理由として、原告の労働者性を否定していたことと比較すると、対照的な判断を示したものといえる[注7]

この点も含めて、本判決について最も関心を呼ぶところとなるのは、本判決というのは、あくまで従来の労働者性をめぐる判断[注8]の延長線上に位置づけうるものであるのか、それとも、クラウドワークという新たな就労形態の登場に直面し、実質的に判断基準を変容させたのかという点であろう。この点について、ドイツ国内の評価[注9]が出そろうまでには今しばらくの時間を要しようが、いずれにしても、現行労働法下にあって、クラウドワーカーについて労働者性が認められたことの意義は、決して低く見積もられるべきではない。

もっとも、本判決は、あくまで本件事案のもとでの判断であり、クラウドワーカー一般について労働者性を認めたものではないという点には、留意すべきであろう。本件では、上記の評価システムの存在に加え、タスク自体が比較的容易であり、またその遂行に当たって遵守すべき内容的・時間的基準が被告(プラットフォーム)側によって詳細に設定されていたという事情もあった(判旨4および8)。しかし、現実のクラウドワークは多種多様であり、タスク自体が高度なものであって、その遂行に際しワーカー側に幅広い裁量が認められているものもあれば、本件のような評価システムが採られていないケースもありうる。従って、今後、本件とは異なる事案において、どこまで労働者性が肯定されるかはなお未知数といえよう。

一方、現在、連邦労働社会省(BMAS)においては、自営業者としてのクラウド(プラットフォーム)ワーカーの法的保護に向けた政策的議論が、積極的に展開されている[注10]。かくして、クラウドワークの問題をめぐっては、司法と立法政策両面での動向に引き続き注目する必要があろう。

脚注

注1 フランスおよびイギリスにおいては近時Uber運転手等のプラットフォーム型就労者の労働者性について司法判断が示されている。フランスについては、細川良「第3章 フランス」労働政策研究報告書No.207『雇用類似の働き方に関する諸外国の労働政策の動向─独・仏・英・米調査から─』(労働政策研究・研修機構、2021年)86頁以下、鈴木俊晴=小林大祐「第6章 フランスにおけるクラウドワークについての法的状況」『クラウドワークの進展と社会法の近未来』(労働開発研究会、2021年)134頁以下、イギリスについては滝原啓允「第7章 イギリスにおけるクラウドワークとそれに係る法的課題─Uber型を念頭としたイギリス労働(雇用)法上の議論とその焦点」『クラウドワークの進展と社会法の近未来』(労働開発研究会、2021年)153頁以下を参照。

注2 Bundesarbeitsgericht-Pressmitteilung Nr.43/20new window. かかる記者発表資料に基づいて本判決の要旨について検討を行った先行研究として、後藤究「第5章 ドイツにおけるクラウドワークをめぐる議論動向」『クラウドワークの進展と社会法の近未来』(労働開発研究会、2021年)94頁以下がある。

注3 BAG Urt. v. 1.12.2020 - 9 AZR 102/20new window.

注4 AG München Urt. v. 20.2.2019 - 19 Ca 6915/18.

注5 LAG München Urt. v. 4.12.2019 - 8 Sa 146/19. かかる二審判決について検討したものとして、鎌田耕一=芦野訓和「第2章 ドイツ」労働政策研究報告書No.207『雇用類似の働き方に関する諸外国の労働政策の動向─独・仏・英・米調査から─』(労働政策研究・研修機構、2021年)49-50頁、井川志郎=後藤究「プラットフォームワークにかかるIGメタルの取り組み」季刊労働法272号(2021年)74頁以下、後藤・前掲注(2)論文93-94頁がある。

注6 なお、結論として、本判決は、原告および被告間には労働関係が成立していたとの判断を前提に、2018年4月10日の本件通知は、Eメールにより行われたものであったため、解雇に書面性を求める民法典623条に反し無効と判断しつつ、2019年6月24日に被告が行った本件解雇によって、解雇予告期間満了時点である同年7月31日をもって上記労働関係は有効に終了していることを認めた。そのうえで、本判決は、原告の不就労期間中における報酬請求権の額について判断させるために、事件を州労働裁判所へ差し戻している。

注7 この点に関連して、本判決は、原告-被告間で締結された基本合意を労働契約と評価したわけではない。原審であるミュンヘン州労働裁判所はかかる基本合意の労働契約該当性を否定していたのであるが、本判決はこの点は正当と認めつつ(Rn.42)、原告の長期的・継続的なタスク処理の実態からみて、期間の定めのない労働関係があることについて被告との間で意思の合致があったと判断している(Rn.52~54)。

注8 ドイツにおける労働者性判断(労働者概念)に関する近時の詳細な研究として、橋本陽子『労働者の基本概念─労働者性の判断要素と判断方法』(弘文堂、2021年)110頁以下がある。

注9 なお、後藤・前掲注(2)論文96-97頁によれば、原審であるミュンヘン州労働裁判所判決に対するコメント・評釈のなかでは、同判決を妥当とするものが多くみられたとされる。

注10 この点については、本報告書88頁以下のほか、後藤・前掲注(2)論文110頁以下も参照。