JILPTリサーチアイ 第10回
転職市場での人材ビジネスの発展とジレンマ

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キャリア支援部門 統括研究員 亀島 哲

2015年6月18日(木曜)掲載

政策課題である失業なき労働移動の実現において、人材ビジネスの果たす役割が一層期待されるようになっている。しかし、意外にも、転職市場での人材ビジネスの現状についてはあまり知られていない。

ここでは、自然界さながらに、「生存競争」と「共生」、「棲み分け」を行いつつ発展する人材ビジネスの構図とその一方で抱えるジレンマの一端を紹介する[注1]

転職市場での求人情報事業の果たす役割の拡大

転職市場を入職経路から見ると、求人広告(求人情報)、ハローワーク、縁故によるものが全体の約8割を占めており、これらに対して、民営職業紹介事業のシェアは比較的小さい。

入職企業規模別に見ていくと、企業規模が大きくなるに従い、求人情報(求人広告)のシェアが増え、逆に規模が小さくなるに従い、ハローワークのシェアが増え、両者の相補的な関係が伺える。

企業規模別の入職経路割合

転職入職者の割合を表した横棒グラフ(%)。出所)厚生労働省「雇用動向調査結果」(2012)から筆者が作成。

転職市場において、大きなシェアを持ち、公共サービス(ハローワーク)との一定の棲み分けが伺える求人情報(求人広告)事業だが、転職市場での果たす役割についてはこれまで、社会において十分に評価されてきたとは言えない。その機能面においても、専ら求職者が求人の情報内容を確認するといった単純なものとして捉えられてきた。

しかし、実際には、求人情報企業は、求人情報を単に提供するだけにとどまらず、掲載された求人が充足につながるよう様々な対応を行っている。

一つは、写真やコメントを活用して、事実確認にとどまらない、求職者に対する効果的なイメージ形成である。さらに、求人企業との接点を通じて求人者に求人要件・求人条件の設定等に対する支援と調整も行い、そして、給与等の情報を伝達し、地域の相場を形成していくといった機能も派生させてきた。

Web展開を通じた人材ビジネスの競争と共生による発展

求人情報は、もともと紙媒体による情報提供(広告)により発展してきたが、近年では、多くの求人情報企業がインターネット上でWeb展開を行うようになってきている。こうしたWebでの展開によって、紙媒体では叶わなかった、Web上で登録した求職者への就職支援やスカウトメールといった働きかけが可能になった。

Webによる求人情報事業が急速に普及する中で、求人情報企業にとって、求職者のWeb検索時に優位に立つことが重要な命題となり、求人情報の大手企業に対抗するため、新進・中堅企業は、自らの得意とするターゲットを明確化して市場をセグメント化(専門・分化)する中で優位をつかもうとする。大手企業も、こうした動向に対抗して、市場全体での大きなシェアを背景にしながら、セグメントごとの戦略を併せて指向するようになっていった。

こうしたWeb上の切磋琢磨の中での求人情報の急速な展開は、さらに新たなビジネスモデルも派生させた。

従来、求人情報事業は、求人広告としての掲載料を収入とするものであったが、近年になって、求人を掲載するところまでは無料で、求職者からその求人に応募があり就職が決まったところで料金を徴収する成功報酬・決定課金型の求人情報企業が現れ、急速にその業績を伸ばした。また、求人企業からの収入だけではなく、Webに登録した求職者の情報を、他の職業紹介事業者へ提供することによって収入を得るという方途も加わっていった。

こうした求職登録の仕組みが広がったことによって、ビジネス系の職業紹介事業者にとっても、いまや、求人情報企業からの求職情報の提供はビジネスを展開する上での欠くべからざる要素になっている。大手求人情報企業には、自らも職業紹介事業を行っているところが多いが、その利益率の高さ故に競争相手である200~300社の職業紹介事業者に対しても情報提供を行うようになっている。他方、職業紹介事業者の方でも、したたかに複数の求人情報企業から求職情報を受けるのが一般的である。

人材ビジネス企業の間に競争と共生が同時に展開しているのである。

都心と地方で異なる展開

Webによる展開が人材ビジネスの世界で急速に普及する一方、しかし、入職時インターネット利用率(就職活動のインターネット利用者は約4割、求人情報サイトの利用者は2割弱)[注2]を見る限り、求人情報サイトは、主要な転職の方法となっているとは言い難い。

特に、地方では、都心に比べ、高い専門性、職業的熟練を求める求人需要の比重が低く、また、正社員と非正社員の取り扱いの区分が明確ではない。こうしたことが、幅広く網羅的に地域内の求人を一覧しやすい求人情報誌等をより有効に機能させる。

都心の大手企業の多くが、地方への紙媒体への展開について投資効果の懸念から消極的であることもあり、こまめな営業・取材活動によって、長年の間に地域の信頼を形成した地元求人情報企業が地域のシェアを維持する等都心部とは異なる状況が生まれている。

革新・発展が進む中でも残るジレンマ

求人需要の拡大に伴い、人材ビジネス各社もその事業を拡大したいところだが、リーマンショックを経験した後では、いずれは求人需要が縮小することを念頭において、コスト、特に人的コストを抑えた事業展開を目指さざるを得ない。このため、コスト面で有利なWebによる求人・求職情報関連事業の展開に人材ビジネスはさらに力を入れていくことが予想される。

職業紹介事業は、マッチングにおいて引き続き有効な手段だが、同時に人的コストが大きいという課題がある。このため、職業紹介事業でも、求人情報事業と連携する形で職業紹介事業者(あっせん者)と、直接対面せず、メールや電話等の手段によってあっせんを受ける非対面型紹介といったより簡易で低コストの事業展開も試みられ始めている。

このように、人材ビジネスは、求人緩和期への対応という制約を意識しながら、今後も、競争と共生、棲み分けの構図の中で、革新・発展していくことが期待される。しかし、一方で、そのいく末には大きなジレンマも抱えている。

それは、事業の性格上、求人者の求める求職者を供給していくことを優先することになるが、その求人者の要望に応えることが、さらに難しくなってきていることである。

リーマンショク前後の転職者数の動向を見ると、リーマンショック後、転職数全体は大きく減少しているが、中高年層では、元々転職者数がこうした減少があまり見られず、リーマンショク後の不況期に大きく減っているのは、若年層なのである。

これを裏返しに見ていくと、求人需要の拡大期には、若年層の転職は進むことが見込めるが、中高年では、それほど転職は進まないということが予想される。

年齢層別転職者数の推移(2004-2013年)

年齢層別転職者数の推移を表した折れ線グラフ。出所)総務省統計局「労働力調査結果」年平均から筆者が作成。

年齢が上がるほどに、採用されるポジションも高く、即戦力として、専門性、職業経験や身につけたスキル・熟練といったスペック要件はより厳しくなる。

現在の中高年層においては、転職市場で求められる厳しいスペックに応えられる形で、自らの強みを整理し活かしていくといった、キャリアを形成してきた人々は極めて限られる。このため、求人増加期には、十分にスペック該当しなくても、ポテンシャル(潜在力)の高い、より若年層の採用による転職のみが増加する。

人材ビジネスにおいても、40歳代後半以降の層は、効率が悪い、取組みの難しい分野となっており、今後、さらに高齢化が進み比重の高まる中高年層を念頭に置くと、人材ビジネスそのものの活性化だけでは対応が難しいことが予想される。

人材ビジネスの活性化と併せて、転職市場において通用するよう企業内の人材育成・キャリア形成支援を充実していくことが必要であろう。

注1 「職業動向と職業移動に関する調査研究」の一環として、平成27年4月30日に公表した、研究報告書No.175『転職市場における人材ビジネスの展開』による。

注2 厚生労働省「雇用動向調査結果」(2012)による。